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鬼絵巻 〜恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第11章 〜夢の終わり〜

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洒落にならない話の後で

「葵! なんてことしてくれんねんっ!」

「こんな密閉の所であの大群を放逐するとか、マジで狂ってるでしょ? あたし達を殺す気だったわけ!」

 葵に向かって怒りを露わにする蓮条と瑠璃嬢。

 しかし二人に怒りを向けられたとしても、葵は至って冷静な様子で座布団の上に鎮座している。とてもゆったりとした様子だ。

「私に怒られる筋合いはないわよ。私はただ参加者として怖い事をしただけ。それにそんなに怒らなくても部屋は綺麗さっぱり。元のままじゃない?」

 葵の言う通りだった。

 先程の大騒ぎがあったにも関わらず部屋は、騒ぎが起こる前の状態だ。

 溶かされたはずの畳もなく、鬼兎火たちが斬り捨てた魑魅魍魎たちの血飛沫も血溜まりは愚か肉片すら残っていない。

 この状態だけで言えば、自分たちが幻覚に掛かっていたのでは? と思ってしまいそうになる。けれど蓮条は断言して言える。先程の騒動は幻覚の類ではない。それこそ葵ならば幻覚で魑魅魍魎などを作らず、本物を自分たちへとぶつけてくるはずだ。

「じゃあ、何でそこの女は大ダメージを受けてるわけ?」

 瑠璃嬢が鋭い表情のまま負傷している夜鷹へと視線を向けた。全身が血に染まっている夜鷹は意識があるものの、苦痛な表情を浮かべている。

 するとその夜鷹の状態を彼女の横にいた菖蒲が、応急処置を施しながら口を開いてきた。

「蓮条、瑠璃嬢。この立川夜鷹が負傷したのは呪詛返しにあったから」

「呪詛返し? ってまさか!」

 反射的に蓮条が百合亜と仲直りをしていた魘紫の方へ振り返る。

 蓮条の考えを肯定するように、菖蒲が首肯してきた。

「そう。魘紫は自力で自分を操っとった呪縛を解いた。だからその反動が契約者であった立川夜鷹に降り掛かったんや。まぁこれはこれで自業自得って奴やな」

「ふふ。それでも治療は施して頂けるのですね? お優しい限りです」

「別に優しくしとるわけやない。隣で流血しとる人間を放置するのは、倫理観的に嫌なだけや」

「おほほ。なに? ここでラブでも始まっちゃう?」

 夜鷹と菖蒲のやり取りに、葵がニタニタと笑みを浮かべて茶々を入れる。

「アホ、始まるわけないやろ。葵、そんな下らない事を言うてへんで、自分の身を心配した方がええで?」

 菖蒲が葵にそう言いながら、桔梗の方へと視線を向ける。

 桔梗は百合亜と魘紫を座布団の上に座らせると、ゆっくりと立ち上がり、葵へと殺気を放っていた。

「ホンマに君は碌でもない事しかしないね? こんなに碌でもない事が好きなんやったら、いっそ人の形を辞めて害虫にでもなったら? あっ、でもまだ害虫の方がマシかもね?」

さっきの騒動で一番被害を受けた桔梗だ。

 その怒りは尋常ではない。

 けれどそんな桔梗に対して、葵がやれやれと言わんばかりに溜息を吐いてきた。

「全くどうしてそんなに怒るのかしら? それにいつ百物語がお話だけをすれば良いと? 百物語はホラーだけじゃなくて、摩訶不思議な話でもオッケー。ならお話だけじゃなくて、体験型があっても変ではないじゃない? とても怖かったでしょう?」

 もっともらしい言葉を吐く葵に対して、桔梗の怒りはドンドン増えていく。

「うん、そうやね。確かに恐怖体験をさせるって意味だと正解やけど……君の場合は加減が無さすぎて迷惑に過ぎないんよ。だから……椿鬼。アイツに其れ相応の報復を」

「畏まりました、主。私にお任せください」

 桔梗の命令に即座に反応をする椿鬼が葵に向け、ライフル銃を構える。そして躊躇う事なく引き金を引く。葵に向かって飛翔する銃弾。その銃弾の数は椿鬼による早撃ちによって、機関銃による自動掃射のようだ。その銃弾たちが降りやまぬ雨のように飛んでいく。

「室内で銃を乱れ撃つとか、コイツの方が人を殺す気満々なんですけどぉーー。てか、お前この銃どこで仕入れてきたんだしぃーー」

 誰もが桔梗に尋ねてみたかった点を葵が口にする。そのため自ずと蓮条たちの視線が桔梗へと向かう。

 しかし全員の視線を受けた桔梗は柔和な笑みで微笑み、

「そうやねぇ。僕が独自で持つ裏ルートってやつ。まぁでも大丈夫。非合法組織からの回し物って訳やないから」

 そう述べてきた。

 とはいえ、桔梗が口にした言葉の中に答えは含まれていなかった。

 非合法ではないというが、銃を持つ非合法組織ではない組織を考えると、警察か軍事関係者ぐらいしか想像ができない。でもその二つの組織が民間人に銃を渡すとは思えない。

(やっぱり、椿鬼のライフル銃の貰い先の真相は闇の中になりそうやな)

 蓮条がそう思いながら小さく溜息を吐いていると、

「蓮条、瑠璃嬢。葵のアホは桔梗に任せて。僕らは百物語を続けるで。桔梗、葵を撃ち続けとってもええから、行灯の火だけは消させはってな」

「そうやね。椿鬼」

 桔梗が椿鬼の名前を呼ぶ。

 すると銃弾を撃ち続けていた椿鬼がライフル銃を終い、目にも止まらぬ速さで葵を捕縛縄で縛り上げた。

「いやん。葵、縄で縛られるとか初めてなんですけど?」

「嘘やね。それ。だって君、琵琶湖の時に人間ロケットをしたやろ? アレはホンマに実物やったわ」

「桔梗、テメェ。葵の黒歴史をほじくり返しやがって! こんな事ならもっと痛めつけてやるんだったわ」

 桔梗に悪態を吐きながら葵は椿鬼によって、隣の部屋へと連行されていく。

 煩い葵が消えるとようやく室内に静寂が戻ってきた。

「魘紫も術式が解けて戻って来れた事やし、僕らもはよう外に出ないとな」

 場の空気を仕切り直すように菖蒲が口を開く。

 そして菖蒲が語った話は、とてもとても短い言葉だった。

「ーー僕たちがここに閉じ込められて、もう既に二十四時間以上が経過してしもうとるみたいや」

 低い声で告げられた菖蒲の言葉に、蓮条たちが目を丸くさせる。

 ここに来た蓮条たちの感覚で言うと、まだ一時間も経っていない。

 それともさっき起きるまで気絶していた時間が長かったというのだろうか?

「蓮条たちが動揺するのは分かる。けど、どうやら……この結界内と外では時間の差が目紛しく変化するみたいや」

「変化するってどういうこと?」

 菖蒲に尋ねたのは、いまいち状況が飲み込めていない瑠璃嬢だ。

「分かり難いのは確かやな。まぁ簡単に言ってしまえば、外とここでは時間感覚が全く異なるってこと。それも一定の差が開いとるんやなくて、その都度、その都度でその振り幅が変わってしまう。だから僕らがこうしている間にも、向こうでは一時間、一日、一週間と流れてる場合もあれば、僕らがここで一日過ごしても、向こうでは十秒にも満たない時間の場合もあるってことや」

「……確かに出鱈目過ぎて怖いね。その話」

 葵を椿鬼に任せ、部屋に残った桔梗が溜息を吐く。

(まさか時間感覚がここまでバラバラやったなんて……)

 菖蒲の言葉に蓮条は背筋に悪寒が走った。先程の葵の時とは別種の恐怖が蓮条たちを襲う。

「でも、怖い話の後にはええ話もあるで」

 青褪めた表情の蓮条たちを見て菖蒲がそう言うと、静かに席を立ち上がり、奥の部屋へと消えていく。

 菖蒲の背中を見ながら眉間に皺を寄せる瑠璃嬢が、

「菖蒲の話って、姐さんとは別の意味で洒落にならないから厄介なんだよね」

 愚痴っぽく言葉を吐き捨てた。

 物理的な脅威は何とかできても、時間という脅威に対してはどうする事もできない。怪訝な表情を続ける瑠璃嬢もそれを思っているのだろう。

「でもそれで僕たちのやるべき事は一つ。この百物語を早く終わらせること。あーー、ホンマに向こうに戻ったら、葵を八つ裂きにしてやるしかないね」

 桔梗の言葉に蓮条、瑠璃嬢、そして応急処置を受けた夜鷹が静かに頷いた。

 今の話を上手く理解できていない百合亜と藤は、小首を傾げている。

 その間に、奥の部屋に行っていた菖蒲と縄に縛り付けられた葵が部屋へと戻ってきた。

 菖蒲たちが戻って来た瞬間、部屋に再び異変が起こり始めた。

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