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鬼絵巻 〜恋ぞつもりて 鬼巡る〜  作者: 星野アキト
第十章 想いと執着

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不安要素

 親心で心配してくれるのは良いが、あまり過激に動かれたくない、というのが子供心だ。

 そんな蓮条の気持ちに寄り添うように、儚も首を小刻みに頷かせてきた。

「まっ、どちらにせよ。浅葱アンド菖蒲兄弟の気持ちを動かす為には、ちゃんと僕たちが奴らに対して策を練らへんとね」

「その意見には賛成です。正直、今の状況は私たちの防戦一方。いえ、その状況になれているかも怪しい状況ですから」

 桔梗の意見に頷いたのは、眉を顰めさせた鬼兎火だ。

「そういうこと。けど安心して。僕だってこのまま踏み荒らされたままにする気はないし。奴らの奇襲は不発どころか……大失敗に終わっとるからね」

「えっ、そうなん?」

 桔梗の言葉に儚が目を丸くさせる。

 するとそんな儚に桔梗が少し意地悪そうな表情で笑みを浮かべてきた。

「うん、そう失敗。だって奴らは僕らから鬼絵巻を奪おうとして奇襲を仕掛けてきたんやろ? けど結果は一つも取れていないんやから。それに……向こうさんも少し不協和音が鳴ってはるみたいやで?」

「ここまで言えるとなると、桔梗さんは何か情報を掴んでいるという事でしょうか?」

「まぁ、少しね。ただ奴らの足元を総崩し出来るものやないよ。それにまだどうしても拭えきれない不安要素はあるしね」

 間髪入れずに質問した鬼兎火に桔梗が首を横に降りながら、答えてきた。

「じゃあ、その不安要素って言うのは?」

 続けて蓮条が眉を寄せながら尋ねる。

 恐らく桔梗が一歩を踏み出さない理由は、この不安要素にあるのだろう。

 桔梗は蓮条の顔を横目で見てから、すぐに口を開いてきた。

「勿論、奴らに取られた従鬼三人やね。その三人を使役しているのは、神宮寺紫陽、立川夜鷹、鳴海穂乃果の三名。この中で一番ボロを出すとしたら、魁を使役しとる鳴海穂乃果やろうけど……そのボロが出るよりも前に他の二名が動き出すやろうから。それに加え、奴らが狙うとしたら、従鬼やなくて僕たちを狙う可能性も大いにある。ならこっちもそれを踏まえた対応を考えないとアカンやろ?」

「準備は必要だろうけど、そんなに心配する必要もないんじゃない? それこそ頭数はこっちの方が多いんだし」

 心配を口にする桔梗に対して、瑠璃嬢がそう答える。

 そしてこの場にいる中で、桔梗以外は皆がそう思っていた。

 例え向こうに従鬼が三人いるとしても、こちらには五人の従鬼がいる。質を侮るわけではないが、量が優っているという事はやはり喜ばしい事だ。

 しかしそんな空気に桔梗が静かな声で、一石を投じてきた。

「時に質は量を超える」

「貴様、それはここにいる我々に対する侮辱か?」

 投げられた石に対して、魑衛が殺気立ったように桔梗を睨みつけた。けれど桔梗はそんな魑衛の睨みにも動じずに受け答えてきた。

「勘違いしたらアカンよ。僕は君たちの力が居なくなった三人に劣ってるとは思うてへん。けどね、今の君らと他の三名では戦い方が違うと僕は見てる」

「戦い方だと?」

「そう。桜鬼は自我があるとしても、他の二名に自我はない。だからこそ自我がある君たちとの動き方は変わってくるし……極端な言い方をすれば向こうは僕らを殺す気で来るんよ。けど僕らの方はどう? 操られたままの彼らを殺す気で戦える? ……儚は嫌やろ? 魁を殺されるの」

 桔梗に尋ねられた儚が険しい表情で答える。

「嫌や。そんなん絶対に嫌や」

 儚の声音には揺らぐことのない意思が宿っていた。そしてそんな儚の答えを見越していた桔梗が静かに頷き返す。

「百合亜も嫌がるやろうね。そして恐らく櫻真君も嫌がる。そして僕らもそんな三人の意思を最初から無視する事は出来へんよ。勿論、状況によっては変わる可能性もあるけどね」

 桔梗の言葉は的を射ていて、そして背筋が凍るような内容だった。

(ホンマに桔梗の言う通りや)

 この言葉を言われるまで、蓮条は露ほどにも考えていなかった。

 ーー操られた従鬼を殺さなければいけない可能性を。

思わず言葉を失ってしまった一同に、桔梗が追加補足を入れてきた。

「念の為に言うておくけど、桜鬼と鬼絵巻の件は除外して話してはるからね。この件は、取り敢えず陰陽院の動きを封じてから考えへんといけない事やから」

 ここに来てようやく、蓮条たちは今の状況がどんな状況なのかを理解した気がした。

 相手の良心がどう動くかなんて計り知る事は出来ない。

 むしろ相手の良心を勘定に入れて行動するのは、凄く危険な事だ。

 この話をしてきた桔梗も恐らく、陰陽院たちの感情を最低のラインで見積もっている。

 蓮条たちが最悪の状況を覚悟できるように。

「ーーもしそうなったら、ウチは自分の身を捨てでも魁を止める」

 桔梗の言葉に真っ先に返したのは、意外なことに儚だった。

「儚、その言葉は本気なん?」

 真剣な表情の蓮条が儚の方を向いて尋ねる。

 蓮条に尋ねられた儚も真剣な顔で頷いてきた。

「うん。魁がウチらを攻撃してくるんやったら、ウチはそれを主としてちゃんと止めたい。きっとそれがウチにできる魁への助けやと思うから」

 真っ直ぐな瞳で儚が蓮条に、自分の出した答えを口にしてきた。そしてそんな儚の様子に、蓮条は救われた気持ちになってしまった。

(ああ、やっぱり儚は強い)

 蓮条は心の中でそう確信した。

 そしてそれと同時に、儚が導き出した答えを出せなかった自分が少し気恥ずかしくもなった。

 自分はただ桔梗の言葉に打たれ、狼狽えていただけだ。頭の中で考えるべきこと、考えなくても良いことが混ざり合って、儚が出した答えを見つける事が出来なかった。

 けれど今更、自分を情けなく思っていても仕方ない。

「分かった。だったら俺はそんな儚を全力で助ける。これは理想になってしまうかも知れへんけど、絶対に儚を魁に傷つけさせたりせん」

 蓮条も覚悟を持って、そう宣言する。

 するとそんな蓮条の言葉に、儚がはにかみながら、少し顔を赤く染めてきた。

「儚がそう言うなら、今の僕らに異論はあらへんよ。結局、奴らに取られた従鬼の処遇は、主である儚たちに決断して貰うほかないからね」

「まっ、そう言う事になるよね。変な話、従鬼を取られてないアタシたちが、勝手に決断できる話でもないわけだし」

 一息入れた桔梗に続いて、瑠璃嬢も言葉を残す。

 するとそんな瑠璃嬢の後に、やや畏まった様子の魑衛が口を開いた。

「魁の主よ、この際だ。先に申しておく。私はややこの状態を絶好の機会だと思っている」

「絶好の機会? どういうこと?」

「ん。瑠璃嬢にはもう伝えてあるのだが……私は元より魁と真剣勝負をしたいと思っていた。だが貴様が主である以上、奴が自分の力を出し切る事はないと考えていた。しかし今のこの現状でいえば、奴が本気を出す可能性が大いにある。だからこそ、私はその機会を逃さず、奴と対峙したい。ーーこの切望を聞き叶えてはくれぬだろうか?」

 魑衛が珍しく瑠璃嬢以外の人物に敬意を払っている。

 だからこそ魑衛が心の底から、本気を出した魁と戦いたいと思っているのだろう。そしてそれは魑衛が魁を認めているからこそ、思うことなのだ。

「ええよ。むしろウチからしても心強いわ。さっきは格好つけてウチが止める、って言うたけど、多分、ウチだけの力じゃ無理。だから魑衛も力を貸してな」

 儚が柔らかい笑みを浮かべると、魑衛も微かに笑みを浮かべて「無論だ」と返事を返していた。

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