48 過去 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
勇者ドリルライガー、元魔王軍の武闘家オウキ、エルフの作業員達を仲間にし、二人の旅は続く――。
――その日の夜も、レイシェルは夢を見た――
王子様達をモニター越しに見る自分になる少女。
映し出される、幾人もの王子様。彼らは星の海で出会い、共に力を合わせ、強大な敵と戦っていた。
各人が巨大なロボットに乗って。
そして――強大な敵に、撃墜されていく‥‥!
自分はそれを悲痛な思いで眺めていた。
ケイオス・ウォリアーにそっくりな、モニター越しに。
(え? え? どういう事ですの? まるで私も戦場にいたみたいな‥‥?)
驚きの中で目覚めるレイシェル。
これまで垣間見た前世の記憶に、さらに情報が増えた。
この所、意外な事ばかり映っている気がする‥‥。
(わかりませんわ。私に一体何が起きているんですの‥‥)
寝床の中で独りそう悩んだ所で、答えなど出るわけもなかった。
――そして朝。身支度と朝食を終え、レイシェルは艦のブリッジに入る――
中央にあるメイン座席にはオウキが座り、艦を操縦している。
周辺にあるサブ座席にはそれを補助するべくエルフ達が座っているのだが――その中の何人かは本を読んでいた。
オーガハーフエルフのエリカもその一人だ。
「あら、何を読んでいますの?」
レイシェルが訊くと、エリカはちょっぴり困った顔を見せた。
「操縦方法の取説だ。いざという時のために艦を動かせるようにしておけって、オウキの奴に渡されてさ」
レイシェルはオウキへと振り向いた。
彼は前面の大きなモニターを見たまま、操艦に集中しているようだ。
(彼も真剣にやってくれていますのね)
出会った時は人生捨ててる酔っ払いだった男が、今は立ち直って同志となり、同じ目的に協力してくれている。それがレイシェルには嬉しく、差し込む朝の光をより爽やかな物に感じさせた。
昼近くになり、ブリッジで簡単なミーティングが行われる。
ノブが艦のサブモニターに周辺地図を映し、提案した。
「ラヒノには港がある。当面必要な物を調達していこう」
長旅なので、食料始め生活に必要な物、修理整備に必要な物資は補給しながらになる。
そしてこのクラゲ艦Cオーウォーは、地面に着陸できないという特性があった。
よってニスナリ山のように浮遊艦を係留しておけるドックがあるか、着水させて停めておける港があるか、どちらかの設備がある町でないと艦自体を整備する事はできないのだ。
特に反対意見もなく、クラゲ艦はラヒノの街へ向かう。
この地方でも有数の大河に接する街は、大昔から河川交易の中継地点であった。
川に着水し、クラゲ艦は街の港へ向かう。
――補給はつつがなく終わり、皆が帰艦した。筈だったが――
「オウキが戻らない?」
驚くレイシェル。
エリカは困った顔で手紙を差し出す。
「部屋にこれが置いてあったんだ」
手紙には短い文が書いてあるだけあった。
『悪いがここで降りる。世話になった』
ブリッジにて。
空のメイン座席を睨み、レイシェルは憤慨する。
「何を考えていますの!」
エルフの一人がモヒカンの下の顔を不安で青ざめさせる。
「まさか魔王軍に帰るんじゃ?」
「そんなわけが! 短い間とはいえ一緒に旅してきたんですわよ?」
それには間髪いれず否定するレイシェル。
その頭上でふわふわ浮きながら、ジルコニアは呆れていた。
(お嬢‥‥おめぇ何年も在籍してた騎士団の連中に何度も狙われてる張本人だろうが‥‥)
腕組みして考え込むノブ。
「魔王軍に帰ってもあいつは処刑される筈だ。許してもらえるほどの手柄があれば別かもしれないが、それならレイシェルをなんとかして敵の手に渡そうとしただろう。そうなると‥‥」
メガネをくいくいと弄り、想像を口にする。
「怖気づいたか、もっと優先したい事ができたか。単に戦いが嫌になったか。どれにしろ、敵にも味方にもならないのではないか?」
『困りましたね。自分達とともに戦う事を強制する事はできません』
通信モニターの向こうでドリルライガーが困り果てる。
レイシェルはどうにも納得できないようだった。
「だからといって! 詳しい訳も話さずに!」
「ふむ。ならばせめてそれを聞きに行くか」
あっさりというノブ。
「でもどこに行ったか、全然わからないぞ?」
エリカが困惑しながらそう言う。
だがノブはいつも通り、平然と答えた。
「問題無い。僕は地上最強の霊能者だ」
――ノブ達一行は再び街へ入る――
「ほえー、こんな魔法があるんだな」
感心してノブの後をついてくるエリカ。
以前の森同様、ノブは追跡の呪文【パースート】を使った。今回も呪文はその効果を発揮し、オウキの霊的な痕跡を捉え、ノブの霊感に足取りを伝えていた。
ノブは迷う事なく、街の通りを歩き続ける。
(オウキ‥‥もう街を出たのかしら?)
不安になるレイシェル。
どうも行き先は街の門の一つらしいのだ。
じきに門まで辿り着く、その手前の広場、複数の街路が交わる交差点で。
「ちょいとそこのお嬢さんと坊ちゃん。どこへ行きなさるかね?」
年老いた男に、レイシェル達は声をかけられた。
杖を手にし、緑のローブを纏った爺さんである。
「お馬鹿な仲間が迷子になって。探しに来たんですの」
困り半分、怒り半分で答えるレイシェル。
同時に僅かな希望も持つ。
(都合良すぎかもしれませんけど、もしこのお爺さんがオウキを見かけていたら‥‥)
だが老人との間を遮るようにノブが割り込んだ。
レイシェルに背を向け、明らかに老人を警戒して。
「ノブ?」
戸惑いながらレイシェルはその背に声をかける。
老人は‥‥笑った。
感心し、楽しそうに、そして鋭い目を向けて。
「ふむ。何やら感づいたか。まぁ霊能者には危険を感知する超感覚もあるからな」
その言葉でレイシェルは察した。
「まさか‥‥魔王軍!?」
その声に周囲の通行人が何人か「何事か?」と言った顔で怪訝な目を向ける。
だがそんな事は気にもせず、老人は笑いながら言葉を続けた。
「戦いになるかもしれんが、先ずはこちらの話を聞いてもらいたいのう」
「頼めないか、レイシェル‥‥」
近くの路地からそう声がかかった。
聞き覚えのある声だ。
老人への警戒さえ一瞬忘れ、レイシェルはその路地へ目を向ける。
路地から一人の青年が出て来た。
兜こそ被っていないものの、鎧と剣で武装した騎士である。
見慣れたガデア魔法騎士団の鎧――では無かった。赤紫の、胸に魔王軍の紋章が描かれたスケイル・アーマーである。
だがその顔はよく知っていた。
多少人相が変わっているが、見間違える筈がない。
「フレディ‥‥」
レイシェルは呆然と、元婚約者の名前を呟いた。
設定解説
・ほえー、こんな魔法があるんだな
エルフは魔法に長けた種族であるため、霊能者という珍しい魔法系クラスも探せば見つかる程度にはいる。
エリカは働ける歳までエルフの都市にいたので、見る機会がゼロだった筈もない。
ただエリカ本人の魔法適正は並の人間より低く、本人が魔法を学ぶ気が全く無かったので、どんな魔法があるのかほとんど知らないのだ。
よって大概の魔法を見るとだいたいこんな感想になる。




