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鬼絵巻 〜恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第十章 想いと執着

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憤りと異変

「あっ、いや、うん。その反応になってしまう気持ちは分かる。けどこれは嘘やなくてホンマの事なんよ……」

「えっ、でもじゃあ、どうして、二人が付き合ってるなんて噂が流れるんですか? それこそ私のクラスでも凄い噂になっていますよ?」

 守の言葉に今度は彩香が戸惑いを露わにする。

 そんな二人を前に今度は雨宮が口を開いた。

「少し話は長くなるんやけど……」

 雨宮が学芸会の後に起こった事を隆盛たちにも話す。

 すると雨宮が口にした内容が内容だった為に、隆盛と彩香が目を丸くさせてきた。

 まさか祥が周囲に嘘をついているとは、思っていなかったのだろう。

「……いや、マジで驚いた。むしろ祥の奴、こんなんで満足なのか?」

 全く千咲の行動に理解が追いつかない隆盛が怪訝な表情を浮かべている。そしてそれは隣に座る彩香も同じだった。

「祥さんの考えてる事は分かりませんけど、私ならこんな状況は嫌です。それこそ明確な真実があるなら必ず嘘は見破られてしまいますし」

 彩香の話は尤もだ。

「けど熱に浮かされとる人は、中々その当たり前に気づかへんねんなぁ」

「確かにそうかもしれませんけど……相手の気持ちを無視して手に入れるのは正当性に欠けますよ。それこそそれは執着心で手に入れたに過ぎませんから」

 正攻法を取らなかった千咲のやり口に、彩香はやや憤りを感じている様子だ。

男子からすれば大胆だなぁ〜と驚きはするものの、怒りとまではいかない。

 やはりこういう面で、多少なりと男女差というのが生じてくるのだろう。

「それこそ、私の友達の中にも䰠宮君に好意を抱いている子はいて、やっぱり二人が付き合ったという話にショックを受けてたんですよ? でも自分が何か言える立場じゃないからって、自重していたのに……」

 怒りが収まらない彩香が口をワナワナと震わせながら、そんな事を言っている。

「即刻この噂を消し去るべきです。こんな薄汚いやり口が認めらえる訳にはいきません!」

「おいおい、彩香。落ち着けって」

「私は落ち着いてます。ただ友人の事を思うと……なんか無性に腹が立つんです」

「まぁ、百瀬さんからしたらそうやろうな。けど、この噂ばかりは櫻真か祥の口から真実を語るのが一番ええんよ。第三者の俺らが否定の看板を下げても、色々と混乱と衝突が生まれるやろ?」

「確かに、そうですね……」

 雨宮の言葉を聞いた彩香が、少しだけ上がっていた熱を下げる。

 一番ヒートアップしていた彩香の熱が下がってくれた事に安堵しつつ、雨宮が言葉を続けてきた。

「まぁ、俺らも櫻真が戻ってきたら話をしてみるわ」

 そう言いながら、雨宮が守を一瞥する。

 雨宮と視線を合わせた守も溜息を吐いて、頷いてきた

「雨宮の言う通りやな。とはいえ櫻真が倒れたって聞いた時は家に送り届ければ良かった〜って後悔したわ。顔色が悪いとは思ったけど、まさか倒れるとは思わへんかった」

 救急車で運ばれた櫻真を思い出し、守が肩を落としている。

「まぁ、過ぎた事をくよくよしても仕方ないやろ? それこそトイレで倒れとる櫻真を見つけたのは守なんやし」

「そうやけど。俺が櫻真を学校に来させず家に帰してたら、こんな大事には……」

「まぁ、守も落ち着け。ほら飲み物でも飲み。きっと櫻真やったら怒らへんから」

 自責の念に苛まれる守に雨宮がカップに入った飲み物を勧める。

 そして勧められるままに飲み物を飲んだ守が一息吐いてきた。

「そやな。クヨクヨしてもシャーない! 雨宮の言う通り、俺らは櫻真が回復するのを待とう!」

「うんうん。非力な俺らにピッタリな落とし所やな」

 そう言いながら、雨宮と守が頷き合う。

 けれどその二人を他所に、隆盛と彩香が複雑な表情を浮かべている。

「最上と百瀬さん、どうかしはった?」

 二人の表情に気づいた守が声を掛ける。

「あっ、いや、なんでもねぇーよ。ただ……䰠宮の奴も早く良くなるといいな」

 少し慌てた様子で隆盛がそう答え、彩香も同意するように首を頷かせている。

 どこからどう見ても、何でもないには見えない。

 だがここで隆盛たちに尋ねたところではぐらかされる様な気がした。

 そのため、雨宮と守は深く追求することができず、小首を傾げるしかできなかった。



 䰠宮家の居間には、夕食を終えて各々で休んでいた主と従鬼が再び集まっていた。

「百合亜と儚には、まず契約書を出して欲しいんよ」

 集まった面々を見て、桔梗が開口一番でそう言い放った。

「契約書? ええけど」

「うん、百合亜もいいよ。じゃあちょっと待っててね。百合亜、お部屋から取ってくるから」

 頷いた儚に続いて百合亜も頷くと、そのまま居間を走って出ていく。

(百合亜、契約書を何処に仕舞ってたんやろ?)

 百合亜の背中を見て桔梗は肩を竦めた。取り敢えず百合亜が戻ってくるまでに儚の契約書を確認する事にした。

 儚は小さい点門を開き、そこから魁との契約書を取り出してきた。

 一見したところ、綺麗に巻かれた契約書に異変がある様には見えない。

「じゃあ、開いてくれはる?」

 桔梗の言葉に従い、儚が閉じ紐を解いて契約書を開く。

「えっ、なにこれ?」

 契約書を開いた儚が目を見開かせる。

 広げられた儚の契約書を見た桔梗を含む一同も、思わず眉間に皺を寄せた。

 どの契約書にも大きな桜の木が描かれており、鬼絵巻を回収するとその絵巻に色がつけられていく。一つの鬼絵巻を回収している儚の契約書は、薄黄色の色が着色されていた。

しかし今開かれた儚と魁の契約書は、濃い墨で塗り潰されてしまった様に全部が黒くなっていたのだ。

「……怪しい気配はないな」

 呟くようにそう言ったのは、黒く塗られた契約書に触れた菖蒲だ。

「じゃあ持ってても、何か悪い影響を受けたりはせんの?」

「大丈夫や。恐らくこの契約書が黒くなっとるのは魁の意識が眠ったままになっとるからやな」

「そうなんや」

 菖蒲の言葉を聞きながら、儚が気難しい表情で黒くなった契約書を見つめている。

 するとそこへ、バタバタと慌ただしい足音が聞こえてきた。

「桔梗ちゃん、持ってきたよーー」

 言葉と共に居間に入ってきた百合亜の手には、何故か薄桃色のランドセルが持たれていた。

「ランドセル?」

 思わず桔梗が首を傾げてから、ハッとした表情を浮かべた。

「まさか百合亜……ランドセルに契約書を仕舞ってはるの?」

「うん。そうだよ! だってさ、ランドセルには教科書とかノートとか大切な物をしまうでしょ? だからね、ちゃんとランドセルの中にしまってたの」

 得意げな笑みを浮かべる百合亜がランドセルから契約書を取り出してきた。

 百合亜が取り出した契約書の表面には、小学生らしいキラキラ光るハートのシールが貼られている。他にもハムスターのキャラが書いてあったり、四葉のクローバーのシールなども貼られており、魘紫との契約書がかなりデコレーションをされていた。

「百合亜、契約書にシールを貼ってしもうたんや」

 百合亜の契約書を見た蓮条が思わずといった様子で言葉を漏らす。

「うん! 可愛いでしょ? ちゃんと百合亜が気に入ってるシールを貼ったから、すぐに百合亜のだって分かるんだよ! 百合亜、頭いいでしょ?」

「いや、むしろシールを貼らなくても百合亜のだって分かると思うけど? 巻物を持ってる小学生なんて百合亜と藤くらいだし」

 百合亜の言葉に、瑠璃嬢が真面目な言葉を返す。

「瑠璃嬢、百合亜相手にマジレスしてどないすんねん?」

「マジレスっていうか、あたしは思った事を口にしただけだけど」

 蓮条に突っ込まれても、瑠璃嬢はケロリとした表情を浮かべている。百合亜は百合亜でめげる事なく、「可愛いから良いの!」という言葉を返している。

(そろそろ、話の論点をシールから戻さへんと)

 桔梗はそう考えながら、儚の契約書に触れた。菖蒲が言っていた通り、契約書から怪しい気配はやはり感じない。今、この契約書はただ黒く塗られた紙の巻物化している。

 桔梗はその巻物を綺麗に巻き、それからきつく閉じ紐を締めた。

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