56 苦難 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
道中で数々の仲間を加える二人だが、そのうち一人はレイシェルの兄の仇であった――!
ノブはブリッジに戻った。
躁艦のため、何人もの乗員があちこちに座っている。
レイシェルの姿は無い。
ノブが来た事にオーガハーフエルフのエリカが気づいた。
「なんか最近、レイシェルが塞ぎこんでるぞ」
彼女の言う通り、レイシェルは自室にいる事が多くなっていた。
きっと今もそうなのだろう。
ノブのマントの陰からジルコニアがひらひらと宙に舞う。
「打ちのめされてた奴に情けかけてやったら立ち直って仲間になったけど、そいつが兄貴の仇だったからな」
そう言うと、両手を腕枕のように頭の後ろで組んだ。
「助けてやったんだからお礼に首を出せ、と言えるならもう解決してんだけど。お嬢はそういう奴じゃないしなー」
(それだけではないだろう)
ノブは一人、考えていた。
(元婚約者が敵軍に寝返り、同胞狩りでのし上がって、なんだか頭がおかしくなっていた。あのショックもかなり大きかったはず。どちらか片方だけなら、まだなんとかなったのかもしれないが‥‥)
レーダーを見ていたモヒカンエルフがノブへと振り向く。
「いっそオウキを魔王軍に渡しますかい?」
ノブはメガネをくいくい弄りながら「ふむ」と呟いた。
「こっちが手を下すわけではなく、レイシェル殿の兄の仇も討て、因果応報で事が収まる。最善手に思えるな?」
(それで問題が片方消えるなら‥‥)
そう考えるノブの後ろで、ファティマンのシランガナーが無言で頷く。まぁ胸中の方にまで賛同したわけではないだろうが。
しかし壁際のモニターにスイッチが入り、格納庫のドリルライガーが映った。
『そうでしょうか。自分は上手く言えませんが、今のオウキは命まで奪われなければならない相手とは思えないであります』
それを聞いて、ノブは顎に手をあてて考える。
「まぁ司法の人間でもないのに、直接の恨みが無い者が正義ぶって断罪する必要もない――それもまた道理だ。レイシェル殿が決定するまで保留にしてもいいだろう。もっと大切な目的が我々にはあるのだからな」
それを聞いて、エリカは「はっ!」と気づいたようだ。
「そうか。神蒼玉を手に入れるんだもんな。封印の地まで、あとどれぐらいなんだろ」
さらりと答えるノブ。
「邪魔が無ければ二、三日で着く」
「え!? 近え!」
目を丸くするエリカ。
しかしノブは落ち着いたものだ。
「スイデン国の外のちょっと行った所だからな。別に地の果てまで行くわけじゃない」
「そっかー。じゃあ案外、もうすぐ手に入るかもしれないんだな。そしたらスイデン国へ持って帰って、めでたくレイシェルとノブは英雄か!」
わくわくしながら目を輝かせるエリカ。
だがノブは「どうかな」と呟く。
「レイシェル殿には既に伝えてあるが、神蒼玉を手に入れたら、直帰せずに別の所へ寄るかもしれん。まぁ場合によっては、の話だが。それにまだ油断はできない。国外に出れば、敵も堂々と好きな規模で好きに攻撃を仕掛けてくる事ができる」
「じゃあ国境を出たら注意だな。もうすぐか?」
納得し、改めて訊くエリカ。
それにもノブは静かに答えた。
「MAPを見るんだ。もう出ている」
「え?」
壁際のモニターへエリカが振り向くと――確かに、国境を示す線の外に、クラゲ艦Cオーウォーを示すアイコンが点滅していた。
その側に赤いアイコンが点滅しているのも。
「あ、それ、確か‥‥」
レーダーを見ていたモヒカンエルフがマニュアルをぱらぱらと捲った。
「あー、やっぱ敵を示すアイコンでさ」
「じゃ敵襲なんじゃねーか?」
別のエルフ(ホッケーマスク)が呟いた。
一瞬遅れて騒ぎになるブリッジ!
――艦内に響き渡る敵襲警報を聞き、レイシェルは大急ぎで自室から飛び出した――
格納庫に走り込むレイシェル。エルフの作業員達は大急ぎで作業しながら発進準備を進めている。
レイシェルのSエストックナイトの前にも、作業員達と――ノブもいた。
ノブはレイシェルの姿を見ると、足早に近づいて来る。
「レイシェル。魔王軍が近づいている。その中にマスターナイト――君の元婚約者も確認された」
ノブのその言葉に、レイシェルの顔がサッと青ざめる。
一瞬口籠って――彼女の目がキッとノブを見た。
「わかりました。でも、私は行きますわ」
それを聞いて、ノブは頷いた。
「君ならそう言うと思っていた。そのために準備もしてある。悪いが装備アイテムを勝手に変えさせてもらった」
ノブはエストックナイトを指さす。
「まずファティマンは装備させる」
ノブの後ろで「うす」と頷くファティマンのシランガナー。
(こいつは変えてくれませんのね‥‥)
内心、ちょっとがっかりなレイシェル。
そんな気持ちを知る事もなく、ノブは続ける。
「もう一つは【レスキューマシンナリー】だ。装備する事で修理装置と補給装置を使用する事ができるようになっている」
「支援、というわけですの?」
レイシェルは訊かずにおれなかった。
支援にまわるという事は、直接的な戦闘力を期待されていないという事でもある。
そしてそれに、はっきりと、ノブは頷いたのだ。
「そうだ」
と。
ぐっと唇を噛むレイシェル。
そんな彼女にノブは言う。
「慰めだとも誤魔化しだとも思ってくれていいが、あえて言う。誰しもあるんだ――調子の悪い、力のでない、スランプに陥っている時が。君は今、そうだ」
そう言うと――ノブは背を向け、走った。
己の機体、Eムーンシャドゥへと。
その背を見ながら、レイシェルは憤るように手を震わせ‥‥だがすぐに項垂れた。
「仕方が、ありませんものね」
設定解説
・こいつは変えてくれませんのね‥‥
時々、後頭部に生暖かい息があたるので少し気持ち悪いのだ。
なお「息」と表現はしているが、人造人間であり演算処理補助回路のファティマンは呼吸する必要は無い。よってなんとなく生暖かい温度と湿度になっているだけの排熱温風である。




