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31 暗躍 4

売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。

そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。

敵の刺客となった元騎士団員達に何度も狙われながら、それを退ける二人。

ついに三人目の仲間・勇者ドリルライガーを得て、二人の旅は続く――。

 暗雲の下に、煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔がある。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。

 尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。

 これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。


 だがこの砦には、まだ住人がいるのだ。

 叩きのめされた本来の住人達と、それの上に君臨する支配者達が。


 支配者の頂点に立つ男は中庭にいた。

 身の丈2m、黄金の鎧を纏った屈強な大男。

 歳の頃は三十前後か。乱れた灰色の髪と太く荒々しい眉が男の野蛮さを隠す事なく醸し出す。

 凶悪な笑みを浮かべる野獣のような顔の、左目は古傷で縦に切られて潰れていた。

 この男こそ魔王軍陸戦大隊長ジェネラル・ゴーズ。


 その周りにはバラバラにされた樹木の破片が転がっていた。

 ノブ達が森で戦ったレーザーツリーの破片である。

 もちろん別個体であり、森の中にあった物より小さいが‥‥それでも生身で相手をするサイズの魔物ではない。

 だがそれがゴーズの周囲で無残な姿を晒していた。

 それも、数体分が‥‥!


 彼につき従っている老人ーーマスタージェイドが淡々と報告する。

「元騎士団のエリザドラは破れたようですな。そのまま姿を晦ましたようで」


 ふん、とゴーズは鼻息一つ。

「ダメだったか。ま、見かけたら処刑するよう部隊には伝えとけ」


 (こうべ)を垂れるマスタージェイド。

「そういたしましょう。奴らめ、勇者ライガーも仲間にしたようですな」


 それを聞いてゴーズの目の色が変わった。

 先刻までの、どこか面倒くさそうな様子は消え、明らかに興味を持っている。

「勇者ライガーだと!? お前、それは‥‥」

 そこまで言うと大笑いを始めた。

「人の縁てな不思議なもんだな! そいつが海戦大隊の砦を潰したせいで、新型強化兵の試作体――超個体(スーパーオーガニズム)戦闘員(コンバタント)がそこから逃げ出したんじゃねぇか。そいつらが鬼甲戦隊(きこうせんたい)を名乗り、海戦大隊の大隊長を倒して大隊を潰しちまったんだから、勇者ライガーはお前らの隊を潰した間接的な原因という事になる!」


 マスタージェイドは頷いた。

「そうなりますな。あれらが逃げ出したのも惜しい話‥‥」


 老人の歪む顔を見ながら、ゴーズは少々意地の悪い笑顔になる。

「お前もあの砦に出入りして研究に噛んでいたそうだな。鬼甲戦隊(きこうせんたい)ども、案外お前の新作だったりしたのか。大隊長まで仕留めたんだ、試作品ではなく完成品扱いしてやるべきかな!」

 半ば冗談のようだが、その言葉はあながち嘘でもない。


 関わった「試作品」を褒められはしたが、マスタージェイドの眉間には皺が寄っていた。

「いいえ。あれらはまだまだです。真に完成させるためにも、様々なテストを行いたかったものを‥‥忌々しい」


 それを見て笑いながらも、ゴーズは考える。

(やはり、こいつは改造人間の研究を続けたくて俺に近づいてきたようだな)

 元海戦大隊の親衛隊が一人、マスタージェイド。彼は海戦大隊壊滅後、自らゴーズに接近してきた。

 そしてこの世界の最強兵器・黄金級機(ゴールドクラス)のケイオス・ウォリアーを作成するのに必須の神宝、神蒼玉(ゴッドサファイア)の一つについて、情報を持ってきたのだ。


 ゴーズの元で再出発し、研究を完成させ、出世を目論んでいる。

 そう考えればおかしな話でもない。

 だが‥‥ゴーズはそれ以外にこの老人が何か目的を持っているだろうと察していた。

 それが新型の改造人間に関わる事なのだろうと、今の話で見当がついたのだ。


(ま、俺の役に立つなら何を企もうと勝手だ)

 ゴーズはその程度にしか考えていないが。

 よって改めてマスタージェイドに訊く。

「で、お前の怒りを勇者にブチ込んでクイン家の娘を奪ってくる‥‥そのためにどうするか、だが。そろそろ陸戦大隊の親衛隊でも行かせるか」

 残った片目で、マスタージェイドに射抜くような視線を向ける。

「或いは‥‥お前自身が行くか?」


「お、俺に行かせてくれませんか」

 二人に恐る恐る声をかける者があった。

 ゴーズの隻眼とマスタージェイドの睨むような視線が声の主へ向く。


 ガデア魔法騎士団の一人である。

 しかしスキンヘッドで二の腕は露出しており、それらは刺青(タトゥー)で埋められていたが。

 顔つきも含め、あまり堅気には見えない。


「相手には名の知られた勇者もいるぞ? やれるか?」

 さほど興味も期待も見せず、しかし一応ゴーズは訊く。


 騎士は必死に頭を下げた。

「俺にも何か授けてくだされば‥‥」


 ゴーズはほんの少し感心したようだ。

「ほほう。自分から魔物を要求するとは。やる気があるようだな‥‥ならやらせてやるぜ」

 それを聞いたマスタージェイドは、反対こそしなかったものの、露骨に顔をしかめた。


 かつてレイシェルと同じ騎士団、共に戦った味方だった者から、また刺客が一人。

 魔王軍から異形の魔獣を借り受け、再びレイシェルへ魔の手が伸びる‥‥。

設定解説


・超個体戦闘員

スーパーオーガニズムコンバタント。魔王軍海戦大隊で一部の親衛隊達が開発していた人造種族。


魔王軍が召喚した聖勇士を含む数々の生物・魔物の細胞や遺伝子を組み合わせた新生物。

ある種の感応能力を有して連携しての戦闘が可能。

それでいながら能力自体はある程度多様化され、様々な役割を個々が受け持つ。

交配も可能であり、繁殖して次世代以降の人員を確保する。


前編「ランクB」の主人公達はこれの試作体として改造されており、その能力で第一部を生き延びた。

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