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鬼絵巻 〜恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第十章 想いと執着

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内部の溝

 今回の作戦は早急に済ませねばならないだろう。

(そうでなければ、内部分裂を起こしてしまう)

 夕刻を過ぎた職員室で生徒たちに配布する資料を作りながら、夜鷹は今後について考えていた。

 元から佳、隆盛、彩香が乗り気ではない事はすぐに分かった。三人が眉根を寄せるのも未熟な若者の見栄や意地から来ているとも。

 だから三人の意見を夜鷹が汲むことはない。子供の申し入れに耳を傾けるのにも時と場合がある。けれどその申し入れを完全に無視することも愚かだ。

 それにこのままこの状態が泥沼化してしまえば、今度は䰠宮の方の鬱憤が溜まり始めてしまうだろう。夜鷹からすれば、彼らの鬱憤が溜まり切る前に何とか決着を付けたかった。

「頼まれた資料はこちらに置いておきますので。それではお先に」

 夜鷹は仕事を綺麗に終わらせると、周りの人たちに声を掛けて職員室を後にした。

 早歩きで歩きながら、夜鷹は念のため、霊体化している魘紫の気配を確認する。

 自我のない魘紫は、夜鷹の命令に従い、霊体化したまま常に夜鷹の側にいた。

(まだ紫陽様の術は解けていない様ですね)

 確認を終えると、夜鷹は学校の前でタクシーを捕まえた。

 行き先ならば、すでに決めてある。

(私ともあろう者が、とても重要な事を見落とすなんて……)

 タクシーの運転手に夜鷹は「山科駅まで」と告げた。

彼女が今から向かおうとしているのは、䰠宮菖蒲の元だった。

 確か彼の従鬼は探知能力が非常に高い。それはこの間の山寺の件で確認済み事項だ。夜鷹はあの時、菖蒲たちの力量が如何程のものなのか値踏みしていたのだ。

 敢えて場所の名は明かさず、どれくらいの気配で鬼絵巻を探れるのかを。

 そして菖蒲の従鬼は、本当に僅かに流した気配だけで、山寺の入り口を見つけ出した。

 あれ程の探知能力があれば、まだ自分たちが気づいていないが、目覚めている鬼絵巻の気配を探れるのではないか? そう夜鷹は憶測を立てていた。

(また予測の域を出ない、というのが残念ですが……)

 試す価値は、十分にあるだろう。

 そして菖蒲たちがその鬼絵巻の居場所を教えてくれるのなら、わざわざ彼らから奪わずともそれを破壊しに行けば良い。

 一つでも破壊できれば鬼絵巻が揃うこともなく、災厄を止められるのだから。

 脳裏で夜鷹が思考を巡らせている間に、タクシーは山科駅前で停車した。愛想の良い笑みで夜鷹がタクシーの運転手に運賃を払うと、足早にタクシーを降車する。

「さてと……䰠宮菖蒲の住処まで出向かせて頂きましょうか」

 気合いを入れ直すように夜鷹がそう口にすると、その瞬間に夜鷹の足元がぐにゃりと歪んだ。しかし周り人間は歪む道の上でも、平然とした様子で歩いている。

(これは何者かによる仕業)

 夜鷹はすぐにその術に抗おうと動く。けれど夜鷹が術式を展開させようとすればするほど、夜鷹の身体から声聞力が吸われていく。これまでに感じたことのない感覚だ。

身体に力を入れる事が出来ず、視界も上下左右に揺れている。

 症状でいえば貧血のような状態だ。

(このままでは……)

 夜鷹自身も何とか意識を保とうと、右手で頭を押さえながら歯を食い縛る。

 けれどそんな夜鷹の気持ちを他所に、夜鷹の視界が真っ暗になってしまった。

(ーー何故?)

 視界が暗くなったのは、決して夜鷹が目を瞑ったからではない。夜鷹の身体を足元からわき上がった闇が飲み込んでしまったのだ。

 そしてその暗闇に飲み込まれたのも一瞬の出来事で、今の夜鷹の前に広がっていたのは陰陽院の敷地内の風景だった。

 つまり山科駅に到着したはずの夜鷹は何者かによって、ここに瞬間移動させられてしまったのだ。唐突に仕掛けられたあまり、さすがの夜鷹も少しの間、呆然としてしまった。

 誰がしたのか、そしてその目的は……。

 走馬灯のように夜鷹の頭を疑問が走り抜けて行く。

(この状態で私を妨害してくるのは、䰠宮家の方でしょうか? あの場所で言うと䰠宮菖蒲?)

 頭の中で菖蒲の顔を思い浮かべた瞬間、夜鷹はハッとしてすぐさま魘紫の気配を探った。

 鬼絵巻の破壊を成功していない段階で、魘紫を取り替えされるわけには行かない。

 そう思いながら魘紫の気配を探っていると、魘紫は霊体化した状態で少し離れた場所にいた。

 魘紫が近くにいた事に安堵しつつ、夜鷹は眉を顰めさせた。

 ーー今の夜鷹に仕掛けて来るとしたら、䰠宮家で間違いない。そして䰠宮家の中で策略を巡らせるとしたら、䰠宮葵だろう。しかし今回の件で䰠宮葵が動いている気配はない。

(もし彼女がこの状況を気に入らなければ……)

 すでに自分たちの前に姿を現していそうなものだ。

 けれどそれが無いという事は、葵が自分をここに運んだ可能性は低いのではないか?

 夜鷹はそう分析していた。

 そして葵を除外した状態で自分に仕掛けて来そうなのは、䰠宮菖蒲か䰠宮桔梗だ。

 だとしたら狙いは?

仮に魘紫を取り戻すのが目的ならば、ここに魘紫がいるのは可笑しい。それに夜鷹の動きを把握してなければ、あんなにタイミング良く術は掛けられないはずだ。

(つまり彼らも白という事でしょうか?)

 犯人像が再び白紙に戻り、夜鷹が大きく表情を歪めていると……

「あっ、夜鷹さん! こんな所にいたぁーー!」

 無邪気な声で夜鷹に声を掛けてきたのは、夜鷹に向かって手を振る穂乃果だ。

 そしてその穂乃果の近くには魁の姿もある。

「……鳴海様、私に何かご用でしょうか?」

「穂乃果っていうより、紫陽さんね! ついさっき院に戻ってきた紫陽さんが穂乃果の所にやってきて、話し合いたい事があるんだって。もしかして䰠宮の奴らを苛めに行くって言う話かな?」

 気分上々の穂乃果が弾んだ声で、そう話してきた。

「苛めに行くと言うより、鬼絵巻を取りに行こうとしているのでしょう。ーーええ、分かりました。私も少し報告しなければならない事がありますから。その話し合いに参加させて頂きます。それでどこで話し合うのですか?」

「紫陽さんの部屋だって」

「そうですか。では参りましょう」

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