15 暗躍 2
公爵令嬢にして魔法戦士のレイシェルと、自称最強の霊能者のノブ。
二人は伝説級の最強機を手に入れるため、神の秘宝を求める旅に出た。
だが二人の前に、強大な魔王軍の影が立ちはだかろうとしている――。
クソ寒い日に雨天に見舞われ陽が昇る前から沈んだ後まで働かされた日にこんな話じゃあ世の中たまったもんじゃねぇな。あー道端に10億円落ちてねーかなー。
暗雲の下に、煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔がある。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。
尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。
これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。
だがこの砦には、まだ住人がいるのだ。
叩きのめされた本来の住人達と、それの上に君臨する支配者達が。
支配者の頂点に立つ男は中庭にいた。
身の丈2m、黄金の鎧を纏った屈強な大男。
歳の頃は三十前後か。乱れた灰色の髪と太く荒々しい眉が男の野蛮さを隠す事なく醸し出す。
凶悪な笑みを浮かべる野獣のような顔の、左目は古傷で縦に切られて潰れていた。
この男こそ魔王軍陸戦大隊長ジェネラル・ゴーズ。
男は野太い声で呆れたような声をあげる。
「裏切らせても、あんな雑魚ではどうにもならんかったようだな。ま、相手が聖勇士なら仕方もねぇか」
ジェネラル・ゴーズにつき従っている老人ーーマスタージェイドが肩をすくめた。
「聖勇士にもピンからキリまでおりますが、流石トカマァクの弟子。なかなかの異界流を持っておるようです。予想の範疇内ですがな」
ふん、と顔をしかめるジェネラル・ゴーズ。
「こうなるとクイン家を裏切ってこっちに着いた男を死なせちまったのは惜しかったな」
頭を垂れるマスタージェイド。
「ごもっとも。我々がもう少し早く神蒼玉の情報を掴み、奴の身柄を確保していれば良かったのですが」
「ま、もしそうなってたら神蒼玉は海戦大隊の物になっていただろう。そう考えれば今の状況も悪いわけじゃねぇ」
ゴーズはニヤリと笑った。
「ところで、暗黒大僧正にはどうお伝えしていますかな?」
訊ねるジェイド。
ふん、とゴーズは鼻を鳴らす。
「まだ何も。神蒼玉を手に入れてからの事後報告にするつもりだ。そうでないと空戦大隊と魔怪大隊の連中がくだらんちょっかいを出すからな」
他のニ大隊の名を出す時、ゴーズはいかにも面倒臭そうであった。
「確かに。他の大隊も、神蒼玉となれば目の色を変えるでしょうからな。新たな黄金級機を手に入れるために」
相槌をうつジェイド。
魔王軍、残る三大隊。もしそのどれかが新たな黄金級機を手に入れれば、その力は他のニ大隊を確実に凌駕する。
「次はお前が行け」
後ろに声をかけるゴーズ。
そこにいたのは、壊滅したガデア魔法騎士団の鎧を着た青年。
背の高い大柄な青年である。
鎧を着てはいても、太い首や角刈りのごつい顔から、屈強な肉体を持つであろう事は窺えた。
両手用の大きな剣を背負っているのも、相当な腕力があるからだ。
そんな青年だが……
「お、俺がっスか」
その言葉にも表情にも緊張がある。
恐れているのだ。目の前の男、ジェネラル・ゴーズを。
背丈はさほど変わらないというのに――ゴーズの前では、青年は吹けば飛ぶ小枝のようだ。
青年へと振り返ったゴーズはぞんざいに言う。
「でなければお前なんぞ呼ぶか。レイシェルとかいう小娘を生かして連れてこい。成功した暁には報酬をやる」
「報酬……?」
戸惑う青年に、今度はマスタージェイドが話しかける。
「魔王軍陸戦大隊の親衛隊の地位か。ここを出て自由になるか。好きな方をくれてやろう」
その言葉に青年は目を丸くした。
だが次の瞬間「わかりました!」と叫んで深々と頭を下げる。
平身低頭、完全に服従している青年を見て、庭の隅を指さす。
「こいつもくれてやろう。持って行け」
そこには……巨大な影が蹲っていた。
砦の陰に、低く唸り声を漏らしながら、巨大な魔物が。
「え? これを、ですか……」
戸惑う青年をギロリとゴーズが睨む。
「不服か?」
青年はぶんぶんと首を横に振った。
「滅相もありません! わかりました、ゴーズ様。俺がレイシェルを……あの女を捕まえて来ます」
震え上がって青年は叫んだ。
ふん、と鼻を鳴らすゴーズ。
「ついでに雑兵どもも適当に持って行け。どう使おうが、何人死なせようがかまわん。お前が成功さえすればな」
では失敗した時は?
そんな事は、訊かずとも予想のつく事だ。
真っ青になって、青年は何度もゴーズに頷いた。
彼はかつてレイシェルと同じ騎士団、共に戦った味方だった筈だ。
だが、そんな事は、もう何の意味もなさなかった。
設定解説
・クイン家を裏切ってこっちに着いた男を死なせちまった
レイシェルの兄の一人、ディーン=クインは数年前から魔王軍と内通していた。
だがこの物語の開始直前、黄金級機の設計図を巡る戦いの末、海戦大隊の大隊長の下で戦い、三人の聖勇士に討たれて死んでいる。
このエピソードも前作の出来事である。
彼にも神蒼玉の封印をとく資格はあったのだが、その時はまだこの情報を魔王軍は手に入れていなかった。




