32 敗者 1
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。
ついに三人目の仲間・勇者ドリルライガーを得て、二人の旅は続く――。
村に薬師の子供達を届け、一行は旅を再開した。
礼を言われ、いくばくかの報酬も貰い、そして何よりの収穫は勇者ライガー。
その力は――
「おかげで旅もだいぶ楽になりますわ。こんな仕事もさせてごめんなさいね」
ケイオス・ウォリアーの台車をドリルタンク形態で牽引するライガーに、その操縦席で礼を言うレイシェル。
『いえいえ、自分の力が役に立つなら嬉しい事です。任せてください』
嬉しそうなライガーの声が通信機から届く。
神蒼玉を得る旅への同行を持ちかけると、あっさりとOKしてくれた勇者ライガー。
彼は二台の台車の片方を牽引する役目も、自らかって出てくれたのだ。
同じくライガーの操縦席で、ノブは顎に手をあてて考える。
「確かにありがたいが、やはり欲しいのは機体を輸送できる艦だな。それがあれば修理や改造、強化パーツの作成をしながらでも移動を続けられるのだが」
「そうは言っても、流石に艦を手に入れるのは難しいですわね。おいそれと買える物でもありませんし‥‥」
ノブの隣で渋い顔をするレイシェル。いくら貴族の娘とはいえ、大型兵器を輸送する艦を買うような小遣いを持ち歩いてはいない。
「まぁいい。敵から奪う機会があれば、多少苦しくとも狙うとしよう」
実の所、ノブも深刻に悩んでいるわけではなかった。有ればいいな、というだけの話であり、そんな物が無い事は前提の旅である。
『しかし艦となると動かすには人手も要るのではないでしょうか。そこも考えないといけませんね』
ライガーも前向きに検討している。彼自身はこの世界に来てから単独で行動してきたし、その限りでは移動に何の不便も無かったが、集団行動を考えられないわけでもなかった。
そんな二人の言葉を聞いて、レイシェルは何やら考え込む。
「家の騎士団になら、ケイオス・ウォリアーを何機も運べる艦がありましたけれど‥‥無理を言ってでも貰ってくるべきだったかしら」
小さな呟きだったが、ライガーには聞こえたようだ。
『それは凄いですね。持って来れない理由でもあったのですか?』
聞かれたレイシェル、少し躊躇ってから沈んだ顔を見せた。
「貴方も言ったでしょう。艦を動かすには人も要ると」
実のところ、人のアテはあった。騎士団の物なのだから当然騎士達がいる。
いるが――
「この旅に騎士団を巻き込んでいいのかどうか‥‥ちょっと判断しかねたのですわ」
だからレイシェルは親に要求しなかったのだ。
彼女自身は、家の名誉を取り戻す旅は命懸けを覚悟する価値があると信じている。
だがそれは彼女の独断だ。残っている家族はそんな事を望んでいない。
そして家臣達は――
彼らは未だに、主君家に忠誠を誓っているだろうか。
いるとして、命をかけても構わないと思ってくれているだろうか。
そう思ってくれている程の者はどれぐらいいるのだろうか。
実家で大勢に裏切られたレイシェルには、その疑問が心の底に淀んで溜まっている。
それ故に彼女は騎士団を連れて来なかった。
レイシェルが独り悩んでいるのを横目に見ながら、ノブは何も言わなかった。
だが空に茜色がほんのり差し始める頃、道の先に屋根が見えてくると、彼は他の者に言う。
「次の街に泊まるとしよう。そこを過ぎたら今日中には人里へ辿り着けないからな」
――二、三時間の後――
台車とドリルライガーを停めるためもあり、レイシェル達は郊外の宿に入った。街の中心に近い所では複数台を待機させるスペースは確保し難い。
宿の一階は飯屋兼酒場という、この世界ではありがちな造りだった。部屋をとった後、ノブとレイシェルはそこで早めの夕食をとったのだが、そこで意外な情報を得る。
「魔王軍の砦?」
レイシェルは思わず給仕娘に聞き返した。
娘はコップに水を注ぎながら、困った顔で頷く。
「ええ。山向こうにあるんですけどね。この前、急に攻めてきたんです。街の兵士団と痛み分けみたいになって、互いにボロボロになって‥‥。あちらは砦に引き返して、それっきり動きが無いんですけど、こっちも何もできないわけで。ほんと、これからどうなるのやら‥‥」
酒場は情報交換の場所でもある。
旅人は今まで見た事や聞いた事を、地元の人間はここらがどんな所で最近何があったかを、店内で互いに話す。同席した客同士で、あるいは店員や店主と。
客のまばらな時間なので、給仕娘はレイシェルとノブ相手に食事を運んできたついでに街の現状を話した。今の不穏な現状を、だ。
給仕娘が他のテーブルへ去った後、パンを少しずつ食べながらレイシェルはノブに訊く。
「私達だけでなんとかできると思います?」
「へへ、街を助けてやりたいって事か」
カットしたリンゴを齧りつつ、茶化すように笑うジルコニア。
地元民が旅人や冒険者に現状を話すのは、悩みの種を解決してくれる可能性に期待しての事でもある。
しかし‥‥魔物の軍の砦をレイシェル達だけで陥落させられるかというと‥‥
「無理ではないだろう。敵がダメージから回復していないならな」
なんとノブは肯定的な考えだった。
チーズを一口齧り、少し考え、さらに付け加える。
「僕らの目的が砦に伝われば、まず確実に追手が出されるだろう。後ろから攻撃される危険を無くすために潰しておくのは悪い手ではない。無論、無暗に突っ込むのは無謀だから、まず砦を偵察する事から始めなければならないが。それで無理だと判断したなら諦めて先を急げばいい」
その意見にレイシェルの顔がぱっと明るくなる。
「うん、決まりですわね!」
そう言って片手をあげ、給仕娘を呼んだ。さらに詳しい話を聞くために。
設定解説
・艦となると動かすには人手も要るのではないでしょうか。
もちろん必要となる。
この世界の艦は“ロボット”であるケイオス・ウォリアーの技術を流用されて後から誕生した乗り物なのだが、人間と形が違い過ぎるため、ケイオス・ウォリアーのように操縦者と感覚を一体化させて動かすのは難しい。
よって操縦方法は数タイプに分かれる。
人間と近い部位がある場合、ある程度は操縦者(艦長)が一体化させて動かしながら、サポート用クルーが数人で補助するという形をとる。
そんな部位は無い場合、一体化などせずモニターと各種スイッチで動かす物もある。
なおこの世界の艦のほとんどは動物か魔物をモデルに形作られており、足で陸上を歩く物が大半である。よって艦整備のドックも陸上にある物が多い。




