33 敗者 2
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
ついに三人目の仲間・勇者ドリルライガーを得て、二人の旅は続く――。
魔王軍の砦へ向かう一行。目指す場所は山中を流れる川のすぐ側。
砦近くの森に機体を隠し、ドリルライガーに見張りを頼む。
『何かあったらすぐ連絡してください。地中から真っすぐ駆けつけますから』
頼もしいその言葉に頷き、ノブとレイシェルは木々に隠れながら砦へ近づいた。
透視の呪文【ウィザードアイ】や生命感知の呪文【センスライフ】を使いながら、ノブはレイシェルを先導する。
「山中に敵はいないようだ。巡回を出す余裕も無くなっているのか」
「これならば勝目は十分ありそうですわね」
二人は遠目に砦を眺める。山城は随分と痛んだ壁を晒していた。
感知の呪文を使いながら、二人は砦の目の前に来た。
「見張りもいないようだ。監視する余裕も無くなっているのか」
「窓も入り口も開きっぱなしですわね」
二人は砦を覗う。開け放たれた門まで十メートルほどの距離まで近づいても、猫の子一匹見当たらなかった。
感知の呪文を使いながら、二人は砦の中に入った。
「兵士もいないようだ。部隊を維持する余裕も無くなっているのか」
「じゃあ何なら居るのかわかりませんわね」
二人は通路を歩く。扉はほとんどが開けっ放しで、中にはゴミぐらいしか転がっていなかった。
「薄々思っていたんですけど、ここ、もう放棄されたんじゃありませんの?」
がらんどうの砦の中で、やっとこさそれを口にするレイシェル。
ノブは腕組みして「ふむ」と呟く。
「街の人の話では、あくまで痛み分けだったという事だが‥‥時期的には魔王軍の海戦大隊長が討たれた直後だ。それが関係しているのかもしれない」
「はは、もう終わってたんじゃん」
ジルコニアが二人の頭上で茶化すように笑った。
レイシェルは気の抜けた溜息を小さくついたが、すぐに思い直して「ふふふ」と笑う。
「いい事じゃありませんの。脅威は既に去っていた、当分は危険なし。この情報を街に持ち帰れば、住民は安心できますわ」
だがノブが鋭い目を通路の一つに向ける。
「生命反応を感知した。残っている者がいるようだ」
二人が辿り着いたのは、食堂らしき大部屋だ。壊れた椅子やテーブルが散乱している。
そこに一人の男がいた。あちこち破れた道着を着た、薄汚れた男が。壊れたテーブルにもたれ、周囲には空の酒瓶が散乱している。男の手にも中身が半分ほどの瓶が一つ。
酒臭いその男は、レイシェル達が近づいても気にする様子が無い。一口呑んでは息を吐き、何をするでもなくしばらく宙を眺める。それだけだ。
剣の柄に手をかけつつも、困惑しながら訊くレイシェル。
「こんな所で、何をしているんですの?」
「何も。酔っ払いごとき、どこにでもいるだろう」
男は面倒くさそうに、しかし一応は答えた。
「いや、ここ、魔王軍の砦ですわよ?」
答えになっていないのでレイシェルは食い下がるが、男は「フッ」と自嘲気味に笑う。
「魔王軍も頭数は多いからな。酔っ払いも、負け犬も、その両方もいて当然よな」
それを聞いてノブは少し考える。
「何かの任務に失敗し、帰るに帰れない‥‥そんな所か」
「そうだ。帰れば処刑される身の上よ。わざわざ殺されに戻るのも馬鹿らしいので、兵のいなくなったここに潜り込んだ。それだけだ」
男はあっさりと認め、また酒を一口。
「で、お前達は魔王軍を退治しにきた英雄気取りか。手柄が欲しいのなら戦ってやっても構わんが。酒の瓶が空になるまでは待て」
ノブは大きな溜息をつく。
「酔っ払いの首で挙げられる手柄なんぞに期待はしない。そんな物より、ここの情報が欲しい。あっちに訊いても構いはしないが‥‥」
そう言ってノブは部屋の出入口へ視線をやった。
感知の呪文が捉えた、別の者達へと。
そこにいたのは十名以上の兵士。ゴブリンやオークといった下級の魔物どもだ。
そいつらは得物を手に部屋へ雪崩れ込もうとしたが、先頭にいる男が片手を横に伸ばして制止をかける。
「ここは元海戦大隊の砦でな。大隊長が倒されて海戦大隊が解体されたから、兵士達に撤収命令が出たそうだ。それがたまたま街と一戦やらかした後の事だったと、そういうわけらしいぜ」
先頭の男はそう言った。視線はレイシェルへ向けて。
禿頭や上腕に刺青をいれたその男を見て、レイシェルが呻くように彼の名を口にする。
「貴方は‥‥ジルド!」
「ようレイシェル。まだ家に未練があるらしいな。お前らしいが、バカなこった」
刺青の男は薄笑いを浮かべた。
刺青の男――ジルドは気安い口調で話しかけてくる。
「貴族家だの伝統だの、もう忘れちまえよ。お前、神蒼玉を手に入れられるんだろ? なら魔王軍に寝返っちまえ。ジェネラル・ゴーズの旦那は案外話のわかる人だ。役立つ奴なら可愛がってもらえると思うぜ?」
ジルコニアが疑わしそうな目をジルドへ向ける。
「あれもガデア魔法騎士団の魔法戦士かあ? 騎士や貴族の高貴な連中揃いじゃないんかよ」
「ジルドは、その‥‥家とあまり上手くいってなかった人で‥‥」
言い淀むレイシェル。
ジルドは忌々しげに吐き捨てた。
「ああ、不良扱いであの団に放り込まれたケチな野郎さ」
貴族の家に生まれても、品性や教養を身に着けられない者もいる。
その中には悪い遊びを覚え、夜中に出歩き、ロクでもない連中とつるみ、酒・博打・色事・喧嘩などに明け暮れる者もいる。
そんな子供に頭を痛め、臭い物に蓋をするかのように、修道院や騎士団へ放り込んで家へ帰らせない貴族家もあった。
「まぁあのクソッタレな家もめでたく魔王軍に潰されちまったし。これからは陸戦大隊でやっていく事にするぜ。レイシェル、俺と一緒に来いよ。騎士団時代はろくに口も利かなかった間柄だが、これからは仲良くやろうじゃねぇか」
そう言うと一転、ジルドはニタリと品の無い笑みを浮かべた。
だがその時。
ジルドが制止をかけていたゴブリンの一匹が、酔っ払いを見て叫ぶ。
「おい! あいつ、処刑命令が出てた奴だ! 首もって帰れば報酬が出るぞ!」
「マジで? ヒャッハー!」
元より理性のりの字も無い下級の魔物。ジルドを押し退け、部屋の中へと殺到した。
「おい!? ちょっと待て、お前ら‥‥」
話の途中で腰を折られて焦るジルド。
しかしこの兵士達、ジェネラル・ゴーズから借りてきた連中でジルド本人に何の忠誠もありはしない。目先の小銭の方が遥かに大切なのだ。
もはや制止など何の意味もなかった。
設定解説
・Bシックルスカル
鎧を纏った骸骨兵士のような機体。巨大な鎌を装備し、隙間の多いボディに投擲用の短剣を10本ほど搭載できる。
自己修復能力をもつため、大きな欠損でなければ時間と共に欠けや亀裂が塞がっていく、持久戦型の機体。
その機能にコストと能力を大きく費やしているため、機体性能は決して高くは無い。また行動不能になるレベルで破壊されると修復能力も働かない。
基礎ステータス(強化改造や装備するアイテムにより、この数値は変化する)
HP:4000 EN:170 装甲:1200 運動:95 照準:145
射 ダガーショット 攻撃2500 射程1―4
格 デスサイズ 攻撃2800 射程P1
【HP回復(小)】一定時間ごとにHPが最大値の10%回復する。




