似たもの同士の仲間割れ
「主たちが、貴女のような不節操な方の言葉に耳を傾けるわけないでしょう!」
「椿鬼の言う通り。ここには子供もいるからさっさと着替えて貰えるかしら?」
「残念ね〜。この場に邪魔な外野がいなければ、桔梗か菖蒲辺りに裸で迫るドキドキシチュエーションも楽しめたのに……」
目くじらを立てる椿鬼と鬼兎火に続いて、葵の残念そうな声がする。
椿鬼と鬼兎火の言葉には頷けるが、葵の言葉には全く頷きたくない。むしろ何故、自分たちが立川夜鷹とそんな悍しい事態を展開しなければならないのか?
むしろその葵が期待する展開になるよりも前に、笑いにすらなってしまう様な気さえする。
そんな事を桔梗が考えている内に、椿鬼たちが夜鷹に着物を着せ終えていた。
我が従鬼ながら、本当によく気が利く。
「さて、よく分からないカオスな時間は過ぎたし、真面目な話に入ろうか」
桔梗が先ほどの位置に戻り、菖蒲へと話を促す。
同じく先ほどの位置に腰を下ろした菖蒲が頷き返してきた。
葵がその言葉に反応しニヤニヤと笑い出し、蓮条と瑠璃嬢とその従鬼、そして夜鷹が訝しげな表情を浮かべている。
先ほどふざけていた夜鷹もやはり、菖蒲たちの話には興味があるようだ。
「私に話しておくべき事とは何でしょう?」
「現状を見て、薄々疑問には思ってはると思うけど……どうして君がここに居たはると思う?」
菖蒲の質問に夜鷹が眉を顰めさせる。
「その言い方だと、私がわざと紫陽様に入れられたような口ぶりですね」
「言い方やなくて事実や。神宮寺紫陽は君を邪魔者認定したんやろうな」
「何故です? 私はあの人の計画の邪魔はしておりませんよ?」
菖蒲の言葉に動揺と不信感の色を強める夜鷹。
夜鷹からすれば確かにそう思ってしまうだろう。夜鷹が陰陽院に加わってから、一番紫陽の計画に協力していたのは夜鷹だろう。その腹積もりがどうであれ、だ。
そう思っているからこそ、夜鷹も分かりやすいほど動揺しているのだ。
「仕方ないわ。貴女は何処まで行っても現実主義者。向こうは逆で何処まで行っても夢想家だもの」
千里眼でも持っているのか、全てを知っている葵が茶化すような声音を出す。
桔梗は呆れた溜息を吐きながら口を開いた。
「あの人は、君と違って世のために鬼絵巻を壊したいわけやないってこと」
「はい? 今なんと?」
「まぁ自分の耳を疑いたくなる気持ちは分かる。けど事実は事実。彼の望みは桜鬼とのラブストーリーを謳歌したいだけやから。それをするには現実主義者である君が邪魔なわけ。そうでなければ、自分が鬼絵巻を持っている事を隠す必要なんて無いと思わへん?」
まさに衝撃の新事実だと言わんばかりに、夜鷹が目を丸くさせる。
「鬼絵巻を持っている? 紫陽様が?」
「むしろ持ってなければ従鬼を強制的に奪うことなんて出来へんよ。僕の見立てやとあの男の実力は君と同等か君より少し上くらいやろ? 仮に鬼絵巻の力がなくとも従鬼を奪えるなら、とっくの昔に奪いよるやろうからね」
「ではーー、あの方は鬼絵巻の破壊ではなく、ただ鳴海様の様に見目麗しい従鬼とウフフをしていたい、という巫山戯た願いの為に動いていたと?」
目を細めた夜鷹に対して、桔梗が静かに頷く。
「つまりそれはあの男が私を謀ったという事ですね?」
「まぁ、そういう事やね。あの男は前から『僕は解放したいだけです』的な事をボヤいていたし。大方、クレランボー症候群を患っていて、桜鬼が䰠宮家に縛られとるとでも妄想してるんとちゃうかな? ああ、因みに菖蒲ちゃんの元に行こうとしていた君を邪魔したのも神宮寺紫陽ね」
「ああ、そうそう。全くあの勘違いストーカーったら失礼しちゃうわよね? 葵を悪者に仕立てあげるなんて。なんて悪ぃ奴なのかしら?」
「まっ、それは姐さんの日頃の素行が悪い所為じゃない?」
唇を尖らせて異議を唱える葵に対し、瑠璃嬢が正論で答える。
そんな瑠璃嬢の言葉に夜鷹以外の面々が息を合わせて頷いた。頷かれた葵がいつもの調子でブーブーと文句を言っている。
しかしそんな葵の様子には目もくれず、夜鷹は怒りで全身を震わせていた。
桔梗たちが葵に苦言を言っている最中にも、その怒りはどんどんと膨れ上がり、ついにその怒りは体内で押し留める事は不可能となった。
「ああっ! ああっ! そういう事だったのですね! ええ、そうです、そうです! 私の直感も告げていたのですねよ! 今回の小細工は䰠宮葵の様な気はしないと! ああ、なんという悪辣な所業でしょう! 慈悲深い私の心を逆手にとって嘘を吐くなど! これは大叫喚地獄
に落とされる程の罰です! ええ、あの嘘つきの悪漢は蛇に内臓を食い荒らされてしまえば良いのです!」
「それを言うなら君も衆合地獄に落ちると思うけどね」
「ああっ! 本当に忌々しい! あの変態は何がしたいんでしょう? 私たちには鬼絵巻の災厄を止めたいなどと吹聴しながら……それが嘘! なんて! 馬鹿馬鹿しいにも程があります!」
桔梗の言葉など無視して、夜鷹は自分を騙していた紫陽に対しての怒りを爆発させている。
「そもそも、私は最初からあの男の心根など信用していたなかったのです! そうあの体に染み付いた恣意的な臭いが漂う悪臭を嗅ぎ取っていたのです! ええ、そうです! 奴は自分がのし上がる為ならば、どんな人でも利用するような男です! 私はそう思っていました!」
「おほほ。それはお互い様でなくって?」
珍しくまともなコメントを残した葵の言葉すら、荒い息遣いで鬱憤をぶち撒ける夜鷹には届いていない。自分がしてやられていた事が相当に悔しかったらしい。
とはいえ夜鷹のような人物は、自分が逆の立場になった場合「致し方ない」と言う言葉で片付けてきそうなタイプだ。
(似た者同士の仲間割れって所やね)
桔梗がそんな事を思っていると、怒りを口にしていた夜鷹に対し百合亜が口を開いた。




