47 過去 1
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
勇者ドリルライガー、元魔王軍の武闘家オウキ、エルフの作業員達を仲間にし、二人の旅は続く――。
「そうか‥‥そんな理由で。苦労したんだな、レイシェル」
真剣な顔で言う、オーガハーフエルフのエリカ。
周りのエルフ達も、ある者は感心して頷き、ある者はもらい泣きし、ある者はモヒカンを逆立てて鼻息を荒くしている。
なぜ魔王軍と戦っているのか。この旅の目的は何なのか。
エルフ達をブリッジに集め、それをレイシェルが説明した。
その話、そして今までの経緯を聞いての反応である。
『共感していただけて心強い。これで彼らも同志でありますね』
モニター越しに喜ぶドリルライガー。
エルフ達の反応を目の当たりにし、レイシェルは嬉しくもあったが。
この言葉が先に出る。
「普通は乗艦する前に聞きますわよ?」
すっかりやる気になったエルフ作業員達を乗せ、既にニスナリ山を離れて半日以上。
夕食も終え、もはや寝るのみとなった頃にやっと目的を話したわけである。
「いやあ、やっぱやる気になったらどんどん行っちゃうだろ?」
頭を掻きつつも朗らかに言うエリカ。
横のエルフも当然のように頷く。
「元々お貴族と接する機会が滅多になかったうえ、知ってる連中が連中だったからな。好きになれるお貴族と会えて、ワシら滅茶苦茶嬉しかったんじゃ」
レイシェルは頭を押さえた。
「完全に感情で生きてますわね‥‥」
だが彼女のすぐ側にいるノブは、メガネをくいくい弄りながら言う。
「損得で生きるか感情で生きるか、それは個々人の主義だ。都合でブレなければ他人がどうこう言う事でもない。師匠は言っていた‥‥感情任せに作ろうと理詰めのレシピで作ろうと、美味い料理は美味いのだ、と」
「良い師匠だな! その人に召喚されたのか? ノブは聖勇士なんだろ?」
嬉しそうに頷きながらもノブに訊くエリカ。
レイシェルも、内心でノブの返答に興味を持った。実はここまで一緒に旅をしておいて、彼の過去についてはほとんど知らなかったのである。
(お互い、あまり昔の事は聞かなかったけれど‥‥そろそろ教えてもらえるのかしら?)
ノブはなんでもない事のように、淡々と言った。
「師匠は僕を拾ったそうだ。僕は何かの手違いで、赤子の頃にここインタセクシルに召喚されたようでな。師匠は僕の養父でもある」
「ええ!?」
驚くレイシェル。
中央座席に座るオウキが「ほう?」と呟く。
「幼児や老人は召喚魔法の対象にならんと聞いたが。次元を超えるのにある程度の体力が必要らしいからな」
それこそがレイシェルの驚いた理由でもある。
ノブの言った事は、異界人召喚としてはあり得ない事なのだ。
だがそう言われてもノブは平然としたものだ。
「だから召喚魔法の手違いか、失敗か、年齢層を広げる研究でもしていたのか。師匠と敵対していた魔物の根城を攻め落とした時、赤子の僕をそこで見つけたそうだ。当時、前の弟子が独り立ちして師匠は一人だったから、新たな弟子にするつもりで僕を養育したのだ」
そこまで言うと、メガネの奥のその目に真剣な光が宿る。
「そして今。僕はその恩に報いるため、敬愛する師匠からのクエストを受けている。今の魔王軍に対抗するため、神蒼玉を手に入れる任務をな」
そこまで聞いて、エリカが首を傾げた。
「レイシェルのためじゃないのか?」
「結果的には彼女のためにもなるな」
「なんだそれ。レイシェルの事、好きじゃないのか?」
ノブが答えても、エリカの頭からクエスチョンマークは消えない。
一転、ノブの顔が渋くなった。
「答え難い事を訊くものだな。任務と関係ないだろう。まぁ人間として好意は持っている、と言っておこう」
いまいちわかりかねるようで、エリカはクエスチョンマークが消えないままレイシェルの方を見る。
レイシェルはたじろぎながら頬をほのかに紅く染める。
「な、なんですの? 私も、まぁ、人として好感はもってますわよ。ずっと助けてもらっているわけですし‥‥」
エリカはまだよくわからないようだ。
「結婚するのか?」
汗をたらしながら怒鳴るレイシェル。
「なんでそうなりますの! 私の理想は‥‥そう、兄様のような騎士かしら」
言葉の後半、彼女の目はうって変わって、遠い所をみるような、どこか夢を見ているようなうっとりした輝きを帯びた。
「元婚約者みたいな、じゃなくて兄貴なのかよ」
ジルコニアのその小さな呟きは、小さくて誰にも聞こえなかったようだ。
だがエリカはようやく頷いた。やっと彼女に理解できる範疇に入ったらしい。
「ふうん。素敵な人だったんだな」
「はい! 気高く、誇り高く、責任感があり、家族を大切にし、日々の精進を忘れない勤勉な、おおよそ男性として理想そのものの兄でした‥‥」
嬉しそうにまくしたてるレイシェル。一部早口である。
これは今は亡き長兄への評価である。レイシェル視点では一切の嘘は無い。
まぁその兄は、人間とその友好種族(エルフやエルフ等)以外の亜人族を「人」として扱わない価値観の持ち主だが。
それもこの世界ではそれほど珍しい価値観では無いし、そもそもレイシェルは全く知らない事なのだ。
「子供の頃は兄様と結婚するつもりだったし、毎晩手を繋いで一緒に寝てもらいましたっけ。ふふ‥‥今となってはおかしな話ですわね」
昔を懐かしみながら、幸せいっぱいの顔で言うレイシェル。
エルフ達はにこやかに、ノブはちょっと呆れたような顔で聞いていた。
ただ一人‥‥オウキだけは眉間に皺を寄せて考えていた。
(クイン家の騎士だと? 俺が過去に戦った相手にもそう名乗った奴が‥‥)
設定解説
・次元を超えるのにある程度の体力が必要らしいからな
子供や老人を引っ張り込もうとして屍が届く事も大昔はあったらしい。
だいたい即戦力を求めている場合が多い事もあり、そこら辺は対象へ条件を設けるように召喚魔法は開発されている。
自分が昔遊んでいたRPGの召喚魔法でも、HPが低い物が呼ばれる事はあっても0で出てきてその場で即死する奴は出てこなかった。大概のファンタジー世界の召喚魔法の標準機能だと思われる。




