第三十九章 揺らぐ意志
「生徒を守る」
その言葉の意味を、
彼はずっと考え続けていた。
水野や生徒たちの言葉に、
一度は耳を傾けようとする。
けれど――
もし、あのとき別の選択をしていたら。
もし、もっと強く守っていたら。
そんな「もしも」が、彼の中に残り続ける。
そして彼は、再び問いかける。
本当に、生徒を守るために必要なものは何なのか。
39章。
果たして彼が出す答えとは――。
――高橋は、しばらく何も言わなかった。
高橋「……確かに。」
「お前の言う通りなのかもしれない。」
――水野が驚いたように高橋を見る。
高橋「教師は、生徒の代わりに答えを出す存在じゃない。」
「生徒自身に考えさせる。」
「間違った時は、支える。」
「……それが、本来の教師なのかもしれない。」
――一瞬。
高橋の表情が、僅かに柔らかくなる。
しかし――
次の瞬間。
高橋「……だが。」
「それで――」
「娘は救えたのか?」
――空気が凍りつく。
水野「…………。」
高橋「娘は、自分で考えていた。」
「自分で行動していた。」
「誰かを信じて――」
「毎日、普通に学校へ通っていた。」
「……それでも。」
「娘は死んだ。」
――高橋の拳が、強く握りしめられる。
高橋「俺は教師だった。」
「生徒を守る立場だった。」
「なのに――」
「自分の娘一人すら守れなかった。」
――女子生徒は、何も言えない。
高橋「だから俺は決めたんだ。」
「もう二度と――」
「同じことを起こさせない。」
「生徒が傷つく前に。」
「生徒が死ぬ前に。」
「俺が全部止める。」
水野「……そのために、生徒たちの自由まで奪うのか?」
高橋「必要ならな。」
「自由を与えて、また誰かを失うくらいなら――」
「俺は、生徒たちから自由を奪う。」
「それでも、生きていてくれるなら――」
「それでいい。」
――女子生徒が、震える声で問いかける。
女子生徒「……先生。」
「それは本当に……」
「娘さんが望んでいたことなの?」
――高橋の動きが止まる。
女子生徒「もし娘さんがここにいたら……」
「先生に、なんて言うと思う?」
――高橋は答えない。
ただ――
拳を握りしめたまま、俯いている。
女子生徒「……きっと。」
「『そんなことしなくていい』って言うんじゃないかな。」
――長い沈黙。
高橋「…………。」
「……分からない。」
――その声は。
今までの高橋とは違っていた。
初めて――
自分の信念に、迷いが生まれていた。
39章、読んでいただきありがとうございました。
「守るためなら、何を犠牲にしてもいいのか」
今回の話では、そんな問いを突きつける水野。
高橋には高橋なりの「守りたい」という理由があります。
だからこそ、その想いが強くなるほど、
少しずつ別の方向へ進み、歪んだしまう。
そして最後に投げかけられた、ひとつの言葉。
それは高橋にとって、
今まで考えたことのなかった問いだったのかもしれません。
次章もよろしくお願いします。




