79 封印 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに封印の地へ到着した。
だがそこへノブの兄弟子を名乗る老魔術師・マスタージェイドが現れ、一行を襲う。
魔術師はその身を変じた――。
老いた細胞が分裂増大し、筋肉が隆々と盛り上がる。
背丈が倍以上に膨れ、黒く硬い剛毛が全身を覆う。
頭部には三本の巨大な角が生え、吊り上がった眼は凶暴な輝きを帯び、耳まで裂けた口には血に飢えた牙がびっしりと生えている。
鬼、悪魔、獣人‥‥どう呼ぶのが相応しかろうか。
体を覆う鎧は、魔法の武具なのか、自身の皮膚が高質化した物なのか。
そして臍の位置には、座金にはめ込まれた神の宝玉が輝いているのだ。
変身を終えたマスタージェイド。
それを見て、ゴーズは呆れたようだ。
「御大層な事を言って、そんなバケモノになりたかったわけか。ワシは人間を超越したのだぁ‥‥とか言うパターンがやりたかったのかよ?」
油断なく身構えながらオウキも言う。
「あるいは、老いと死を前に不老長生でも欲しくなったか」
マスタージェイド‥‥いや、魔人ジェイド。それは裂けた口を歪ませ、嗤った。
「どちらも違うな。多少近いかもしれんが、根本的に違う」
「だったらなんなんだ‥‥」
オーガーハーフエルフのエリカが食ってかかるように言う。
だがその言葉が終わらぬうちに――
魔人ジェイドは地を蹴り、踏み込んでいた!
だがゴーズがほぼ同時に地を蹴り、迎え撃った!
「ストロンガーホーン!」
ゴーズの腕が輝き、内的宇宙パワーを籠めた光速拳が叩きこまれる!
「ファイヤーストーム!」
魔人ジェイドがそう叫んで繰り出したのは、右腕による拳撃だった。
その拳は灼熱の炎を纏っている!
光と炎が激突し、そして‥‥
「ぐあっ!?」
「おっさん!」
煙をあげて吹き飛ばされたゴーズが近くの岩にめり込んだ! ジルコニアが悲鳴をあげる。
しかしその時、魔人ジェイドの頭上に跳んでいる影があった。
オウキの空中殺法、天からの強襲。
「舞葬琉拳! 連斬首壊!」
跳び足刀と手刀のコンビネーションが敵の頭部を叩きのめす必殺拳!
だが刹那の間に、魔人ジェイドは頭を、そこから生えた角を振り回した。そうしながら叫ぶ。
「デスライト!」
角が破壊エネルギーで不気味な光を帯びた!
そして、オウキは再び天に舞った。
ミキサーのごとく振り回される角と破壊エネルギーにより、全身をズタズタにされて!
「オウキ!?」
エリカが叫ぶ中、オウキは地面に落ちた。
軽くバウンドし、血と呻きを漏らす。
二人を吹き飛ばした魔人ジェイド。
だがその胸に、その首に、二人が叩き込んだ打撃の跡があった。
大地を砕く拳、鉄をも裂く技。それは確かに当たっていたのだ。
当たりはしたが、効いていないのだ‥‥!
その魔人ジェイドの前に、今度はノブが進みでた。
軽く指を振ると、青い煌めきが粉のように舞う。
それを見て、魔人ジェイドは‥‥笑った。
「カカカ‥‥つまらぬ呪文を使うのだな」
詠唱も無しに使われる呪文が何か、見てわかったらしい。
そしてノブの前に、陽炎のように揺らめく膜が現れた。
それを潜り、鏡面界から【サモンイリュージョン】の呪文で魔物が召喚される。
巨人、というべき大きな影。だがそれは黒い影がマントかローブのようにはためいているのだ。
裾から青白い両腕が出ているが、その他の肉体は無い。宙に浮いていて足も無い。頭にあたる部分には両目が輝くが眼球は見当たらない。
正体不明の幻影巨人・ファンタズム‥‥。
命を奪う冷たい両腕がするすると伸びた。
狙われながら魔人ジェイドが叫ぶ。
「コンジュレイション!」
星のごとき煌めきが膜となり、そこから魔物が現れた。
青い巨体。ねじくれた角。鋭い爪と牙。蝙蝠のような翼。
これこそ太古の昔より恐れられてきた上級悪魔・グレーターデーモン‥‥!
デーモンは幻影の巨人へと踏み出した。戦い、それを葬るために。
だがその肩を後ろから、召喚者である魔人ジェイドが掴む。
「‥?‥」
デーモンはその意図がわからず、後ろへ振り返った。
デーモンの巨体が宙に浮いた!
魔人ジェイドが両手でリフトアップし、持ち上げたのだ。
意味不明な行動に、地獄から来た筈の大悪魔が、混乱し手足を振り回す。
しかし魔人ジェイドはそれに構わず――
デーモンを投げつけた!
デーモンの巨体は真っすぐファンタズムへ激突する!
二体の巨大な魔物は、絡み合うようにして共に谷底へ落ちた。
両者の怒りと恐怖の咆哮が谷間に響き、巨大な魔物が消える‥‥。
呆気にとられるジルコニア。
「そんな使い方するか!?」
召喚された大悪魔は、召喚された異次元の怪物を道連れに消えるための砲弾替わりに呼び出されたのだった。
ファンタズムを召喚したノブも当然巻き込まれ、谷底へ落ちた。
その筈だった。
だがしかし。
その姿は魔人ジェイドの横にあった。
ノブはファンタズムを囮にし、岩の影を走ってジェイドに肉薄していたのである!
元々そのつもりで召喚したのだ。
左手側から低い姿勢で突っ込むノブ。
それをジェイドは腕を振り回して払う。
予想外の動きに対応するため、この迎撃に魔力は使われていなかった。
その腕がノブを打った――と思いきや、ノブの姿が消える。
いや、ノブの姿はあった。
消えた姿の周囲に、いくつも!
「ぬう!」
幻影分身の術だと魔人ジェイドが悟った時、ノブは渾身の肘打ちを敵の腹に見舞っていた。
【ブリンク】――幻影呪文の一種、分身の術。術者の姿を近距離に複数映すだけの限定された効果しかないが、戦闘用呪文として完成されており、術者が激しい戦闘を行いながら精密な分身を造り出す事ができる。
狙いは腹に輝く神蒼玉。
それが体から外れれば、この変身は、その身に宿る力はどうなるか?
それは宝玉が弾き飛ばされればわかる!
そしてノブの肘打ちは、狙い過たず宝玉を横から打っていた。
設定解説
・グレーターデーモン
地獄から現れる上級悪魔。
巨人族並の体格、並の剣より鋭い牙と爪、凶悪な毒素、高レベルの呪文を使いこなす魔力、ほぼあらゆる呪文を跳ね返す呪文無効化能力‥‥と、隙や弱点の無い強力な魔物。
太古の昔より人間達には恐れられ続けていた‥‥ケイオス・ウォリアーが実用化されるまでは。
今でも腕の立つ冒険者達でさえ戦いを避ける‥‥ケイオス・ウォリアーが入れないダンジョンでは。
今日も彼らは深いダンジョンの底で、次の犠牲者を待ち続けているのだ‥‥生身で挑んでくれる奴限定で。




