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52/114

52 過去 6

売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。

そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。

敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。

勇者ドリルライガー、元魔王軍の武闘家オウキ、エルフの作業員達を仲間にし、二人の旅は続く――。

 周囲一帯を焼き払う高熱波。

 眩いその光が収まった時‥‥溶けて歪む大地の上で、Eムーンシャドゥとドリルライガーが煙をあげて膝をついていた。

 クラゲ艦Cオーウォーは宙に浮いているが、何本もの触手が焼け落ち、本体部分が溶けて爛れている。


 大ダメージを受けた三機を前に、改造怪獣メタルアントライオンが再び動く。


『先ずはお前だ‥‥処刑は! 私がしてやる!』

 操縦者、レイシェルの元婚約者フレディ‥‥転じて魔王軍の親衛隊マスターナイトは、興奮して高揚した声を上げた。

 怪獣の巨体が走る。

 大顎が突き出され、獲物――クラゲ艦を刺し貫いた!


「あ、ああ‥‥!」

 絶望にレイシェルが声をあげる。


 クラゲ艦はぐらりと揺れて‥‥


『フッ‥‥危うい所だった。今までならやられていたな』

 オウキの声と共に、なんとか体勢を立て直した。

 焼け溶けた表面が徐々に剥がれていく。その下から覗くのは新しい外皮。


 ラヒノの街まで移動する間、ノブの指示の下でエルフ作業員達は艦に強化改造を施していた。

 そして5段階目の改造を終え、クラゲ艦はカスタムボーナスで特殊能力を得ていたのである。

 それが【HP回復(小)】と【EN回復(小)】――再生能力と回復能力なのだ。

 時間経過とともに、Cオーウォーは損傷と消耗を回復できるのである。


 その再生能力で、際どい所で激しい攻撃に耐えたのだ。


舞葬琉拳(まいそうりゅうけん)・落天乱鞭!』

 かけ声とともに繰り出される触手の連打。

 密着して避けられないアントライオンを容赦なく打ちのめす!


 その間にドリルライガーが立ち上がった。

『まだ、やれる!』

 その声と共に再びドリル戦車へ変形し、突撃して怪獣の装甲を穿った!


 仰け反るアントライオン。

 だが次の瞬間、大顎を振り回して2機を跳ね飛ばす!

 クラゲ艦は街の防壁へぶつかり、ライガーは地面を転がった。


(パワー差が大き過ぎる! 合体できれば‥‥)

 無念を噛み締めるドリルライガー。

 この世界のケイオス・ウォリアーに比べても小柄な彼は、これまで粘り強い根性で打ち勝ってきた。

 だがそれでも埋められない差で吹き飛ばされた――まるで小枝のように。


『お前達など、陸戦大隊最強の親衛隊に、この私に通じるものか‥‥』

 低く唸るマスターナイト。

 次の獲物を求め、大顎がゆっくりと動いていた。


 ムーンシャドゥがぬかるんだ地面を踏みしめて立ち上がる。

 ノブの声を通信機ごしに届けながら。

『ああ、通じないだろう』


 レイシェルは信じられなかった。

「ノブ!? 諦めるというの?」

 いつも自信を持ち、常に状況を打開してきた彼が?


 果たして、ノブの答えは。

『そんな選択肢は僕には無いな』


 ムーンシャドゥが両腕を腰溜めに身構える。

『通じないのは‥‥敵の戦意(モラール)が極限まで上がっているのに、こちらはそこまで高まっていないからだ。しょせんはその気力差によるもの』

 その言葉とともに、ムーンシャドゥの全身が輝きを増した。

『だからそれを埋めれば十分に通じる。そして僕にはそれができる』

 精神を、スピリットコマンドを全力で使うノブ。

 モニターに表示される戦意(モラール)が急激に上昇していく‥‥!


 ジルコニアが笑った。

『へへ、SPのドカ減りがSP回復の速度を上回ってんぞ。ここで使いきる気かよ』

 だがノブは黙ったままだ。

 対してムーンシャドゥの全身は増々琥珀色の輝きを強める。


 マスターナイトが吠えた。

『小細工を‥‥そこまでしてレイシェルに付きまとうか! 下郎!』

 大顎を突き出し、シャドゥへ突進するアントライオン!


 ノブは叫んだ。

『魔王剣!』

 シャドゥがマントの陰から魔剣を引き抜く。

 真紅の刃にも、シャドゥの輝きがオーラとなって纏わりついている。


 刃が閃光となった!

 大顎より先に相手の体を捉える。

 恐るべき硬度まで高まったその装甲を、魔剣は深々と切り裂き、その体に食い込んだ。


 血飛沫が噴き出る。

 アントライオンの勢いが失われ、動きが止まる。

 そして、怪獣は‥‥


 眼に強烈な光が宿り、咆哮をあげて暴れ出した!


『耐えられた!』

 エリカが驚愕に叫ぶ。


 密着しての反撃受けるのは、今度はムーンシャドゥだった。

 その機体を襲う、白熱した大顎!


「だめぇ!」

 レイシェルが悲鳴をあげる。


 しかし、そんな声は無意味だった。

 シャドゥの胴体を巨大な顎が挟み、噛み砕いたのだ‥‥。


 いや、そうしようとしたのだ。


 熱波で焼かれた装甲は、亀裂を走らせながらも、大顎の力で砕く事はできなかった!

 操縦者の怒りと憎悪でこれ以上なく力を得た、その上で。

 マスターナイトが驚愕する。

『なんだとォ!』


 ノブは本当に全ての精神力を使い切ったわけではない。

 短時間の間、被ダメージを1/4に軽減するスピリットコマンド【プロテクション】。

 致命傷を一撃耐えるだけの防衛手段。それを実行するだけの最後の余力は残していたのである。


『わかっていた事だ。貴様が耐える事も、この一撃が来る事も。そして‥‥この一閃で終わる事も!』

 ノブの叫びとともにムーンシャドゥの腰部にある強化パーツ装備スペースから光が漏れた。


【ブレイブドライバー】――勇気の輝きが一瞬だけ操縦者と機体に爆発的な力を与える!


 大顎に挟まれたまま、ムーンシャドゥが増幅された力を刃に籠めた。

 頑強な装甲を切り裂き、巨体を断ち割り、激しい血飛沫を意に介さず、もがく抵抗を押しきって、魔剣の刃が怪獣の体を斬り下ろしきった。

 縦に断たれた体が千切れつつ――巨体が倒れ伏した。


 シャドゥが剣をふり、血を掃う。

『僕は‥‥地上最強の霊能者(サイオニック)、だ‥‥!』

 疲労の色濃いが。ノブのその声は、通信機から皆へ届いた。


『やった! やったじゃんか!』

 歓声をあげるエリカ。

 皆の間に安堵が広がる。


 だがしかし。

 動いた。

 その場の皆が見て、誰も信じられないが。

 伏した怪獣の体が、確かに蠢いたのだ。


『そんな!? 表示されてるHPは0だぞ!』

 いつもふざけたように笑っているジルコニアさえ焦って叫ぶ。

 だがアントライオンは動いているのだ。


 地の底か、地獄の底か。

 深い所から響くような怨嗟の声。

『レイシェル‥‥逃がさない、ぞ‥‥』

 マスターナイトの声。

 アントライオンが上体を起こす。その体が白熱する‥‥!


 そして怪獣の体は――千切れた半身を残し、土を溶かしながら顎を突き立て、地中へと潜って行った。


 振動が弱まっていく。

 改造怪獣とその操縦者は、恨み言とは裏腹に逃げたのだ。

 それを止める力など、もはやこの場の誰にも無かった。


『嘘だろ‥‥』

 信じられずに呟くエリカ。

 ノブが深い深い溜息をつく。追撃する余力など無い機体の中で。

『HPが0というのは、1未満という事、戦闘不可能という状態でしかない。普通は機体がもたずに破壊されるが‥‥そうでない例外も稀に有り得る』


『バケモノだぜ、もう』

 わかりきった事をジルコニアが吐き出すように言った。


 怪獣の潜った跡を、レイシェルは操縦席のモニターで眺めていた。

「フレディ‥‥貴方という人は‥‥」

設定解説


・メタルアントライオン

巨大昆虫型モンスター・ギガンティックアントライオンを魔王軍が捕獲し、改造したもの。

改造魔獣ではあるが操縦席を取り付け、乗り込んで操作できるようにしてある。これにより完全に思い通りの行動を常にとらせる事ができるようになった。

ただしケイオス・ウォリアーと違い生物の脳神経と一体化して操作する必要があるため、操縦者も改造処置を受ける必要がある。

地中移動能力と熱線発生器官をもつが、最大の武器はその大顎。元から捕食範囲内に入った物を全て噛み砕いて餌とする魔物であり、それはそのまま改造後にも強力な武器として扱われる。


基礎ステータス(強化改造や装備するアイテムにより、この数値は変化する)

HP:20000 EN:200 装甲:2000 運動:90 照準:155

射 熱線(MAP) 攻撃3000 射程・自機中心1―5

格 熱線    攻撃3800 射程1―7

格 大顎  攻撃4200 射程P1―3

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― 新着の感想 ―
[良い点] アレですな、HP0にして撃破した中ボスが撤退するというやつ(笑)。 [一言] EN回復(小)が付いたということは、前に書いてあったような「陸上でEN0になったら粗大ゴミ状態」(笑)は回避で…
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