51 過去 5
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
勇者ドリルライガー、元魔王軍の武闘家オウキ、エルフの作業員達を仲間にし、二人の旅は続く――。
怪獣の太い腕を間一髪で避ける、オウキのBソードアーミー。
だが掠めた爪先により、足のパーツが裂かれて吹き飛ぶ。
「クッ! パワーの差は埋まらんな‥‥」
操縦席のオウキが、額に大粒の汗を流す。
だが十分に善戦していると言えるだろう。
戦いの場は砕けて破れた街の外壁のすぐ側。街の外へ移っているのだ。オウキが敵と戦いながら誘い出したからである。
代償に、アーミーは左腕を失ってしまっているが。
一方、怪獣の操縦席でレイシェルの元婚約者・フレディが吠えた。
『レイシェルを返してもらう! お前は死ね!』
装甲で覆われた巨大なアリジゴク‥‥その大顎が白熱する。陽炎が揺らめき、顎の間から熱線が撃たれた。
アーミーは‥‥脚部が破損したため、機敏に避ける事ができない!
だが大地が突き破られ、射線上にドリル戦車が飛び出した。
『やらせません!』
叫んで熱線を自ら食らうドリルライガー。
その威力に装甲が溶解し、激しく弾き飛ばされる!
だがそのおかげで、アーミーは熱線を受けずに済んだのだ。
そのアーミーに通信が入る。
『早くこっちに来い! 操縦を変わって!』
エリカの声だ。
街の外壁の上を、浮遊して通過する巨大なクラゲ艦。レイシェル達を収容し、救援に来たのである。
当然、ノブとレイシェルは格納庫の中で発進準備を終えていた。
自機Sエストックナイトの操縦席でモニターをONするレイシェル。
「行きますわよ」
その言葉に無言のまま頷く、座席の後ろで腕組みして立つファティマン・その名もシランガナーの銀色の姿。
弾丸状の頭には何本ものケーブルが接続されていた。
「‥‥ちょっと気が散りますわね」
顔をしかめて小声で漏らすレイシェル。
だがそれはともかくエストックナイトは格納庫から飛び出した。
宙に浮く艦から地上へ降り立ち、怪獣へ向けて身構える。
その姿に、通信機から怒声が飛んだ。
『レイシェル‥‥私に逆らうかあ!』
『そりゃ従うわけねーだろ。自分から捨てといて何言ってんだアイツ』
別の声――ジルコニアの呆れた呟きも通信機に入る。
そして、艦からのエリカの声も。
『レイシェル!? 戦意がメチャクチャ下がってんぞ?』
操縦者の気力表示でもあり、機体のパワーや装甲強度へダイレクトに影響する戦意の値。
レイシェル機の現在のそれは60と表示されていた――50~150で変動する値としては、ほぼ最低の数値である。
『逆にあっちは凄いパワーだぞ』
ジルコニアが指摘した。怪獣のデータを表示させながら。
その名前はメタルアントライオン。表示された戦意値、実に170!
常人の限界を超えた値である。
『私は魔王軍陸戦大隊最強の親衛隊! マスターナイト! 邪魔をする者は生かしておかん! 地獄へ行けェ!』
吠えるフレディ‥‥いや、魔王軍の親衛隊マスターナイト。
怪獣――メタルアントライオンが再び顎を輝かせた。その間から放たれる熱線!
今度の標的はクラゲ艦だった。
大きいうえに機敏とは言い難いCオーウォーを、狙い過たず熱線が直撃する。
それは一瞬、弾力に富んだ表面を焼くと、艦を貫通して天へと伸びた!
大きな被害を受けてクラゲ艦が揺れる。
さらに熱線を放とうと、アントライオンの大顎は輝き続ける。
だがそこへ跳びかかる琥珀色の機体。
『させん!』
ノブの鋭い声とともに、アントライオンの横面に肘の突起・エルボートリガーが炸裂した。
『おのれ‥‥お前は! どこまで邪魔をする!』
マスターナイトは知らされていた。
レイシェルを旅へ誘い、彼女を助けて戦う霊能者の存在を。
それへの声には黒く煮えた憎悪が籠っていた。
ノブのEムーンシャドゥへと顎を向けるアントライオン。
だがその巨体へドリル戦車の突撃が打ち込まれた。
『貫け!』
ドリル戦車形態で叫ぶドリルライガー。
大ダメージを受け、歪んだ装甲が痛々しいが、それでも粘り強く怪獣の巨体へと食らいつく。
そして、クラゲ艦が体勢を立て直した。
触手がもたげられ、拳法の構えをとる。
『邪魔をしているのは貴様ではないのかな?』
オウキのその声と共に振り回される触手。それは瞬く間に幾度もメタルアントを叩いた。
帰艦したオウキが操縦者へと交代したのである。
だがこれだけの猛攻の中、メタルアントライオンは立っていた。持ち堪えていた。
『こいつ、硬ってー!』
ジルコニアが叫ぶ。
強化改造された装甲を高まりきった戦意がさらに補強し、攻撃に耐えている!
マスターナイトが怒り狂って吠えた。
『お前らは! お前らは! お前らは! レイシェルの何なのだ!』
白熱した大顎が狂暴に振り回される。
咄嗟に防御して身を守る三機。
だがそのガードの上から、異常なまでの衝撃が叩き込まれた。
装甲強度に優れている筈のムーンシャドゥもドリルライガーも、サイズでは勝っているクラゲ艦も、ことごとく吹き飛ばされる!
高まりきった戦意は巨大生物のパワーをも大きく跳ね上げていたのだ。
「こ、【光熱の領域、第一の段位。輝きは熱の線となる。光は敵を灼く】――エナジーブラスト!」
いつになく取り乱した声で、しかしなんとか詠唱は完成させ、レイシェルは自機に魔法を撃たせた。
熱線が放たれ――怪獣の装甲表面で軽く弾き返される。
「あ‥‥」
呆けたような声を漏らすレイシェル。
今の彼女では、機体にパワーを与えるどころかその出力を低下させているのだ。
『ああああ! 疎ましい!』
マスターナイトの咆哮とともにアントライオンの全身が輝きを放った。
周囲の地面が煙をあげ、溶け、波打つ!
アントライオンの地中移動は、大顎だけで地面を掘って行うのではない。
全身からの高熱で土を溶かしながら実行しているのだ。
そしてその高熱波は、地上で使えば自機の周囲を焼き払う範囲攻撃――MAP兵器となる!
熱波が大きく膨れ上がり、怪獣の周囲を呑みこんだ。
「みんな!」
離れた位置にいて、一人巻き込まれなかったレイシェルが悲痛な声で叫んだ。
設定解説
・マスターナイト
本名フレディ=ジェナン。
旧コノナ国侯爵家ジェナン家の跡取りでレイシェルの元婚約者だった青年。
文武に秀でて容姿端麗、顔も広く健康で侯爵家も安泰だと思われていたが、残念ながら魔王軍陸戦大隊には奮闘の末敗北。
コノナ国もジェナン侯爵家も滅亡し、生きながらえたフレディの選んだ道は魔王軍の中で地位をあげて少しでも権力と発言権を得る事だった。
そうする事で下層に位置付けられた旧コノナ国民を少しでも庇えると判断したが故だが、与えられた使命はコノナ国内の反乱軍(旧コノナ国民)を鎮圧する任務。
「将来のために」と容赦なく壊滅させてきたが「やるやんけ」と同じような任務を次々と与えられる。
それらも全てつつがなく成功させ、本人の狙い目どおり順調に地位が上がり、ついに親衛隊の一人にまで列席する事ができた。
魔王軍への協力をアピールする一環で、試験開発されていた搭乗型改造魔獣メタルアントライオンの操縦者も引き受けている。
そのために必要な「処理」をマスタージェイドから施されおり、本人の戦闘能力も魔王軍入隊以前より上がっている。
51話時点のステータス
レベル28
格闘199 射撃199 技量217 防御174 回避126 命中146 SP108
スキル:ケイオス1 気力限界突破3 アタッカー




