106 暗躍 13
売国奴として討たれた兄のせいで騎士団から追放された令嬢騎士レイシェル。
そんな彼女の前に最強を自負する転生者にして霊能者・ノブが現れ、秘宝神蒼玉探索の旅へと誘う。
長い旅の末、二人は数々の仲間とともに神蒼玉を入手。旅の目的を果たした。
だがノブの師匠の所へ戻った折、そこでノブが生体改造の実験でできた人造人間だと判明。
己の出生を知ったノブは一人自己を確立するため新たな旅に出ようとしたが、レイシェルの想いがそれを繋ぎとめる。
そして迫る敵へと勝利した――。
暗雲の下に、煤け、ひび割れ、穴の開いた尖塔がある。戦いによって無残に砕かれた尖塔が。
尖塔だけではない。砦全体が同じような有様だ。はた目には廃墟としか見えないだろう。
これが以前はコノナ国最強と謳われたガデア魔法騎士団の砦だと、誰が信じるだろうか。
そしてもう、この砦に住人はいなかった。
もはやもぬけの殻‥‥生者は誰もいない。
砦の崩壊も一気に進み、もはや見た目どおりの廃墟だ。
生者はいないが、死者ならば多数が転がっていた。
穿たれた地面に、崩れた建物に。めり込むように、体を投げ出すように。
血を流し、あるいは焼け焦げ、あるいは砕けて。
魔王軍の兵士達が躯となっていた。
躯と同じぐらいの数、ケイオス・ウォリアーの残骸もあった。
ことごとく打ち砕かれ、ばらばらになり、廃墟のあちこちでうず高く残骸の小山を作っている。
彼らは陸戦大隊長を慕っていた兵士達。
隊長とともに砦へ戻り、裏切り者・マスタージェイドを討とうとしていた者達だ。
だが哀れ、屍と成り果てたのは彼らの方だった。
彼らの大隊長はどこにも見えない。
乗っていた筈の機体も無い。
ただ‥‥砦の庭から裏の川へ、大きなわだちが地面に刻まれていた。
なにか大きな物が、途方もない勢いで砦から川へ吹き飛ばされたのだろう。
砦にいた他の魔物達も、もうどこにもいない。
砦にいた騎士団の生き残り達も、もうどこにもいない。
ある者は戦いに巻き込まれ、屍の中に加わった。
そうでない者は砦から逃げ出した。もうこんな所に戻ってくる事もないだろう。
陸戦大隊長ジェネラルゴーズ。
それに心酔し、従っていた兵士達。
彼らは敗れたのだ。
そしてこの惨劇となったのである。
雨が降って来た。
敗者の躯と、墓標になった砦を、冷たい雨が濡らす。
砦には生者はいない。
誰もいない。
ならば‥‥勝者はどこへ?
これから、ノブとレイシェルをかつてない敵が襲う。
二人がそれと戦う事は運命だったのだ。
レイシェルは神蒼玉の継承者だったが故に。
ノブは同じ師の弟子であるが故に。
二人をかつてない敵が襲う‥‥。
設定解説
・なにか大きな物が、途方もない勢いで砦から川へ吹き飛ばされたのだろう
そして水の中に落ちたのだろう。
これは絶対に死んでいるはずである。




