紫陽の本懐
「それにしても驚いたな。まさかあと一歩の所で儚が別の場所に移されてんだから」
縁側に腰を下ろして魄月花が佳たちの方を見ながら言う。
暗に「お前らがやろうとしていた事は分かってる」というのを伝えたつもりだ。
そしてその魄月花の真意を佳たちも捉えたようだ。
「やっぱり紫陽さんが俺らに気づいて、移動させたんやろうか?」
「さぁ。そこら辺はあたしよりお前らの方が詳しいだろ?」
魄月花があっさりとした声で返すと、佳が少し困ったような表情を浮かべてきた。
「今の俺らは紫陽さんの動きは読まれへん。いや、最初から読めてへんかったんやけど」
「そんな自重すんなよ。それとも祝部家のお家芸なのか?」
「いや、そうやないけど……」
「まっ、いいけどな。取り敢えず、あたしたちが今すべき事は、さっきと同じく儚を探すことだ」
苦笑を浮かべて魄月花が佳へと返す。
それからすぐに遠夜の方へと視線を向けた。
「今回の捜索担当は、お前とあたしだな。ーーとはいえ、あたしは魁が警護に回っている以上、下手に術式を行使しない方が良いだろ?」
状況を確認するように魄月花が佳たちへと尋ねる。
すると隆盛の横に立っていた彩香が大きく頷かせた。
「はい、できれば。先ほどの従鬼が技を使うと鳴海さんが死んでしまうかもしれません。先ほど迂闊に入ってしまい、一度攻撃を使わせてしまいましたが……。もうこれ以上は使わせたくはありません」
仲間を思っての彩香の言葉に、魄月花は「そうだろうな」と相槌を打った。
それこそ、これ以上は使わせたらまずいと思わせる程の状況なのだろう。
「私も少し考えてたんだけど、紫陽さんの他にも夜鷹さんが動かしたって事はないかな?」
眉を顰めながら、遠夜の横にいる明音が口を開く。
「ああ、その線はないぞ」
すぐに首を横に振った魄月花に対して、隆盛たちが問い質すような視線を向けてきた。
魄月花もこれは陰陽院に行く前に繋がった、菖蒲との霊的交感で知った事実だ。
「実は立川夜鷹も神宮寺紫陽の術中にハマって、菖蒲たちと共に結界内にいるみたいだぞ」
「えっ! どうして? だって夜鷹さんは紫陽さんの計画にも参加しているのに……」
「彩香の言う通りだ。なんで夜鷹までその、はく……何とかっていう術をやられるんだよ?」
隆盛たちの動揺は混乱に近いものだった。紫陽が菖蒲たちを殺そうとしたのは動揺したとしても理解はできる。けれどその手が夜鷹にまで伸ばされた事は理解できなかったらしい。
「簡単に言えば、立川夜鷹も神宮寺紫陽にとって邪魔だったって事だろ」
「分かりません。何故、夜鷹さんまで邪魔に? 邪魔に思う理由が全くないのに……それなのに何故、紫陽さんは夜鷹さんまでっ! こんなのあまりに無差別すぎます!」
混乱した様子の彩香が眉を顰めて、魄月花へ捲し立てるように言った。
魄月花は混乱し、怒る彩香に対し静かな声音で答えた。
「まっ、怒りたくなる気持ちは分かるが……自己中な奴の考えなんて理解できるもんじゃないぞ? それなりに経験を積んだ身として言うが」
「そう言うって事は、あの男が立川夜鷹を邪険にした理由を知っているのか?」
尋ねたのは目を細める遠夜だ。
魄月花は遠夜に問い質された瞬間に、菖蒲からの話を思い出し嘆息を吐いた。
紫陽の真意なんて、魄月花からすれば呆れたものだ。
それを今から自分が説明しなければならないのか、と思うと……億劫な気持ちにもなる。
けれどこの状況で、話さない訳には行かない。
もう一度、溜息に近い息を吐いて、紫陽の真意を語った。
勿論、魄月花が語った真意は紫陽が語ったものではない。偵察をしていた椿鬼からの証言と紫陽の行動から推測したものだ。
とはいえ、魄月花は自分たちが打ち出した推測が紫陽の本懐に近いと見ている。
そしてその推測は佳たちの喉も唸らせてしまった。




