↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鬼絵巻 〜恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第十章 想いと執着

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

355/401

微かな違和感

「心配かけてごめんなさい。けど、大丈夫。一瞬、意識は飛ばされたけど……怪我の程度は大した事ないわ」

 駆け寄った蓮条に鬼兎火がそう言いながら立ち上がる。

 鬼兎火の額の横から血が流れている。どうやら顔面を強打されたらしい。

 蓮条はすぐに鬼兎火へ治癒の術を掛ける。怪我の程度は鬼兎火の言う通り、大したものではなかったらしい。けれど蓮条は顔を暗くさせていた。

 自分が魁の攻撃に対して、もう少し対処できれば鬼兎火の気が散ることもなかったはずだ。

 己の至らなさに臍を噛みながらも、蓮条は後悔を頭の隅に追いやった。

(落ち着け。今ここで戦い以外の事に気取られとる場合やない)

 既に魁へと肉薄する鬼兎火の背中に目を向ける。

 けれど、そんな蓮条たちの横で盛大な血飛沫が舞っていた。

 桜鬼と激しい剣激戦を行なっていた魑衛からだ。始まったばかりの時は、桜鬼と魑衛の斬り合いは拮抗している様に見えた。

 けれど少し蓮条たちが目を離している隙に状況が変化していた。

「ふむ。主からの供給は十分に受けているようじゃが……まだまだ妾に勝るには厳しいぞ?」

 魑衛の勢いを押し返しながら、桜鬼は魑衛に対して余裕の顔を浮かべている。

 そんな桜鬼の態度に、魑衛の怒りが沸き起こったのが空気伝いで分かった。

「貴様っ、随分と舐めた事をほざいてくれる?」

 言葉を唾棄した魑衛が先ほどと変わらぬ速さで、桜鬼へと斬り掛かる。

 魑衛の一線を受ければ、その瞬間に桜鬼の細腕などすぐに肉塊へと変わるはずだ。けれど桜鬼はそんな強烈の一閃を軽々しく避けて、逆に魑衛へと斬撃を放っている。

 魑衛が桜鬼からの斬撃を受け止める。その瞬間に地面に踏ん張る魑衛の足裏が地面に減り込んだ。相当の重みと鋭さを備えた桜鬼の斬撃が魑衛に猛威を奮っている。

 そんな魑衛に対し、瑠璃嬢が術式を唱える。

「水行の法の下、地水よ災厄を飲み干し蟒蛇となれ、急急如律令!」

 大地に含まれる水分が一気に、地表へと吹き出し、その水が巨大な大蛇の姿を取ると魑衛と対峙する桜鬼へと襲い掛かった。

 桜鬼は自身に向かってくる大蛇に向かって、炎の術式を放ってきた。

 水と炎が勢いよく衝突すると、攻撃の余波が風が勢いよく吹き荒れ、砂塵が舞い、白い濃霧が一体を支配してきた。

 そしてその濃霧が辺りを包んだ瞬間に、事態が大きく動いた。

 まず後方にいた魄月花が蓮条たち主を守るための強力な結界を張っていた。

 そして辺りを包み込んでいた霧を魅殊が一気に払う。

 視界が奪われている状態は、双方共に危険な状況だ。だからこそ魅殊はすぐに【霧散】という言葉を宙に描き、霧を払ったのだ。

 時間にすれば、三十秒の時間があったか、なかったか。

 それくらいの時間だったはずだ。

 しかしその短い時間の中で、蓮条の耳に何かが折れるような鈍い音、そして微かに悲鳴が聞こえてきた。視覚が奪われている分、音だけは鮮明に聞こえてしまう。

 状況は分からないが、蓮条は反射的に鬼兎火へと結界を張ろうと術式を唱え始める。しかし蓮条が術式を発動する前に、魅殊によって霧が払われる。

 けれど自分たちの身を隠していた霧が払われた瞬間、蓮条の視界に入ってきたのは、地面に倒れる鬼兎火、椿鬼、魑衛の三人の姿だ。

 地面に倒れる三人の近くに立っているのは、刀を赤く染めた桜鬼だ。

「なっ!」

 自分たちの視界が奪われた瞬間に、三人の従鬼が倒れている。蓮条は全く予期していなかった状況に、言葉を失っていた。

「まさか、あの短時間で三人を倒す程とは……さすがのあたしでも驚いた。なぁ、魅殊?」

 言葉を失っていた蓮条の代わりに、言葉を口にしたのは棍棒を担ぐ魄月花だ。そしてその魄月花の横には、鋭い目つきで桜鬼を見据える魅殊がいる。

「ほう。魄月花と魅殊も他の三名のようにやられに来たのか?」

「おいおい。今日は随分とデカい口を叩くな? それに苛々してるようにも見えるが、何か気に食わない事でもあるのか?」

 魄月花が桜鬼から視線を離さず、口元でニヤリと笑みを浮かべる。

「うむ、あるぞ。気に食わぬ事は。魄月花よ、貴様は鬼絵巻について随分と知識を得ているのであろう? ならば答えよ。何故、鬼絵巻は誰の願いも叶えぬ? 何故、同じことを繰り返す? 答えよ」

 ゆったりとした口調にも関わらず、鬼気迫る空気を纏う桜鬼が魄月花を詰問する。

 その桜鬼からの問いに対して、魄月花が眉を顰めさせた。

「ーーその答えが知りたいんだったら、さっさとこっちに戻って来るか? そしたら桜鬼の疑問に答えてやるよ」

 魄月花が棍棒を握ってない方の手を突き出し、桜鬼へ戻ってこいという手振りをする。

 しかしそんな魄月花の言葉に、桜鬼は眉間に深い皺を作り、

「ならぬ」

 と短い言葉で一蹴した。

「交渉決裂。つまりアタシと魅殊で力付くにでも家に連れ帰ってやるよ!」

 魄月花がそう言って身の丈ほどもある太い棍棒の先を、軽々しく桜鬼へと突き出す。突き出した瞬間に魄月花の姿が消えた。

 強化をしていた魑衛以上の速度で、魄月花が桜鬼へと接近していた。

 そんな魄月花へ魅殊が【瞬間】という文字を宙へと描いている。どうやら魅殊の術式で魄月花を強化しているようだ。

 それに加え、後方にいた菖蒲が術式を詠唱している。

『呪禁の法の下、この地に根を張りし、邪を貫き祓う鉾となれ。急急如律令!』

 魄月花の棍棒が清浄な光を纏う。

「はぁああああああ!」

 魄月花が雄叫びを上げ、棍棒を横薙ぎの一線で勢いよく振るう。

 自分の胴へと向かってくる棍棒を受け止めようと、桜鬼が刀身を出す。力に特化した魑衛の一太刀を受け止めている桜鬼だ。いくら太い棍棒とはいえ、受け止められない攻撃ではない。

 桜鬼はそう高を括っていたに違いない。けれどそんな桜鬼の予想は裏切られ、この戦いで初めて、桜鬼が吹き飛ばされる。

「桜鬼っ!」

 声を上げたのは桜鬼がやられるはずない、と踏んでいた紫陽だ。

 すぐに紫陽は桜鬼を木行の術式を展開する。吹き飛ばされた桜鬼は宙で捻転しながら体制を整え、紫陽が展開した太い植物の蔓を足場にして、魄月花へと跳躍する。

 跳躍した桜鬼の口からは血が出ている。

 そんな桜鬼のダメージに蓮条は、少しの違和感を覚えた。

 けれど今の蓮条ではその違和感を追うことはできない。桜鬼の攻撃でダメージを受けた鬼兎火を治癒しているからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ポイントを頂けると、とても嬉しいです。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。