13 我家 5
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する霊能者・ノブが現れ、秘宝探索の旅へと誘う。
明日は日の出前に車で走らねばならないのでそれ以上の説明は難しいが、これも世の中と政治が悪いんだ。
部屋を微かな振動が襲った。中庭から大きく硬質な足音が響く。
動揺する家人達の中、驚いた様子もなく呟くノブ。
「失敗を察した時は、彼……ドーネルがケイオス・ウォリアーでレイシェル殿を捕える手筈だそうだが。来たな……」
彼は窓からバルコニーに出た。城門を潜って迫って来るケイオス・ウォリアーが一機見える。
剣闘士型の量産機Bソードアーミーだが、左腕には弩ではなく盾が装備されていた。その盾の下先端から円筒の砲身が出ているのが見える。射撃武器と一体化したタイプの装備だ。
見る者が見ればわかろう。ただの量産機ではなく、装備が強化されている事を。
だがノブは落ち着き払って片手を軽くふった。青い輝きが粉のように静かに舞う。
と、別の振動が部屋に響いた。それもかなり近い。
すぐに横手から薄い琥珀色の巨人が出て来た。ノブの乗機、Eムーンシャドゥである!
ノブの後ろでそれを見たレイシェルが驚きに目を丸くする。
「動いている!? 誰が乗っているの?」
「別に誰も。念動力で手を触れずに物を動かす、超能力系呪文の一つ【テレキネシス】で操縦席を操作している。離れて見えない所にある物を動かすのはこの呪文でも至難の業ではあるが……操縦席内部は隅々まで知っているし、僕は地上最強の霊能者だからな」
平然と言うノブの前で、ムーンシャドゥは立ち止まった。腹部のハッチが開く。
ノブは操縦席へ跳んだ。ジルコニアも素早く飛んでいき、一緒に入る。
ノブが入ると操縦席のハッチが閉じる。ムーンシャドゥは迫るソードアーミーへと向かった。
「共犯者は全て捕えた。降伏しろ」
ソードアーミーに通信を入れるノブ。
操縦席のモニターに相手が映った。宿泊を勧めてきた若い騎士が、忌々し気に睨んでいる。
『断る。レイシェル様をこの機で直接捕えれば済む事だ』
その会話は外部用スピーカーを通しており、レイシェルにも聞こえた。
「どうして、そこまで……!」
バルコニーに出て辛そうに叫ぶレイシェル。
ソードアーミーの顔が彼女へと向く。
『公爵家の正騎士団、それの副隊長……将来は隊長まで視野に入っていたのに。あんたら兄弟のせいで台無しだ! 人をエリートの階段から蹴り落しておいて、よくも被害者面ができる!』
その言葉にレイシェルは衝撃を受けた。
誇りある公爵家の失墜が、彼を歪めてしまったのか。
「それでも……神蒼玉を手に入れれば、伝説の黄金級機を造る事ができるようになりますわ。今の時代、どの国も有していない究極の戦士が。それがあれば魔王軍へのこれ以上無い切り札になる。魔王を討つ剣そのものにさえなるかもしれない。ディーン兄様は道を誤ったけれど、それを十分に取り戻す名誉になる筈ですわ!」
レイシェルは叫んだ。
騎士ドーネルへ。そして自分へと。
だがドーネルは言った。
『隣国へ行っていたから知らないのですね。近い将来、黄金級機は我が国の物になります。設計図も、神蒼玉も、両方を既に国は手に入れていますから!』
「え……!?」
目を丸くするレイシェル。
ドーネルは叫ぶ。
『あんたの兄を倒した勇者達が、両方を齎したんですよ! 今さら片方だけ一つ増やした所で、もう遅い!』
頭が真っ白になって立ち尽くすレイシェル。
ノブの肩でジルコニアが笑った。
「お、“もう遅い”が出たな。言われたの、私らだけど」
ドーネルは怒りに燃える言葉をレイシェルにぶつけた。
『もはや取り戻せないあんたの兄の罪! あんたに贖ってもらう!』
それを聞いたノブは溜息をつく。
「呆れた八つ当たりだ。罪人の妹だから当の罪人でなくても断罪するとは、凄い理論だな。僕には理解できないが……まぁ腹いせの屁理屈を理解するのは僕の目的ではない」
『鬱陶しい! 横からしゃしゃり出ずに、宝探しでも何でも勝手にしていれば良かったものを!』
怒りに怒鳴り、ソードアーミーは剣を構えて突っ込んできた。
斬撃が閃く!
月明りしかない城の中庭で、それは視認のし難さも手伝い、まさに閃光のようだった。若くして騎士団副隊長になろうかという男の腕前は、既に一流の域にあった。
だが――その剣が振り下ろされた空間には、既に相手はいなかった。
剣が繰り出されるのと同時にムーンシャドゥは動いていたのだ。
ところが避けられたとわかった途端、剣は刃の向きを変えて横に振るわれる! 敵の回避や防御に瞬時に対応する、生きた実戦の剣技だった。
が、その一撃は簡単に受け止められた。
甲高い音を立てて、シャドゥの腕でブロックされて。
(性能もあるでしょうけど、ノブの腕前は……まるで相手の剣がどこに来るかわかっているかのようですわ)
なんとか我を取り戻したレイシェルは、戦いを見ながらただ感心するばかりだ。
一方、操縦席内。
ノブの肩でジルコニアがギザ歯を剥き出しにして笑う。
「クヒヒ……ノブ、なんで遊んでんだ? 回避成功回数で制圧ポイントが貰える時代でもないぞ」
通信機越しにドーネルが歯がみする。
『馬鹿な……なぜこうも捉えられない! 俺の攻撃が読めるとでも?』
ジルコニアはノブの肩でげらげらと笑った。
「読めるんだな、これが。ノブは霊能者、超能力を鍛える魔術師だぞ。あんま知られてないけどな――ケイオス・ウォリアーの操縦にも【超能力スキル】は有効なんだぜ? 命中・回避を補正して底上げするからな!」
「そうなの……呪文ではなく、そんな形で霊能者の力をケイオス・ウォリアーに使っていましたのね」
レイシェルはやっと理解した。
ノブがずっと、霊能者の魔力を操縦に使っていた事を。
ムーンシャドゥの鋭い攻撃と的確な回避こそ、その魔力の発現だったのだ……!
設定解説
・超能力スキル
精神力で超常現象を起こすパワーを大雑把にこう呼ぶ。
細かく分類すれば様々な能力があるのだが、ケイオス・ウォリアーに搭乗して使う時には「命中率・回避率を上げる」効果となる。
様々な世界から様々な超能力者が召喚されてきたので、効果はいまいち定まっていない。
攻撃力も上がっていた者、SP消費の軽減もしていた者、バリアの強度を増加していた者等がおり、肝心の補正値も微弱だったり1レベルあるだけで60%以上の補正が入っていたり(明らかにバグ)と様々。
「命中と回避が補正されているから【超能力スキル】だろう」程度の判断で分類してきたためにこうなったと思われる。
このインタセクシルには「超能力系魔法」があったので、これを鍛えればケイオス・ウォリアーの操縦を後押しできるのでは?と考えた者も僅かながら居た。
だがこの系統の魔法使いである「霊能者」自体が戦闘の不得手なクラスであり、結果的には普通に鍛えた戦士や戦闘向きの魔法使いの方が強かったという残念な記録がある。
よってノブはおそらくインタセクシル初の例外的な霊能者であり、操縦者という事になる。




