55 苦難 1
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
道中で数々の仲間を加える二人だが、そのうち一人はレイシェルの兄の仇であった――!
ラヒノの街を離れた、後日。
レイシェルとノブは艦内の独房に来ていた。
軟禁されている者に会うためである。
「何を考えてこんな所にいるんですの?」
独房の中へ声をかけるレイシェル。
寝台に転がったまま、オウキが面倒くさそうに言う。
「一番相応しいと思ったからだがな。それとも処刑の時でもきたか」
オウキは自ら独房に入ったのだ。
「殺される覚悟があるなら、なぜ生きてますの」
レイシェルの声に怒りと苛立ちが混じる。
オウキは「フッ」と笑った。
「自害でもしろと? 俺はそんなお人好しではない。死んでもいいが今日は生きている‥‥そんな事は俺の世界では当たり前の事だ」
「どんな世界で何をしていたんですの?」
そう訊くレイシェルは、今の所、危害を加える様子は無い。
剣の柄に手をかけもしない。
そんな彼女を、オウキは独房の暗がりから横目で見る。
「聞いてどうする」
レイシェルは答えない。
オウキを睨みながら、ぐっ、と唇を噛む。
その横にいるノブが冷たい目を向けながら言った。
「捕虜を尋問するのはおかしい事ではない」
オウキは「なるほど」と呟くと‥‥天井を見つめ、静かに話し出した。
「俺は舞葬琉拳の道場にいた‥‥。
――とある地球、科学文明の発達した西暦1970年代のこと――
子供の頃から、俺は住み込み弟子という奴だった。
だから道場が家同然で、周りにいたのは拳の道を同じくする門弟達。
俺はこの拳を極めるべく稽古に励んでいた。
住み込みの兄弟弟子に、俺と同じ歳の奴が一人いた。
そいつと共にな。
俺達は共に修行し、何度も組手を行い、時に負け、時に勝ち‥‥たまに他流派の連中と喧嘩もしたか。
無論、俺達は負けはしなかったが。
まぁ罰は受けた。だがしょせんはガキのじゃれあい、立たされて鉄拳制裁ぐらいのもの。深刻な事もなかった。
くだらん笑い話よな。
――西暦1980年代に入り――
拳の腕は歳とともに上がった。
同年代から抜きん出て、弟弟子達を引き離し、兄弟子達をさえ追い越した。
あの青春の中、俺の目標は免許皆伝し、師匠の後継者となる事になった。
この拳の継承者となるため、俺は修行に明け暮れた。
同じ歳の住み込み弟子の‥‥あいつも腕がたった。俺と互角だった。
俺をおいて継承者となる男がいるとすれば、あいつだけだった。
だがその頃には、俺達は組手を禁じられていた。
師匠にはわかっていたのだろう。
俺が何を考えていたのか、な。
だが。
ついにある日、俺達は試合を行った。師匠のいない隙に。
俺が挑んだのだ。
あいつは断った。
だが俺はあいつに襲いかかり、なし崩しに戦った。
兄弟弟子達には、もう俺を止める力など無かった。
しかし、結局は止められた。
師匠が意外に早く帰ってきたのだ。
継承者が決まったのは、その翌年の事だ。
選ばれたのはあいつだった。
納得いかず、俺は荒れた。
その夜、街に出て浴びるほど呑んだ。
だが酔いながらも肚は決まっていた。
師に問いただす。納得できん回答ならば、俺の腕を見せる。師匠に直にか、あいつを相手に戦ってな。
だが、次の日だったのだ。
世界は核の炎に包まれた。
俺が道場へ戻れたのは、一月近くが経ってからだった‥‥。
道場も消えていた。
だが‥‥門弟達にもかろうじて生き延びた者達がいる事を、だが師は死んだ事を。
そして流派の指導者となり、安住の地を探して旅しているのがあいつである事を。
俺は焼け跡を流離い、情報を集めて知った。
俺は歓喜した。
喜んであいつに会いに行こうとし、探し、後を追った。
戦い、命をかけ、最後まで、徹底的に決着をつけるために。
それが許される世界になっていたのだからな。
暴力で全てを押し通せる無法の荒野。生き延びた人間の大半は暴力に狂い、略奪で生きる世界。
世界は、俺にとって最も都合良く生まれ変わったのだ。
あいつを追いながら俺は戦った。実戦の中で無数の敵を血祭にあげた。
腕を磨き、あいつに勝ち、この拳を極めるのが俺である事を証明するために!
そして‥‥この世界インタセクシルに引っ張り込まれた。
あいつと戦う前に。会う事さえできずにな‥‥。
元の世界に送り返す魔法の存在は噂や伝説の類だという。
だが‥‥それは皆無という事ではない。俺はそこに一縷の望みをかけた。
だから最も強大な組織で、魔王軍で地位を得て、その情報を求めた。
そのための仕事が侵略の尖兵だろうと、それはどうでも良かった。
敵と戦って殺すのも、腕を磨く一環でしかなかった。
俺はひたすらに戦った‥‥!
――その中で黄金級機の設計図を巡る戦いになり――
そして‥‥まぁ、この体たらくだ」
長い話が疲れたのか、オウキは「ふう」と溜息をつく。
そして、鉄格子の外にいるレイシェルを見た。
「可哀想で、同情できるような過去でも出てくると思ったか?」
レイシェルは、俯いて、手を震わせ――何か言おうとして――結局何も言えずに――独房の前から、足早に去った。
通路を響く足音はすぐに遠ざかり、消える。
オウキはしばらく廊下を眺めていた。
そしてまだ残っているノブへと目をやる。
「お前のお嬢様は何がしたいんだろうな?」
冷たく、鋭い目をオウキへ向けるノブ。
「お前を殺したいと殺したくないの両方があるだけだろう。生きたくないが生きたいお前にも、少しはわかりそうなものだが」
設定解説
・次の日だったのだ。世界は核の炎に包まれた。
つまりシェルターに逃げ込む前日までは普通に暮らしていた筈だ。
まぁ戦時下の普通なので、現代日本と同じではないだろうが。
つまり核が落ちる規模の戦争になれば、手持ち武器・防具・バイクとガソリン・モヒカン用整髪剤・農民用ボロマントなどは前日までの普通の暮らしで用意する事になる。
やはり戦時下ともなれば人心も荒れるという事であろう。
平和が一番だ。




