80 封印 3
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに封印の地へ到着した。
だがそこへノブの兄弟子を名乗る老魔術師・マスタージェイドが現れ、魔人と化して一行を襲う――!
時間も空間も超越した、意識の窓。
脳裏に浮かぶその光景は、はっきりと見るのはこれが初めての、しかしレイシェルが誰よりもよく知っている記録だった。
こことは違う時間、違う空間、違う世界。
そこで暮らす日本人の少女がテレビを見ている。
食い入るように、真剣に。
彼女が中学生になったばかりである事。
もともとアニメが好きではあった事。しかしまだオタクでもマニアでもなかった事。
少女漫画のアニメ化作品の情報目当てに、増やしてもらえたお小遣いでアニメ雑誌を買ったすぐ後だった事。
そして――雑誌の新番組紹介で興味を持った作品を、今まさに見ている事。
それを全部知っていたのだ。
前世の自分なのだから。
作品はロボット同士の戦いが終わり、ヒロインと主人公がメインの場面である。
「ああ、そんな‥‥それは、それはダメよ。いけないのよ‥‥」
レイシェルが頭を抱えても、既によく知る映像が映るのみ。
主人公が言った。ヒロインに。
『お前を殺してやる』と。クールな声で。
番組を見ていた少女のハートは、この時、完全に殺されてしまったのだ。
「や、やめて! 見たくない! 嫌!」
レイシェルが頭を抱えて身を捩っても、既によく知る映像が映るのみ。
ここからは一直線だった。
よくない番組だった。次々と出てくるメインキャラの少年も青年もタイプこそ違えど美少年と美青年で、ことごとく少女のハートを滅多打ちにした。
おかげでアニメ誌の定期購読者になってしまった。
番組のスポンサー会社も流石だった。ロボットアニメの最大手シリーズだというのに、プラモデルや超合金と同等以上にキャラグッズが作られていた。
もちろん少女は買った。集めた。ヒーローの筈の主人公がネコミミつけてるキーホルダーとか誰が買うんだという話だが、そりゃこの少女なのだった。
生まれて初めてアルバイトをやったが、この番組のキャラグッズ欲しさという理由は親には秘密だ。
そして、少女の道はさらに深くへと続いた。
「あーっ! あ、ああーっ!」
レイシェルが頭を抱えて床に伏せっても、既によく知る映像が映るのみ。
今までは夢で垣間見るだけであり、断片的に覗くだけだった物が、その全貌を赤裸々に見せつける。
それが真実である事を、誰よりも知るのがレイシェルなのだ。
本屋の一画で見つけた数冊の本。
それは少女に、それまで知らなかった世界を教える、知識の扉となった。
「ダメェ! 死ぬ! 死んでしまう!」
レイシェルが床に倒れ仰向けに痙攣しても、既によく知る映像が映るのみ。
(こんな‥‥彼と彼が‥‥こんな‥‥あ、愛し合って‥‥)
少女は興奮で目が眩みそうだった。
実際、眩んでいた。少女の王子様達の「愛」に。
「ああっ ダメ、ダメなのぉ!」
レイシェルが仰け反って絶叫しても、既によく知る映像が映るのみ。
『毎度ありー』
本屋の店員の声に送られ、少女は買ったばかりの本が入った紙袋を手に店を出た。
本は三冊あった。
持ってたお小遣いを全部衝動で使っちまった‥‥。
それからは色々あった。
本屋のそのコーナーにはしょっちゅう行った。店主に顔を覚えられるぐらいには。
絵の練習もしたし「小説」を書くことに挑戦もした。
非常に残念ながら周囲に同じ趣味の人間がおらず、水面下での趣味だったが‥‥少女にとって目くるめくような薔薇色の一年だった。
番組の最終回、少女は本気で泣いた。
泣いて泣いて泣きまくった。
親が心配して学校に相談しようとするのを止めるのに物凄く焦って苦労した。
しかし、世間は、世界は、少女を見捨てなかった。
さすがロボットアニメの最大手だ。番組は終わってもそれなりに商品展開は続いたのである。
小説も出たし、映画もやったし、そして――ゲームにも出演していた。
こうして少女は、生まれて初めてゲーム機とゲームソフトを買ったわけだが――
「あーっ! あーっ! あーっ!」
レイシェルが床に倒れ仰向けに痙攣しても、既によく知る映像が映るのみ。
(あーっ! あーっ! あーっ!)
またゲームオーバーだ。
生まれて初めてプレイする、SRPG。ロボットアニメのヒーローが多数集まる事が売りの作品を少女は購入した。
このジャンルでは難易度は低いという話だったが‥‥なにせドのつく初心者である。よくわからない単語が多すぎた。そしてシステムを理解しないままキャラクター目当てで進める事を想定しているゲームでもなかった。
少女の目当ての番組はほとんど新規参戦に近く、ゲーム開始直後から顔見世はしてくれた。
いつ少女の王子様達が使えるようになるのか、それを励みにゲームを進めた。
バカスカ撃墜され、しょっちゅうゲームオーバーになりながら。
一面クリアするのにセーブロードしつつ日を跨いで数時間かけ、半泣きになりながら、それでも時間とリアル根性でゲームをクリアした。
なのに目当ての番組で仲間になったキャラは二人だけ。しかも王子様五人組は敵として出てばかりで誰も仲間にならない。なりそうな会話はしたけどならない。
そして最終面。
ゲームは続編、完結編とへ続いた。
(大人って汚い!!!!!)
少女は激怒した。この邪知暴虐の作品を許してはならぬと決意した。
ただ彼女にはゲーム制作などわからぬ。大人にも色々とハプニングがあって、不本意な続編だったのだが‥‥情報をきちんと追いかけていれば先に知る事ができたのだが‥‥ゲームなんか全然知らなかった少女にはちと難し過ぎた。
なお、結局完結編は買った。
この頃にはちょっと慣れていて、攻略本という物の存在も知り、準備は完全だった。
敵の能力は少女の慣れ以上に上がっていたので、バカスカ撃墜され、しょっちゅうゲームオーバーになったが。
そしてついに、少女はゲームをクリアした――!
王子様達は期間限定で加入し、離脱し、終盤数面になってから復帰という扱いだった。
しかもルート次第で戻ってこない。
(大人って汚い!!!!!)
少女は激怒した。
そのシリーズにはもう手を出さなかった。というかゲーム自体に懲りた。本体もソフトも叩き売った。
その金は古本屋で「本」に使った。
情熱の青春時代。
煌めく時代は瞬く間に過ぎ、少女も大人になる。
若い頃の、甘く苦いノスタルジーを時々思い出すも、高校を卒業し、短大を出て、小さな会社で変わりない毎日を送って――
――時々出る思い出の作品のグッズにだけは目を光らせて――
――まぁそんな生活だったが。
それは呆気ない最期を迎えた。
かつて少女だった女性は、ある流行り病にて倒れてしまったのである。
医学の発達した世界での、まさかの疫病の流行。運悪くそれが蔓延した初期に、十分な対策が行き渡っていない時期だった。
今わの際に少女は走馬灯を見た。そして見るのは、思うのは――
(生まれ変わるってあるのかしら。別の世界に行く事とかあるのかしら‥‥)
自分の人生を決定的に変えた、生涯で一番好きな作品。そのキャラクターや場面が実生活の思い出より多かった。
多いというか九対一ぐらいというか。
どっちが九かというと当然――
「いい加減に‥‥しなさいですわ! おんのれぇ!」
レイシェルは激怒した。
前世の映像を見せるのに何の意味があるんや。
憤怒に目を吊り上がらせ、大股で神蒼玉に近づき、鷲掴みにする。
その宝玉に触れた途端、レイシェルの奥底に仕舞われた力が泉のように湧き上がって来た。
「えっ!?」
戸惑う彼女の中に満ちる力――次元のパワー・異界流!
そしてレイシェルは知った。
「私は‥‥いえ、240年前から、クイン家に生まれた者の多くは‥‥」
ぎゅっ、と神蒼玉を握りしめる。
「ご先祖様、騎士ダイザック様。レイシェル=クインは、貴方の遺産を確かに受け取りました」
神蒼玉は中空に映像を生み出した。
それはここへの門の、周囲の光景。
仲間達が悪鬼のような魔物と戦っている光景だ。
「ノブ‥‥!」
初めての仲間の名を口にし、レイシェルは背後の魔法陣へと振り返った。
「いきますわよ」
設定解説
・大人って汚い!!!!!
ゲームは、壮大な構想と緻密な計算のもとにつくられている物ですが、長く作り続けると、そこにヒズミやキズができてくるということでしょうか…。
大人は嘘つきではないのです。まちがいをするだけなのです……。
体調を崩して倒れたらその穴は簡単には埋まらないのです。
よって無罪である。




