42 旧敵 4
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
勇者ドリルライガー、元魔王軍の武闘家オウキを仲間にし、二人の旅は続く――。
レイシェルとリュウラ。
二人の女魔法戦士は対峙する。
「誇り高いガデア魔法騎士団の皆が、どうして魔王軍の走狗になりますの‥‥」
悲痛な声を漏らすレイシェル。
一方、リュウラは僅かに頭を振る。
「そう言われようと、貴女との決着はつける」
その声は静かではある。だが確かな意思をこめていた。
――レイシェルはガデア騎士団での日々を思い出した――
いつからだろう? リュウラが挑んでくるようになったのは。
レイシェルにもはっきりしないが、魔王軍や魔物を討伐する前日には、必ずリュウラが顔を見せるようになっていた。
「私は勝つ。貴女よりスコアをあげてみせる」
澄んだ、けれど冷たい目を向けながら、砦の廊下で、あるいは庭の隅で、必ず宣戦布告してきた。
「戦は遊びではありませんわよ」
レイシェルがそう言っても
「なら私が勝手にやる」
そう返すだけだった。
国境での、魔王軍との戦い。
この時は習得したばかりの火球の術でレイシェルがより多くの魔物を倒した。
乱れた治安に乗じた野盗を討伐。
この時は味方の手助けもあり、レイシェルが敵の頭領を仕留めた。
山奥から人里へおりた魔物の群れへの対処。
この時は習得したばかりの冷凍の術でレイシェルがボス格の魔物を倒した。
何度、リュウラに挑まれただろうか。
彼女は飽きる事なく勝負に拘り続けたのである。
――それは今でも変わらないようだ――
「おいおい。とっくに勝負ついてねーか? お前、負けまくってたんじゃねーか」
顔をしかめるジルコニア。
言われたリュウラはぷいと横を向く。
「勝ち負けを決めるのは他人じゃない。私はまだ負けを認めてない」
ジルコニアは呆れて肩を竦める。
「めちゃ都合のいいルールだな。でもお前、絶体絶命だぞ」
「なんで?」
リュウラは周囲を見た。
ゴブリンもオークも人間の兵も、魔王軍はことごとく打ち倒されていた。
その屍を踏みつけ、エルフの作業員達が凶暴な雄叫びをあげていた。
――話は数分前に遡る――
レイシェルとリュウラが視線を交わし、昔を思い出している頃。
当然、魔王軍の兵は周囲のエルフ達へ襲い掛かった。
だがノブがマントを翻して立ちはだかる。
「下級の兵士がいくらいても僕には問題ない話だ」
さらにオウキも拳法の構えをとった。
「フッ‥‥裏切りと戦いか。核の炎で文明が焼かれた俺の故郷と変わらんな」
そしてエルフの作業員達は‥‥手に手に、蛮刀やハンマーや釘バット(メイスの一種)を握った。
「カチ込みじゃあ!」「やったれえ!」「生かして帰すな!」「ヒャッハー!」
ノブとオウキの横を駆け抜け、喜び勇んで魔王軍兵へ跳びかかるエルフ達。
モヒカンと革ジャンが血で染まり、トゲ肩当てが輝く。
「はいよぉ!」
掛け声も勇ましく、エリカの振り回す両手斧がオークを両断していた。
黙って立っていたノブは、仕方なく指を軽くふる。青い煌めきが舞うと、エルフ達の振り回す得物が目に見えて速くなった。
【ヘイスト】――味方の神経に作用し、反射速度を上げる呪文。加速された攻撃は敵を乱れ撃つ。
「僕は補助呪文においても地上最強の霊能者だ」
そう呟いたが、別に誰も聞いていなかった。
負傷したゴブリンが乱戦の中から逃げ出し、眼前にいたオウキへ慌てて刃物を振り回した。
手刀一閃。ゴブリンは急所を打たれて床に転がる。
これがこの戦闘におけるオウキの、唯一倒した相手だ。
――というわけで、リュウラが気づいた時には魔王軍は皆倒されていた――
「後は君だけのようだが」
やや困り気味にノブがリュウラへ告げる。
リュウラの視線がキツさを増した。
「こうなれば私の魔法の威力を見せる」
周囲のエルフ達をも睨み、彼女は魔法を発動させる!
「【大地の領域、第四の段位。酸の雲はたゆたう。雲は獲物を捕らえ溶解する】――アシッド・クラウド!」
白い蒸気がどこからともなく噴き出し、リュウラの周囲で霧となる。
それは目に見えて広がり、辺りを呑み込もうとしていた!
「ゲーッ! なんだこれは?」
慄くエルフ達。
「リュウラは大気中に持続する攻撃呪文が得意ですの。瞬間の破壊力はそこそこでも、長時間に渡って害を及ぼすタイプの魔法ですわ」
レイシェルが焦りながら説明すると、リュウラは冷たい目を霧ごしに向ける。
「屈強な敵は一撃なら耐える。でも継続するダメージにはいつか耐えられなくなる」
霧が迫る。
それを前にエリカが叫んだ。
「いっくぞお!」
そして一気に跳び込む!
「え!? ちょっと!? ええ!?」
驚愕するレイシェル。
当然のように、強酸の霧はエリカの肌を容赦なく焼いた!
苦悶に顔を歪めるエリカ。
そのまま我慢して走り抜け、霧の中央――そこだけは清浄な空気の残る空間だ――にいるリュウラへ渾身のショルダータックルをかました。
だがリュウラは横に跳んでそれを避ける。
そして跳躍中の彼女へ向けて、無数の投擲用ハンマーが打ち込まれた。
もちろんエルフ作業員の皆さんからである。
もちろん跳躍中に機敏な回避は難しい。
もちろん鈍器の雨を食らい、リュウラはひとたまりも無く床へ転がった。
白い強酸の霧が消滅する。
「あいてて‥‥」
そう呟きながら、エリカは作業場のバケツへ走り、中の水を被って酸を洗い流した。
唖然と立ち尽くすレイシェル。
その側でノブがメガネをくいくい弄りながら呟く。
「まぁ頑強なオーガのパワーがあるようだからな。やがては死に至る呪文を受けたとして、逆に言えばそうすぐには死なない」
「そしてエルフは飛び道具の扱いにも長けた種族、か」
作業員達のハンマー投擲の腕を見て、オウキは「フッ」と笑ってそう言った。
なお、普通のエルフなら使う飛び道具は弓である。
「お、あいつまだ生きてんぞ」
そう言ってジルコニアが指さした先。
確かにリュウラは、体を引きずるようにしてなんとか立ち上がっていた。
「リュウラは高名な錬金術師の家系で、防具は一級品を装備していますから‥‥」
そう言うレイシェルはどこかほっとした顔だった。
「まだ負けてない。次の切り札を見せる」
苦痛に顔を歪めてそう言うと、リュウラはドックから――つまづきそうになりながらも――走り出る。
「あ、ちょっと、ケガぐらい治していけば‥‥」
止めようとするレイシェル。
宙でジルコニアが呆れていた。
「お嬢、あの小娘としょっちゅうこんな事してたのか?」
だが何とした事か。
リュウラが消えてすぐ、巨大な地響きが聞こえて来たではないか。
ドックに振動が迫る。
ノブの表情が引き締まった。
「次は遊びですまないようだな。ケイオス・ウォリアーで出るぞ」
設定解説
・投擲用ハンマー
TRPGにこういう武器があった。
ハンマー投げ競技で使う、鎖+鉄球みたいな物かと想像していた。そんなの何個もぶら下げて迷宮を歩くなんて冒険者は大変だなあと。
だがある日気づいた。
Heart様の拳法殺しの肉体に敗れた、あの棍棒の事ではないかと。
あれなら何個も持って迷宮を歩けそうだ。酒場へ呑みに行く時にさえ携帯してるカジュアルなアイテムだからな。
次にTRPGを遊ぶ時は鈍器スキルメインのキャラにでもするか‥‥。




