49 過去 3
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
勇者ドリルライガー、元魔王軍の武闘家オウキ、エルフの作業員達を仲間にし、二人の旅は続く――。
「フレディ、貴方がここに‥‥」
信じられずに呻くレイシェル。
ノブは相手の胸の魔王軍の紋章を冷たい視線を向けた。
「見た所、魔王軍の方とお見受けするが?」
レイシェルの元婚約者・フレディは静かに頷く。
「レイシェル。魔王軍に投降してくれ」
「どうして、貴方がそんな事を言うの?」
言葉を絞り出すかのようなレイシェル。
フレディは左掌で額を抱えた。
「元コノナ国民の誰かが大きな手柄をあげる事が必要なんだ。占領された地の民は地位が低い。より地位の高い地域から搾取され、戦では尖兵として駆り出される。地域の地位を上げないと虐げられる一方だ」
その地位を上げる方法――それは魔王軍への貢献である。
「神蒼玉を魔王軍に差し出せば地位は大きく上がる。国民が助かるんだ」
「ジェナン侯爵家としての名誉はどうしたの!?」
誇りを失った元婚約者へ、震える声で訊くレイシェル。
答える声は、色濃い絶望で染まっていた。
「無くなったよ、ジェナン侯爵家は。もう俺しかいない‥‥」
「おい、お嬢。“もう遅い”をこっちが言うなら今がチャンスだぜ」
ジルコニアがそう声をかけたものの、レイシェルは元婚約者から視線を外さなかった。
身構えるノブ。
それに老人が声をかける。
「大賢者トカマァクの弟子、ノブよ。邪魔をしてはいけない。いや、お主も共に来るが良い」
「行くと思うのか。その可能性は皆無だ」
当然、ノブは一蹴する。
だが老人は頭を振った。
「儂はお前と戦いたくはない。それにお前を助けた遠因の一つがこの儂なのだ。我が弟弟子よ」
レイシェルの目が驚愕で見開かれる。
エリカも大声をあげた。
「え? 爺さん、ノブと同じ師匠の所にいたのか!?」
そしてノブは‥‥鋭い目を老人に向けていた。
「なぜそんな馬鹿な戯言を口にするのか、真意は測りかねるが‥‥貴様らの意図など僕の仕事にとっては大事な話じゃない」
ふう、と老人は溜息を一つ。
「魔法を使うなら、嘘を感知する物にしておけ。お前なら使える筈じゃ。儂の身元も多少語るゆえ、こちらの情報を得る事にもなる。嘘があったらその時に攻撃するがいい」
「エリカ、レイシェル。いつでも動けるようにしておいてくれ」
振り向きもせず告げるノブ。
その指先を軽く振ると、青い煌めきが舞う。呪文を発動させたのだ。
【センス・ライ】――虚言を感知する呪文。聞いた言葉の中に嘘があれば、どの部分が嘘がわかる。
それを確認し、老人は語り出す。
「儂はトカマァクの元弟子。破門される前に赤子のお前に会った事もある。そして死んだも同然のお前が、細胞の一片から新たな体で蘇る事ができたのは、儂が数十年をかけて開発に携わった生体改造技術の応用による物じゃ」
(蘇る、だと? 僕が?)
隙は全く見せないままに、しかしノブはその言葉に疑問を持つ。
「様々な世界の知識も取り込んだ技術でな。お前には【クローニング】と呼ばれる処置が施されておる。まぁ赤子にまで戻したので、複製というより再構成じゃがな」
ワーグラの言葉には、どこか得意げな響きもあった。
だがノブには理解できない。小さな声で問いかける。
「何を‥‥言っている?」
老人は、その言葉に構わず、言いたい事を続ける。
「だがお前への処置など、この技術の終着点から見ればほんのおこぼれ。儂はまだまだこの技術を追求したい。そして完成させねばならん。魔王軍でこの思想に共鳴する同志を見つけ、彼らと実験を繰り返しておる」
そしてレイシェルを指さした。
「クイン家の子女殿。裏切ったお前さんの兄を討ち、海戦大隊長まで倒した勇者達‥‥あれを造ったのも儂の研究仲間じゃ。奴らの改造には儂も参加したぞ」
レイシェルは何も言わない。
驚きすぎて言葉が出ないのだ。
「ノブの命を助けた。レイシェル殿の兄を止めた。それを成したのは儂が研究・開発している技術なのじゃ」
自ら「うんうん」とばかりに頷く老人。
「秘密にしたままだった師匠。兄の裏切りを家族へ押し付けた世間や国家。それらのためにこれからも命をかけるのか?」
そう訊いたくせに、ほとんど間を置かずに話を続ける。
「お前らは儂とともに来るべきであろう。もっと詳しい事も教えてやれる。お前さん達を同志として迎え入れてもやれる。レイシェル殿、ガデア魔法騎士団をお主の部下集団として再編し、与えるよう取り計らってやろう。ノブよ、優秀な弟弟子よ、お前の命を救った儂の大いなる研究を手助けしてくれ」
その言葉に、どんどん熱が籠るようだ。
身動きしないノブの背にエリカの声が飛ぶ。
「おい! こんな爺さんの口車に乗るな!」
だが、ノブは動かなかった。
老人の言葉に――嘘が見あたらない。
老人はエリカに叫んだ。
「言葉は正しく使えい! 儂が今言っている事は真実! そして本音じゃあ!」
感情が籠っていた。
どこか勝ち誇るようでもあった。
通行人が何事かと注視していたが、そんな物は全く意に介さない。自分、ノブ、レイシェル。その三人しか今の老人の世界にはいないのだ。
異様な雰囲気に、通行人達は眺めはすれど話しかけはしない。
中には気味悪そうにして離れていく者もいる。
だが老人に声をかける者が一人だけいた。
「無口というわけでも無かったが、そこまでお前が喋るのは初めてみたぞ。マスタージェイド」
レイシェルは声の主へと振り返る。
「オウキ!?」
姿を晦ませた筈の拳法家・オウキがそこに立っていた。




