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料理をゲームにするために

 日曜日。ジュニアゲーム制作大会のエントリーを完了し、今はゲーム制作に勤しんでいる。とは言っても、VR料理自体で考えると、するべきことは少ない。


 昨日、自分の主観だけで完成したと判断した料理を出しても問題なかった。これなら、近江の感想を聞いただけで良いだろう。この時点で50品目ほどのラインナップになる。一店の食堂で出せるものとしては普通であり、体感する人も満足してくれるだろう。


 しかし、それだけでコナタは予選を切り抜けることが出来るとは思っていなかった。


 チャイムの音が鳴り、コナタは作業を中断して扉を開ける。


「待ってた。あんまり綺麗ではないけど上がって」

「お、お邪魔します」


 コナタはあることを助言してもらいたいために近江を招いたのだ。ゲーム会社重役の娘であり、本人もそれなりにゲームに関心を持つのであればこれほど参考になるリピーターはいない。


「綺麗ではないと言いつつ、しっかりしているのね」

「どんな部屋を予想してたんだよ」

「プチごみ屋敷」


 しかしながら、コナタとしては嫌な印象を持たれていたことに落胆してしまった。一体どこからコナタの衛生管理が不潔であるという結論に至ったのだろうか。


 学校にいる姿だって服装は寝ぐせもなければ制服のほつれもない。机の中や自分が使っているスペースは最低限以上に配慮している。


「男の人ってそんなものじゃない?」

「偏見だ。それじゃ、やっていけないよ」

「父さんは何とかなってるよ。単身赴任の時に見せてもらった部屋が本当に汚くて。幼い頃に出張の部屋に行った時は何か腐った果物みたいな甘い匂いもして」

「近江さん、それ以上はいけない。父親が可哀そうだ」


 近江の父の生活感のなさが露呈したわけだが、自分が知らないうちに評価を下げていると知れば快い顔はしないだろう。コナタは彼女を制止し、制作大会についての話題に変える。


「そんなことよりも今は大会だ。近江さんには数点ゲームを作るための意見が欲しい。無論ただでとは言わない」

「任せて。因みに見返りは何なの?」

「前に行ったパンケーキやあっただろ。それを再現したVR料理でどうかな」

「もちろんOK。それなら張り切ってやらなくちゃね」


 二人のやる気は十分。大会に向けてのゲームの構成について考える。


「それじゃ、VR料理をゲームとして開発する上で必要なことは多いと思う。まず、俺が考えられる上でVR料理をどうやって出すかだ?」

「どうやって出す?」


 コナタの言い分を理解しきれない近江。それを見て、コナタはゲームにおいて自分は本当に初心者なのだと痛感する。


 専門用語も知らなければ、ゲームの売り方も知らない。多少知識がある人からしてみればコナタの言い分は様々な捉え方があるのだ。コナタは可能な限り詳しく説明して理解してもらおうと努めた。


「そう。VR料理はゲーム開発者から見ても評価は高い。でも、作るゲームの内容を踏まえると正当に評価されないじゃないか」

「ああ、ジャンル決めってことね。RPGとして出すか、FPSとして出すかみたいな」

「そう、だと思う。俺としてはさっき挙げたRPGとして出す気はないけど」

「それで正解。この短期間でRPG作るなんて自滅行為ね」


 例えば、RPGで出した場合。VR料理はユーザーからしてみれば主な楽しみ方では副次的な楽しみと捉えられる。あくまで主軸はRPGにおける戦闘のゲームシステムやストーリーを見るだろう。


 コナタがRPGを作ったとしてもVR料理の良さを伝えられず予選でリタイヤしてしまう。VR料理を出す上で、どんなジャンルを選択するかは重要なことなのだ。


「なら、フィットネスゲームとして売り出せばいいと思う」

「フィットネスゲーム?」

「うん。ヴイスではあんまり有名なタイトルはないけど決してヒットを出せないジャンルじゃない。某配管工キャラで有名なメーカーなら実績はあるわ」


 フィットネスゲームと言われてもコナタは想像できなかったが、近江が言ったメーカーを聞いて理解した。

 2000年代に出た操作リモコンを振って遊ぶようなゲーム群が発売された時から有名になったジャンルで、年代層を気にせずに遊べるというのが大きな利点だろう。


 改めて考えれば、コナタたちが生きている2030年代のVRゲームにも影響を及ぼしたジャンルでもある。リモコンを振ってゲームを体で体感するというのはVRゲームでもユーザーが求める要素だった。


「これまでのヒットゲームタイトルを基にフィットネスのゲームを作る。その報酬としてVR料理を出したらいいんじゃない?」


 VR料理を食べるために運動をする。確かにVR料理とVRのゲーム性そのものを活かした制作方法だと言えるだろう。


 しかし、コナタは素直に納得することはできなかった。というのも、


「でも、それだとユーザーはフィットネスを主軸にして見てしまうんじゃないか」


 近江の言う通りに作った場合、コナタが衝撃を与えられるVR料理をユーザーが体感するのが遅くなってしまう。フィットネスありきのVR料理となってしまい、ユーザーの焦点はVR料理よりもこれまであったゲームを真似ただけのフィットネスに行ってしまうのだ。


 しかも、フィットネスゲームの種類や製作時間を考えると、苦労と成果があっていないようにも思える。


「……確かにそうね。VR料理が中心のゲームにしなければいけない、か」

「でも、報酬でって言うのは良いと思う。だから、最初にVR料理を食べさせてからっていうのはどうだろう」

「そうか。報酬がいいならガチャも取り入れた方がいいわね」


 フィットネスについては没になったが、報酬という点から話は進んだ。近江はそこからガチャを導入しようというのだが、コナタにはガチャ導入の理屈がわかりかねた。


「ガチャって、アイテムとか抽選で手に入れるあのガチャ?」

「うん。報酬は一定よりも変動した方が満足度は高いのよ。だから、最初に抽選をさせてVR料理を提供する。そして、抽選に必要なアイテムを入手するためのゲームを作る」


 ガチャを採用したのであればユーザーはVR料理を主な要素として見てくれるし、モチベーションも上がるだろう。コナタもガチャにおいては反論することはないと思った。しかし、懸念するべきところはなくなったわけではない。


「でも、そうなると抽選アイテム入手のためのゲームを作るのか」

「山県くんって結構面倒くさがりなのね」

「面倒くさがりというよりは臆病かな。2人が2か月で作ったゲームが1年以上は多人数で作ったゲームより面白いようにするのは難しい。だから、VR料理だけをユーザーには見て欲しいし、それ以外の要素はできるだけ削りたい」

「……なるほどね。ゲームの体裁はとるけど、ゲームとして普通に評価されるのは避けたいと」

 

 コナタが見て欲しいのはあくまでVR料理であって、VR料理を使ったゲームではない。

わざわざ作りたくないものを作って粗を出す必要はないと思っていた。しかし、ゲームとして成立させるために抽選アイテムを入手する近江もコナタの考えを理解し、妥協案を出してくれる。


「山県くんの意見はわかった。けれど、抽選アイテムを入手する方法はあるべきだと思う」

「俺もそれはわかるよ」

「だから、誰でもできる、誰もがしていることを抽選アイテム入手の条件にしよう」


 近江がコナタの意見を聞いて出した結論は、容易に抽選アイテムを取れるための仕組みを作ることだった。


「誰でもできる方法なら例えばパチンコとかコインゲーム。ボタンを回す、押すことで抽選アイテムを入手する。誰でもしていることは思いつかないけど。とにかく無意識にしていることで抽選アイテムを入手できるようにする。二つともゲームにおけるストレスを最小限にしてくれるわ。私としては具体的に思いつく前者を採用するべきね」


 博識な近江にコナタも内心脱帽した。彼女が言った仕組みならコナタの作ったVR料理を前に出しつつ、ゲームとしても必要最低限は成立する。


 懸念することもないわけではないが、ゲームの要素を削り取るのはここで限界だろう。


「……うん。うん、それで行こう」


 コナタも納得し、作業に取り掛かろうとした。


「待って」


 しかし、近江が自分で提案した案にも拘らず引き留める。コナタは不安なのだろうかと思い、自信がつくように説得する。


「大丈夫だよ。俺もそれしかないと思うし」

「本当にそう?」

「もちろん」

「でも、理想は違うんじゃない。顔に出てたよ。言いたいことは言いなよ」

「……」


 粒ほどしかなかった。それでも確かにあった不満を見透かされたことにコナタは黙ってしまった。


 近江を頼っておいて、最後に遠慮している自分がいた。信頼しきれていないコナタは自分自身が情けなくなってしまった。


 しかし、ここまで言われれば言わないという選択肢はない。


「近江さんに質問があるんだけどさ」

「うん」

「誰でもできる方法と誰でもしている方法だとどっちがストレスはない?」

「……多分、誰でもしている方法だと思う」

「だったらさ、そっちを探さない? 抽選もあるわけだしさ。ユーザーにこれ以上ストレスを与えるのはどうかと思うんだ」


 抽選は当たりが出た場合は嬉しいが外れると不快感はある。大きな満足感を与えるためには必要なことなので許容するしかない。だから、自分たちでユーザーに配慮できる部分はするべきではないか。


 今は方法が見つからず、これから見つかるとしても作り出す時間も多くない。それでも、コナタには捨てきれないのだ。


「……時間はない。けど、少しだけ考えてみないかな?」

「そんなこと私に聞かないでよ」


 否定されたかと思い、動揺するコナタ。しかし、それは奇遇である。


「山県くんがしたいようにすればいいよ。私も助けるからさ」


 近江はコナタがしたいようにすればよいと笑顔で言ってくれた。全幅の信頼を置いてくれたのだ。


 ゲームにおいて素人のコナタがその期待に応えられるかはわからない。しかし、保身で自分が出すものを妥協したくない。


 ユーザーにVR料理を食べて喜んでほしいから。


「わかった。それなら一週間。そこでできる限り案を出そう」

「わかった。協力する。それまではパンケーキもお預けでいいよ。達成した時の方が美味しいだろうしね」

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