103 二人 6
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝神蒼玉探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに神蒼玉を入手。旅の目的を果たした。
だがノブの師匠の所へ戻った折、そこでノブが生体改造の実験でできた人造人間だと判明。
己の出生を知ったノブは一人自己を確立するため新たな旅に出ようとしたが、レイシェルの想いがそれを繋ぎとめた――。
『何奴!?』
攻撃を邪魔されたティアードフェイスから叫ぶマスタープリースト。
『私達以外いるわけがないでしょう!』
そこに立っているのは、SエストックナイトとEムーンシャドゥの2機。
レイシェルとノブだった。
忌々し気に奥歯を噛むマスタープリースト。
ドラゴンライダーに付近の偵察を命じ、増援がありそうなら報告せよと命じておいたのだが。それによって手下を差し向けて足止めするつもりだったが。
『ふん、馬鹿どもめ。まぁいい。ここで仕留めるだけの事よ』
能無しの部下をなじりながらも、気を取り直して2機を迎え撃つ事にした。
だがストックナイトの右手に魔力の光球が生じる。
『【光熱の領域、最終第七の段位。真なる極小の核は分かれ融合する。速き風は光と共に全てを滅する】――ニュークリアーブラスト!』
核撃の魔力弾が敵機へ飛び、炸裂!
光と熱波が半球を生み出し、空と大地を焼いた。
だがその爆発も収まらぬうちに、巨体がぬうっと顔を出す。
『やるな‥‥しかし!』
灼熱の炎が腕から放たれ、エストックナイトの全身を焼く。
炎の地獄で必死に持ち堪えるレイシェル。そして――
『ふん、ぬう!』
掛け声一発! 炎を押しのけるように振り払った!
『こ、こやつ!?』
レイシェルの底力に驚きを見せるマスタープリースト。
その隙にムーンシャドゥが炎を潜って走った。
「魔王剣!」
ノブの声と共に深紅の刃がマントの陰から引き抜かれる。
紅い斬撃が一閃した。
ドス黒い紫の装甲を切り裂く刃!
だが‥‥それは途中で動きを止めた。
ティアードフェイスが掴み、力任せに握りしめた事で。
嗤うマスタープリースト。
『く、ふふ‥‥耐えられん威力では無いな。貴様の武器はそれが限界か』
次の瞬間、反対側の巨大な手が叩きつけられた。
爪に引き裂かれ、掌で撃たれ、ムーンシャドゥが吹っ飛ばされて近くの岸壁へめり込む!
その光景に、ザウルライガーが再び立ち上がった。
『ノブ! かくなる上は私が刺し違えても‥‥』
その後ろでコカトリスも立ち上がる。
『それなら俺の方が慣れている』
しかしノブはシャドウの体を岸壁から剥がした。
そして二機へ通信を送るのだ。
「そんな力添えなら不要だ。引っ込んでいてもらおう」
『ノブ!? そんな言い方ないだろ?』
艦のサブ座席から抗議の声をあげる、オーガーハーフエルフのエリカ。
ノブが気を遣った優しい言い方をする事はあまりない。だが味方を足手まとい扱いするような、こんな横柄な言い草はもっと無かった筈だ。
だがノブは。
「いいや。ここで死ぬような戦い方をするつもりなのがおかしい。この旅で得た仲間は、そんなに弱くは無い筈だ」
そう言って機体を立ちあがらせた。
装甲はあちこち破損している。だが力強く立ち上がった。
『え‥‥ノブ、貴方、今‥‥』
小さく呟くレイシェル。
旅で得た仲間。ノブがそんな言い方をするのは初めてではないのか。
何かが彼の中で変わった。
それが何か、上手く言葉にはできないけれど。
自分の一番大切な人が、とても頼もしく見えて‥‥それが嬉しい。
そしてノブは言う。
「そもそも僕の迷いで遅れ、その間戦ってもらったのだ。対等であるためには、その借りを今返さねばなるまい」
その機体ムーンシャドゥは、両腕を腰だめに身構えた。
「僕自身が得た物をここで出す。出し方が‥‥わかった」
断言するノブ。
その時‥‥不思議な事が起こった。
ムーンシャドゥの全身に光が満ちる。月光のようでもあり、日光のようでもある。さながら光のオーロラを身に纏ったような‥‥!
『新機能でも追加したのか? だがそれが通じるかどうかは‥‥』
その声に多少の警戒が混じるものの、マスタープリーストにはまだ余裕があった。
しかしムーンシャドゥは走る。
迎え撃つべく灼熱の炎を吐くティアードフェイス。
「ブレイブドライバー!」
ノブが叫んだ。
シャドゥの纏うオーロラに緑の輝きが加わった。
迸る炎を前に、シャドゥは跳ぶ! 跳んで避ける。
そして宙で、両足で蹴りを繰り出したのだ。
言わばドロップキックである。
高角度で、力強い。だが実に単純な技である。
性能、技術、技量、魔力‥‥それらが極限に近い戦いで、切り札として出す技が今さらそれだった。
だが――
炎を超えて放たれるその蹴りを、マスタープリーストは巨大な手ではたき落とそうとした。
蹴りと掌が交錯する。
爆発!
光が弾け、ティアードフェイスの片腕が吹き飛んだ!
にも関わらず、蹴りは勢い止まる事なく敵の体に炸裂!
遥かに優る巨体が、たわみ、吹き飛び、転がった!
着地するムーンシャドゥ。
その前方で、ティアードフェイスがよろよろと立ち上がった。
しかしその体の、蹴り込まれた部分には、太陽か夜空の満月が刻印されたがごとき光の輪が輝いている。
そして輝く輪からはエネルギーの奔流が火花となって漏れ出ていた――
エネルギーの奔流は機体内で荒れ狂い、全てを粉砕する。
火花の散る操縦席でマスタープリーストが呻いた。
『ば…ばかな‥‥それとも、これは‥‥進化の途上が‥‥見せる、幻覚‥‥なのか‥‥。我こそは‥‥今度こそ、世界を‥‥支配する‥‥魔族の王‥‥』
ティアードフェイスが爆発した。
爆発に背を向けるムーンシャドゥ。
ノブは呟いた。
「月は太陽を得た。僕は‥‥最強の霊能者だ」
設定解説
・王者の石の閃光
Eムーンシャドゥの追加武器。攻撃力6000+改造による強化分。
正確には武器ではなく、操縦者の精神に呼応して発揮される、瞬間的な能力増幅機能である。
その武器名はこの世界インタセクシルの神話が由来。
創世のすぐ後、王を決めるべく覇権を争って太陽と月が戦った。
太陽が勝者となり、それが支配する時間が命満ちる昼となった。
その太陽の心臓が「王者の石」であり、一説には敗れた月の力を吸収して完璧となった物なのだという‥‥。




