87 封印 10
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに封印の地へ到着した。
だがそこへノブの兄弟子を名乗る老魔術師・マスタージェイドが現れ、魔人と化して一行を襲う。
レイシェル達は辛くもそれを撃退した――。
「‥‥いや、なんでお前さんが居るんだよ」
ジルコニアがリュウラを睨みつけた。
かつてレイシェルの旧友であり、今や魔王軍の刺客となっていた女魔法戦士。ショートカットの青い髪、青い瞳。すらりとした体にガデア騎士団の鎧を纏い、手には長い槍。
大きな瞳の透き通るかのような視線を、彼女は冷たくレイシェルへ向けた。
「私はレイシェルとの決着をつける」
なお彼女の乗って来た象頭の白銀級機・Sスクトゥムステゴドンはゴーズが乗って行ってしまった。よって今、リュウラが乗る機体は無い。出て行くなら徒歩しかない状況だ。
「でもリュウラ。貴女は私を助けてくれましたわね? そもそもなぜ私達が争わないといけないんですの?」
レイシェルがそう訊いても、リュウラはプイと横を向いて答えない。
「埒があかんな」
溜息混じりにノブはそう言った。
そして指を軽くふる。青い煌めきが舞い‥‥リュウラの表情が一転!
頭を抱え、大量の汗が額に浮かぶ。
「ぐお! おおぉぉ‥‥」
獣のように呻く少女。
ノブは何かを鷲掴みするかのように、右掌に力を籠めた。
「なかなかの抵抗力だ。が‥‥僕は地上最強の霊能者だ‥‥!」
読心魔術【マインドリード】! ノブの容赦ない魔力がリュウラの精神を襲う!
「ええ!? ちょっと! おやめなさい!」
レイシェルが大慌てで叫んでもリュウラの脳髄は恐るべき魔術から逃れられはしないのだ!
‥‥が、ノブが急に顔を抑えて膝をついた。
よろよろと頼りない足取りで近づいたリュウラが、へなへなのぐるぐるパンチでノブをぽかぽかと叩きだす。
「どうなってんだ?」
わけのわからない光景に呆然と呟くジルコニア。
へなちょこパンチを受けながら、ノブが苦しそうに漏らした。
「すまん、あまりに理解不可能なので眩暈が‥‥大勢の子と仲良くするとか、二人だけでお弁当を食べてくれなくなったとか、その理由はなんだ?‥‥そもそも昔は友人同士だったのだろうが」
頷くレイシェル。
「え、ええ。ガデア騎士団で初めてできた友達がリュウラですわ。でも他の友達ができるうち、なぜか付き合ってくれなくなって、勝負を挑むように‥‥」
――彼女の脳裏に浮かぶのは、入団したばかりの頃の思い出――
婚約者フレディのいる魔法騎士団に入団したレイシェルは、当然、彼を先輩として騎士団内の事を教わった。
だが彼は騎士団の若きエースでもあったため、様々な仕事を請け持ち、いつもレイシェルと一緒にいるというわけにもいかなかった。
それにレイシェル自身も、嫁ぎ先になるコノナ国の若き貴族の跡取り達と親しくなるべき‥‥と考えており、他に友人を作ろうとした。
だが外国から来て、婚約者しか知人がいない状況からである。
うち解ける機会を作るのも一苦労だ。
そんなレシイェルだったが、図書室で魔術の本を探す時に、テーブルの隅で一人きりの読書していたリュウラに話しかけた‥‥それがきっかけで一緒にいる事が多くなり、友達となったのである。
しばらくはフレディがいない時はリュウラに会いに行き、共に行動するようになった。砦の中だけでなく、近くの町へ出て案内もしてもらった。初めてできた異国の友人にレイシェルは浮かれ、ただ会うだけでも嬉しくなれた。
だが‥‥時が経ち、レイシェルは他の騎士達とも会話し、気の合う者達と一緒にいる時間が増えた。すると何故かリュウラはそのグループに加わろうとせず、次第にレイシェルと距離を置き始めた。
すっかり会話が無くなり、どうした物かと悩んでいた矢先――作戦行動の前にリュウラが挑戦するようになったのである。
――そのリュウラが、今、自分への刺客となって現れ、自分を助けてくれたという事実――
ノブは文字通り頭を抱えていた。
「挑んだ勝負で負けた直後は歯軋りしていたくせに、夜寝る前に枕を抱いて『さすがレイシェル』と嬉しそうに呟いているのは何なのだ‥‥頭の中に別人がいるのか?」
それに必死のローキックを連打するリュウラ。
足がフラフラで腰も入っていないため、ぺちぺちと撫でるような蹴りにしかなっていないが。
無論、ノブには全く効いていない。
ノブは脱力して膝をついた。
「毎日レイシェルが視界に入る位置にさりげなく居ながら、なぜ微妙に視線を逸らして目の端で眺める‥‥」
それに全力でスリーパーホールドをかけるリュウラ。
ぜぇぜぇと息をきらし、ただ後ろからしがみついているだけだが。
無論、ノブには全く効いていない。
顔を真っ赤にして無意味な攻撃を続けるリュウラを見て、エリカが「はは」と笑った。
「なんだ。結局レイシェルが好きなんじゃないか」
「‥‥!」
顔を真っ赤にしたままリュウラがついに背中の槍を構える。よろよろと頼りない足取りで。
だがエリカは親指を立てて笑顔を向けた。
「私もだよ! 助けてくれてありがとな。これからは力を合わせようぜっ!」
リュウラの動きが止まった。
槍が床に落ちる。そしてプイと横を向く。
「‥‥頼むなら、きいてあげない事もない」
「なんでお前さんが上からなんだよ」
ジルコニアが呆れ果てる。
だがエリカは嬉しそうにリュウラの肩を叩いた。
「おう、頼んだ!」
「私からもお願いですわ。リュウラ、もう一度私と一緒にいて頂戴」
レイシェルはリュウラの手をとる。
二人の顔を交互に眺め、やはり顔を真っ赤にしたままで、リュウラは視線を床に落とした。
だがはっきりと応える。
「‥‥うん!」
「これからよろしくな! よし、部屋を決めようぜ」
「私の隣が空いてますわ。そこでいいですわね?」
「‥‥うん、うん」
エリカとレイシェルに挟まれ、リュウラは何度も頷く。
その顔は一転して喜びに満ちていた。
三人の少女達は連れ立って格納庫を出て行く。
彼女達が出て行ってから、ジルコニアがげんなりした顔で呟いた。
「‥‥この流れ、今までで一番くだらなくねーか?」
ノブはまだ額を抑えていた。
「どう答えていいのかわからん‥‥」
オウキは腕組みしてニヤリと笑っていた。
「フッ。面妖な」
設定解説
・リュウラ=ファンデム
コノナ国の隣国のファンデム伯爵家の娘。
優秀な戦士や魔術師を何人も輩出した名門家系の娘であり、武術・魔術ともに幼少の頃から学んできた。
錬金術系魔法と槍術を修め、名高い魔法戦士団だったガデア騎士団に入団。
しかし生来から交友関係を広げるのが苦手であり、プライベートでは独りで過ごしていた。
そこへ外国から来たレイシェルが話しかけてきて、似たような境遇から親しくなる。
生まれて初めてできた友達に舞い上がっていたが、レイシェルは普通に人と付き合える人間だったので段々グループができていく。
グループの他の人間とはあまりうち解けられず、黙って集団の端にいる事が苦痛になってきて、やがて疎遠に。
独りに戻って時間に余裕ができたので、そのほとんどを費やして考えた挙句、レイシェルに勝負を挑み続けるようになった。
レイシェルが追放された日「仕方ないから一緒にスイデン国へ行ってあげよう」と独りで決意。
深夜までかけて旅支度をし、話しかけるセリフと騎士団脱退の手続き書とクイン家への挨拶と引っ越しする旨の実家への手紙を準備する。
よって翌朝は早起きできず、目覚めたらレイシェルが出て行っていた。
ベッドの中で独り泣いているうちに魔王軍陸戦大隊が攻めてきて騎士団壊滅。
部屋に乗り込んでくるオークどもを皆殺しにして窓から捨てているうちに、レイシェル捕獲の命令が出ている事を知る。
会話が苦手なので事態を知るのに苦労したが、ゴブリンどもを締めあげながら情報を集め、レイシェルが男と逃げている事をつきとめる。
静かな怒りに燃えながらレイシェル捕獲に参加。戦いに身を投じた。




