34 敗者 3
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
ついに三人目の仲間・勇者ドリルライガーを得て、二人の旅は続く――。
欲にかられて殺到する魔王軍の下級兵士ども。
レイシェルは戦闘不可避とみて呪文を唱えた。
「【光熱の領域、第三の段位。炎は塊り球となる。球の炸裂は敵を焼き払う】――ファイアーボール!」
炎の球がレイシェルから放たれ、兵士どもの先頭で爆発する!
三体ほどが火達磨となり断末魔をあげた。だが後続の兵士どもは止まらない。
しかし駆け寄ってきたオーク兵の顔面が、ノブの正拳で叩き潰された。
乱戦となり、兵士どもが得物を振り回す。
だが技量はノブ達の方が明らかに上――ノブのカラテとレイシェルの剣が次々と兵士を打ち倒した。
そんな中から飛び出し、酔っ払いへと向かうゴブリンが一匹。
元よりそちらの首が目当てなのだ。手強いと感じた連中の相手をする物ばかりではない。
そして酔っ払いは‥‥酒瓶を手に座ったままではないか。
「ヒャッハー! コロスー!」
叫んで棍棒をふりあげ、酔っ払いへ叩きつけようとした――
その背を熱線が撃った。ゴブリンが悲鳴をあげて床に転がる。
レイシェルの放った攻撃魔法であった。
だが乱戦の中で外へ向かって魔法を撃てば、隙ができても仕方が無い。
ホブゴブリンの蛮刀が彼女を打った。機敏に避けようとしてまともには食らわなかったものの、左腕が斬られて流血する。
唇を噛んで「くっ!」と呻きつつ、それでも剣をふるって敵との間合いを離した。
痛みに苛立ちながら、レイシェルは振り向きもせずに酔っ払いへ怒鳴った。
「ちょっと! 死にたいんですの!?」
酔っ払いは座ったまま呆れる。
「こっちの言葉だ。なにやら大切な目的があるようだが、それなら道端の屑など気にせず己を守れ」
言われたレイシェルは兵士と切り結びながら怒りも露わに叫んだ。
「不貞腐れてないであっちへ行って!」
そんな事をしている間に、オーク兵がホブゴブリンに加勢する。劣勢にたたされるレイシェル。
「ふん‥‥面倒な」
そう言って酔っ払いはまた酒に口をつける。
だが今度はその一口で酒瓶を投げ捨てた。
瓶が床にぶつかり割れる。
それを見もせずに酔っ払いは立ち上がり、一瞬だけふらついたものの、すぐに身構えた。
その構えを横目に驚くレイシェル。
(カラテ!?)
そして酔っ払いは――跳んだ!
「舞葬琉拳・斬刀降襲!」
酔っ払いの叫びとともに、高高度から手刀が兵士どもを襲う!
酔っ払いが着地したのと同時に床へ倒れる、二匹の魔王軍兵。
首が半ば寸断され、ありえない方向へ顔が向いていた。
斬り落とすつもりの首が繋がっていたのを見て、酔っ払いは自嘲して笑う。
「酒に濁ればこの程度の拳か‥‥」
容易いと思った酔っ払いの、想像以上の反撃。それを見て兵士どもは震えあがった。
「お、おい! 隊長! 魔法戦士なんだろ、戦えよ!」
ゴブリンの一匹が元魔法騎士団のジルドへ叫ぶ。
「お前らが勝手に始めたんだろうが!」
青筋立てて怒鳴り返すジルド。
醜い内輪揉めを見て、ノブが「やれやれ」と溜息をついた。
「不毛だな。ここらで終わらせるとするか」
目の前のリザードマンを蹴り飛ばしてから、ノブは左手をサッと振った。
青い煌めきが宙を舞い――
兵士どもがいっせいに叫んだ。
ある物は近くの仲間の頭を全力で叩き、ある物は床に座り込んで笑い声をあげ続ける。またある物は壁へ己の頭を打ち付け、そのまま動かなくなった。
【コンフュージョン】――敵の脳神経を狂わせ、まともな思考を不可能にする呪文。狂気に陥った敵は自滅するのみ。
ジルドも重傷を負い、床に血溜りをつくって膝をついていた。乱戦に加わらなかったので魔法の範囲の外にいたものの、混乱した兵士に斬りつけられたのだ。
そいつを斬り捨てたものの、もはやノブ達と戦える状態ではない。
「ほう、なかなかの魔術だ」
眼前の惨状を前に酔っ払いは呟いた。
ノブは平然と応える。
「僕は地上最強の霊能者だからな」
だがその時。
砦が大きく揺れた! 何か巨大な物に叩かれて!
「く、クソッ! 制御できなくなっちまっただろうが‥‥」
ジルドが床を眺めながら絶望して呻いた。
設定解説
・魔法の範囲の外にいた
範囲の外にいれば影響は受けない。
ならば範囲の中にいて影響を受けないにはどうすればいいのか。昔、SUパロボのHAイメガキャノンの範囲内にいて回避に成功したユニットへの疑問として、仲間内で話し合った事がある。
途中経過はよく覚えていないが、結論として「ジャンプしたか伏せた」という事になった。
空飛んでる奴と地面を歩いている奴をいっぺんに巻き込めるほど範囲のでかいHAイメガキャノンだが、それ以上の高度で跳ばれては仕方が無いというもの。理論的。




