105 二人 8
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝神蒼玉探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに神蒼玉を入手。旅の目的を果たした。
だがノブの師匠の所へ戻った折、そこでノブが生体改造の実験でできた人造人間だと判明。
己の出生を知ったノブは一人自己を確立するため新たな旅に出ようとしたが、レイシェルの想いがそれを繋ぎとめる。
そして迫る敵へと勝利した――。
大賢者トカマァクは語る。かつての弟子、ワーグラの事を。
『身内贔屓で言うわけではありませんが、非常に優秀な魔術師でした。今から30年近く前の、前魔王軍との戦いでは、一時的とはいえ勇者パーティにいた事もありますよ』
「元正義側か!?」
驚きで大声をあげるオーガーハーフエルフのエリカ。
大賢者はそれに頷いた。
『はい。功績も大きかった。我が一門の手持ち周回ボーナスから、いくつかの有益なアイテム作成法を勇者に伝えるよう、私は彼にクエストを与えました。それを勇者パーティに参加して見事に成し遂げたのですが‥‥』
「何か問題でも起こしたのね」
冷めた口調で言うリュウラ。
ワーグラ‥‥マスタージェイドに良い感情を持っていないのは明らかだ。
だが大賢者は‥‥
『ある意味では』
そう言って認めてしまう。
『彼は学者で研究者という一面もありましてね。今までのアイテム作成法を応用し、彼独自の新アイテムを開発してしまったのです。その【ハイパータブレット】は戦意とENを40ずつ上昇・回復させる消耗品でした』
「ちょっと便利そうですわね。使うタイミングは難しそうですけど」
レイシェルのその言葉に大賢者は頷く。
しかし触手で近くの水晶玉に触れ、映像を映した。
腰部のアイテム収納部を凄い勢いで開け閉めするケイオス・ウォリアーを。
『少々、意外な効果がありましてね。使おうとしてパワーを解放し、途中でやめてキャンセルすると、戦意とENは上がるのに消費しないんです。事実上、戦意は即最大、ENは無限です』
「狂ってますわよ!?」
平然という大賢者に思わず叫ぶレイシェル。
トカマァクはぴょこぴょこと触手を振った。
『ええ、まぁ。しかしそのおかげで勇者達は快進撃を続け、魔王を打ち倒す事ができました。初見殺しの罠を仕掛けるのが大好きな巨大生命体でしたが、それを力づくで無理矢理打ち敗れたのです」
「そのアイテムの作成方法は残っているのか?」
興味深そうに訊くオウキ。
しかし大賢者の答えは素っ気なかった。
『あ、今は修正されて、本来の効果しか出ませんよ』
肩を竦めるオウキ。
それを置いといて、大賢者は話を続けた。
『しかし彼は凱旋した後、アイテム作成法の開発に憑りつかれました。限られた者しか使えない超兵器や超必殺技などより、誰でも使える有益な道具こそ真に価値がある。その信念を得て。そんな彼が目指した究極のアイテム作成が‥‥』
「神蒼玉。この世界最強の兵器、黄金級機‥‥それが七体しか造れない理由」
ノブが師の言葉に続けた。
「え? でも黄金級機は異界流に極限まで覚醒した奴でないと使えないから、誰でも使える道具じゃないんじゃ‥‥」
エリカが首を傾げる。
しかし大賢者は触手を左右に振って否定した。
『ああ、問題ありません。神蒼玉のパワーを可能な限り発揮しようとするから異界流が無茶に必要となるだけで、性能にリミッターかければ必要異界流は下げられますから』
「え? 初めて聞いた」
リュウラが目を丸くする。
『ええ。まぁ白銀級機の中では一番強いとか、白銀並に強い青銅級機とか止まりになりますから、現状だと勿体なさ過ぎて誰もやらないだけです』
その師の言葉に、ノブはメガネをくいくい弄りながら考えた。
「しかし神蒼玉が量産でき、別に勿体なくもなくなれば‥‥ケイオス・ウォリアー全ての戦闘レベルが数段上がる、それこそ時代が変わる技術革命になる」
頷く大賢者。
『はい。ワーグラはそれを目指し、それが自分にはできると思ってしまったのです』
「そして、挫折した‥‥」
レイシェルが呟いた。
「小説は字が書ければ誰でも書ける。しかし名作を書けるのは一部の才能ある者だけ。ましてや時代の流れを変えるほどの革新的な作品など、狙って書ける物でもない」
リュウラのその言葉に、大賢者の目が悲し気に半ば閉じられる。
『そう悟ってくれれば、ワーグラは優秀な設計者であれました。けれど彼は優秀な者止まりに我慢ならなかったのです』
「そして自分の限界を破ろうと?」
レイシェルが訊ね‥‥大賢者は遠い目で、小さな声で答えた。
『魔力と寿命が足りないだけだ。私の希望を掴むのは私しかない。彼はそう言っていました』
設定解説
・バグってる、修正される
魔法というのは世界の様々なエネルギーに干渉する神秘の力だ。よって思わぬ効果が出る事もある。
極まれにではあるが、変な使い方をすると思いがけない効果を発揮する事もある。時に異常な、致命的な、壮絶な効果が出る事も。
そう言った効果を「イカれてる」という意味で「バギー」と呼ぶ俗語があったが、それが長い間に「バグ」「バグってる」等と呼ばれるようになったのである。
しかしそうした「バグってる」効果は、時間が経つと消えてなくなり予定されていた効果しか出なくなる。
これは魔法・魔力の類が起こす異常な変化・干渉を、世界や自然が持つ修復力が打ち消し、影響させなくする――いわば世界に「耐性」が生じるからだ、とされている。
こうした「本来の効果への正常化」を、この世界では「バグが修正された」という言い方で表現するのだ。




