16 宿泊 1
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
レイシェルが旅立つ前夜、卑怯な裏切り者が彼女を襲ったが、それはノブに撃退された。
いよいよ二人の旅が始まるのだ――。
クイン家での騒動の後、レイシェルとノブ(とジルコニア)は旅に出た。
レイシェルにとっては辛い出来事だったが、だからこそ旅立ちを止めも遅らせもしなかった。家が名誉を失わなければ、あのような事は起こらなかった――そう信じたのもある。
そして、神蒼玉を得る事によって拓かれる未来。新たな黄金級機の誕生を手にする未来を信じたからでもあるのだ。
そんな二人と小さな一人が乗るのは……巨大なゾウムシである。それも人造の巨大な乗り物であるが。
胸部の上に馬車のような座席と幌が付けられ、ノブ達はそこで運転している。
ゾウムシの後ろには牽引される巨大な台車が二台。それぞれにノブとレイシェルのケイオス・ウォリアーが寝かされ、シートで覆われている。
このゾウムシは大型荷物の運搬車なのだ。
ノブの運転で、ゾウムシは草原の広い道をのしのしと歩いて行く。
「ノブはこんな機体も操縦できますのね」
助手席で感心するレイシェル。
「こいつはケイオス・ウォリアー以外も大概の物は運転できるよ」
ノブの肩であくび混じりのジルコニア。
運転の傍ら、ノブは前を見ながら頷いた。
「旅に必要な技術はいろいろと学んだ。とはいえただ齧った程度のスキルも多いが。まぁ運搬と整備・修理はできないと話にならない。僕の機体は初見だと簡単にはいじれないからな」
それを聞いて、レイシェルは前からの疑問を口にした。
「貴方のEムーンシャドゥ……あれのEとは何を表しているんですの?」
ケイオス・ウォリアーならば三つの階級のどれかに属する。
量産型機が青銅級機であり、名前に冠されるのはB。
カスタムメイドの高性能機が白銀級機、名前にはSがつく。
その上が黄金級機、Gを冠するこの世界究極の兵器。
ノブはやはり前方を見たまま、運転しながら何事でも無いかのように話す。
「あの機体は厳密には白銀級機だから、本来ならSをつけるのだろう。だが黄金級機を模倣して造られたレプリカでもある……神蒼玉が無いから黄金級機になっていないだけなんだ」
「なんですって!? じゃあ神蒼玉さえ有れば、黄金級機をすぐに造れるという事ですの?」
大きな目をさらに見開いて叫ぶレイシェル。
ノブの方は、当たり前の事を話すかのような態度をまるで変えない。
「それは君の家で言っただろう。その通りだと」
確かにアテが有ると言われはした。
だが既に用意できているとまでは思わなかったのだ。
言葉を失ったレイシェルへ、世間話かのようにノブは話す。
「僕の師匠は240年前から、何機もの黄金級機に関わっているからな。ムーンシャドゥにはその知識を流用されたのだ」
レイシェルとてこの世界の住人である。賢者トカマァクの名と偉業は当然知っていた。
「だから僕の機体は金と銀の合金……エレクトラムを名に付けている」
「そ……そうですの」
強張った顔で頷くレイシェル。
ノブは運転しながら何気ない調子で話す。
「一つずつ順番に教えるつもりだったが、まぁいいだろう。僕は黄金級機の設計図にアテが有ると言ったが、それは師匠の事。それはもうわかったと思う。そして神蒼玉を持ち帰れば黄金級機の設計をしていただける。そういう事になっている」
「そうなの……もう設計図がありますのね。Gムーンシャドゥというべき機体の設計図が……」
納得するレイシェル。
しかしノブは首を横にふる。
「今は無い」
レイシェルの大きな瞳が丸くなった。
「え? どうして? ムーンシャドゥの設計図は?」
「破棄された。修理や調整に必要な知識や構造ぐらいならメモを残してあるし、その内容は師匠と僕の頭の中に入っている」
事もなげに言うノブ。
「いやいやいやいや、どうして捨ててしまいますの!?」
レイシェルの語気がつい荒くなる。
だがノブは全く動じなかった。
「大賢者トカマァクの元から奪える奴など、この世にはいない。だが師匠自身がそう思っておられない。師匠は言っていた――昨日までいなかった者と料理の新メニューは、明日現れるかもしれない、と」
ゼロではない確率を警戒し、伝説級の機体の設計図を使い捨てたというわけだ。
取り合いで魔王軍の大幹部まで出向いたほどの貴重品を。
理解の外にある説明に、レイシェルは頭が真っ白になった。
「だから黄金級機の設計図を作成するのは、神蒼玉を持ち帰った後だ。そういう段取りになっている」
ノブは淡々とそう言ってゾウムシの操縦を続けた。
――その日の夕方。二人は街道沿いの宿場町に着いた――
ノブが道を行きながら宿を物色する。
「大型の運搬機が停められる宿はあそこしかなさそうだな。今夜はあそこに泊まろう」
そう言って、大きな広場の隣にある宿に目をつけた。
設定解説
・クイン公爵家
スイデン国で最も有力な貴族家の一つ。
長い歴史の中で王家との婚姻も何度も行われており、何人もの英傑を生んできた名門武家でもある。
特に240年前、当時の魔王を討った勇者パーティの騎士・ダイザックは高貴にして高潔な真の勇士として、同家ならびに同国の騎士達が理想像としている。
なおダイザック自身は放浪の戦士であり、詳しい出自は不明。
美しいエピソードも多いが真偽の怪しい物も少なくないので、他の英雄の逸話が混在している可能性も指摘されている。
ただ魔王軍に滅ぼされそうになっていた当時のクイン家を助け、その娘と恋仲になり、魔王退治後はそのまま婿入りした事は間違いない。
その経緯はこの地方において、小説や芝居の題材として最も人気の高い物語の一つである。




