104 二人 7
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝神蒼玉探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに神蒼玉を入手。旅の目的を果たした。
だがノブの師匠の所へ戻った折、そこでノブが生体改造の実験でできた人造人間だと判明。
己の出生を知ったノブは一人自己を確立するため新たな旅に出ようとしたが、レイシェルの想いがそれを繋ぎとめる。
そして迫る敵へと勝利した――。
ダンジョンの格納庫へ凱旋するノブ達。
どの機体も損傷と消耗が激しい。エルフ作業員達に整備を任せ、ノブ達は大賢者トカマァクの部屋へ向かった。
水晶玉がいくつも浮かぶ部屋で、大賢者は一行を待っていた。
触手をあげて迎える。
『よくぞ戻りました、ノブ。貴方が望むなら、次のクエストを与えようと思います』
その言葉にノブは、毅然と、力強く言う。
「ありがとございます、我が師よ。しかし今はお受けできません。今後の事をレイシェルと相談せねばなりませんので」
それを後ろで見ながら、オーガーハーフエルフのエリカが小さな声でリュウラに訊く。
「なんかちょっと雰囲気変わってないか?」
「知らない」
リュウラはぷいと横を向いた。
ノブの言い分を受け、レイシェルは顎に手を当てながら言う。
「私、考えましたけど。神蒼玉を首都へ持って行こうと思いますわ」
「え!? ここで黄金級機を造るんじゃないのか?」
驚くエリカ。
「海戦大隊を壊滅させたという、三人の勇者に会いたいんですの」
それがレイシェルの答えだった。
エリカの表情に困惑と疑惑が混じる。
「まさか、そいつらにくれてやるつもりじゃ‥‥」
「場合によっては。真に信頼できる方々であれば」
レイシェルは頷いた。だがこうも付け加える。
「勇者は三人、でもあちらの神蒼玉は一つだけ。滅多に手に入る物じゃありませんもの、我が家の物があちらに要るかもしれません。だから魔王を打倒するまで貸す事も考えます」
今度はリュウラが疑念混じりに訊く。
「返されると思うの? 強い人が良い人だと限らない」
しかしレイシェルは微笑んで見せた。
「それを見極めるためにも会いたいのですわ。駄目だと思ったらここへ持ち帰り、私達が使います」
「そうだな。会ってみようぜ。それからでもいいじゃんか」
エリカも話を聞くうちにその気になったようだ。明るい声で賛成した。
それを聞きながら、オウキは「フッ」と笑って、小声で呟いた。
「あいつらならむしろ、あっちの神蒼玉をくれるかもしれんな」
『わかりました。ではできうる限りの準備をしなさい。おそらく、道中で仕掛けてくる者がいる筈です』
大賢者のその忠告に、ノブは神妙な顔で頷く。
「はい、僕もそう思います。我が兄弟子ワーグラは首都までに来るでしょう。レイシェルの神蒼玉を求めて。それをもし奪えたら、次は首都の物でしょう」
大賢者も頷き、同意した。
『ええ。彼はどこまでも自己を人工進化させるつもりでしょうから』
それを聞いたノブの眼光に、鋭さと真剣みが増す。
「我が師よ。教えていただきたい。兄弟子ワーグラの目的は自分の改造強化。しかし、それは何のためなのです? ご存じありませんか?」
数秒、大賢者は沈黙した。
そして厳かに言う。
『知っていますよ』
その言葉に、レイシェルはほんの少し苛立った。
「ならなぜ言わないんですの?」
『一つは、教えた所で現状は変わらないし、貴女達の戦いが楽になるわけでもなかったからです』
大賢者のその返答に、レイシェルは睨むような目を向ける。
「勝ち負けだけなら、そうかもしれませんけど‥‥」
だが、大賢者からの返答はそれだけではない。
『もう一つは、ワーグラにも道を踏み外す前の苦悩があったからです。道を誤っているとはいえ、破門したとはいえ、彼個人の悩みを聞かれもしないのにペラペラ喋りたくありません。彼はかつて、私の教え子だったのですから』
そう言われるとレイシェルも言葉に詰まった。
だが今度はノブが訊く。
「我が師よ。僕はそれを知りたい。兄弟子ワーグラは僕を造った親なのでしょう。その因縁の真実を、僕は知りたいのです」
『ワーグラ自身がノブを造ったと断言はできませんがね。しかしノブには聞く権利がある。いいでしょう、話しましょう』
そう言うと大賢者は他の者に目を向ける。
ノブ以外の皆が、互いに顔を見合わせた。
「えーと、あたし達は‥‥」
困って頭を掻くエリカ。
だがリュウラは大賢者に視線を戻すと、臆する事無くいう。
「命かけて戦わなければならない相手。聞く権利はある」
一瞬だけ考えたようだが――大賢者は頷いてみせた。
『そうですね。確かにそうです。では話しましょう』
そして改めて。
意外とあっさりした理由を告げる。
『ワーグラは自分の能力に限界を感じたからですよ。限界値を上げたいのです、彼は』
首を傾げるエリカ。
「上げて何を?」
『新たなアイテムの、その作成法の創造です』
大賢者のその答えに、今度はリュウラが訝しげな顔をする。
「アイテムではなく作成方法?」
頷く大賢者トカマァク。
『ええ。作成の秘術です。彼は、神蒼玉を造れるようにしたかったんです。自分が造って増やすのではなく、自分以外の他者でも造って増やせるようにしたかったんですよ』
設定解説
・マスタープリースト
別の世界で魔族軍の要職についていた神官。
野心家で下剋上を目論み、主君の恋人を人間に殺害させて主君の怒りを煽り、禁断の秘術を使わせるよう仕向けた。
主君は人間の勇者に討たれ、秘術は主君が使ったデータを元にさらに完成度を高め、魔族軍も掌握して、我が野望成せり‥‥と悦に浸っていたら、主君とその恋人が蘇って勇者と手を組んで自分を討ちに来るという仰天の展開を食らう。
当然のように敗れ、そのまま消滅する筈だったが、運よくこの世界に召喚されて際どい所で一命をとりとめた。
今度こそ成り上がってやろうと、魔王軍に入って人工進化の技術を開発しているチームに参加。どこにでも似たような事を考える奴はいるものだと感心しながら研究に勤しむ。
新たな技術をケイオス・ウォリアーに流用しつつ、いつか進化の技術を完成させて自分に使い、今度こそ無敵の大魔王になるのが夢。
なお彼がどんな神を信仰しているのかは誰も知らない。




