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覚悟を決めます!

「お邪魔します」


 昼過ぎになると日乃理が勇気の家に来る。

 だが勇気はまだあまり覚悟ができていない。

 昨日覚悟を決め大事な事を伝えると言ったが、伝える覚悟はできてない。


「っ! えっと、上がってください」


 どうしましょう、いつ言えば良いんでしょうか。まあ、取り敢えず部屋に入ってからですよね。


 そうして、いつもとは違い、少しオドオドしながら勇気は自分の部屋へ日乃理を連れていく。


「そんなに大きなことなの? 言っておきたいことって」


 日乃理もとっくに勇気の異変に気付いており、少し深刻そうに聞いてくる。


「は、はい。け、けど別に会えなくなるようなことはないと思います。引っ越すとかじゃないんで」


「ならちょっと安心かな」


 だが、日乃理が恐怖を覚えて逃げてしまうと、もう逢えなくなるだろう。

 今後会えるかどうかは勇気の説明を日乃理が聞いて、それでも大丈夫と言ってくれるか次第だ。


「えっと、何も、私は何も日乃理くんに何もしませんから。それを、それを踏まえて、見て欲しいんです。」


 なんとかここまでは言えた、急に日乃理に、見せたら襲われると思ってしまうと思い、何もしないと事前に言おうと勇気は昨日から考えていた。


「それは、どう言う事?」


 日乃理は何もしないと言われてもピンと来ていない。


「それは、ですね。えっと、えっと」


 なんで、早く早く見せるんです!


 怖かった、言ってしまえばもう戻れないかもしれない。

 勇気は手を外そうと思っていた、それが一番わかりやすく、武器なんかを出すよりかは怖がられないだろうと。

 だが手首を持ってそこから動けなかった。


「えっと、えっとぉ、なんでぇ」


 手が震える、腕を取った瞬間に関係が崩れる可能性を考えてしまう。

 全然決まらない覚悟にムカついてくる。

 涙を浮かべながら自分の手を強く握る。

 このまま、力の入りすぎで手が取れて仕舞えば良いのにと思ったが、取れることはなかった。


「勇気、大丈夫、落ち着こう。ね? ゲームしようよ、落ち着いてから話そう!」


 日乃理は泣き出しそうな勇気を見て、落ち着かせようと提案する。


「すいません」


「謝らなくても良いよ」


 不甲斐ない、自分がなかなか言い出せないから勇気に気を使わせてしまった。

 だがゲームをしたら言うタイミングを失ってしまう。

 分かっているのだが、勇気は逃げてしまい、コントローラーに手を伸ばす。

 

「勇気? 本当に大丈夫?」


 ゲームをやっても勇気は落ち着くことはなかった、プレイに集中できず、言えていないことにずっとモヤモヤする。


【やめろ! くるなあ!】


「へぁぁ!!!!」


 考えてしまった、日乃理がサイボーグだとバラした時に、恐怖に怯える想像を。


「ホントに大丈夫だよね? 勇気?」


 おかしかった、勇気は泣きそうになっても、こんな顔はしない、今の勇気の顔は、怯えているようだった。


「勇気、そんな事になるなら、無理に言わなくても良いよ。今日はもう俺は帰るから。俺が原因っぽいしさ」


「…………」


 コクン、と頷いた。

 勇気は話す事を逃げてしまった。

 頷いた事実に、我慢していた涙まで溢れ出してくる。


「じゃあな」


 バタン


 出ていってしまった、勇気から呼んだのに。


「なんで、なんでですか! 手が動かないのは!」


 日乃理が家から出ていったのを確認してからそう言う。


 ムカついた、動かない自分に、逃げた自分に。


「ああああああああ!! ムカつきます! ムカつきます!!」


 物に当たりたい気分になった。何か頑丈なものを破壊したかった。

 だが、勇気が本気で叩いても変わらないくらいのものなんてこの部屋にはない。

 なので自分の足を殴る事にした。


「なんで! なんでですか!」


 壊れて欲しかった。それでスッキリできると思った。だが、勇気の体は頑丈なのだ、痛いくらいで壊れはしなかった。


 ウィーーーーン…………ガシャガシャ


「?」


 急に背中に搭載されているジェットが動き出し背中に出てくる。


「こんな機能もあったんですね」


 少し笑えてきた、勇気はこんな機能は知らない。

 多分ムカついたら出てくる機能なのだろうと予想する。

 その場合勇気は少なくとも十年は本気でムカついたことがなかったと言うことだ。

 その事実に少し笑ってしまった。


 急に少し落ち着いたと思う、勇気は座ったまま涙を流し、ぼーっとする。


 今日はずっと泣いていましょう。


 そして勇気がベットに寝っ転がろうと立った時だった。


 ガチャ


「あ、ごめん勇気コントローラーわすれ、て、」


「え?」


 日乃理が忘れ物を取りに帰ってきた。

 ちょうどジェットをしまっている途中だと言うのに。


 勇気は言うしかないと思った。この瞬間に出会した(でくわした)以上


「これが、これが言いたかったことです。私、サイボーグなんですよ」


 震える声で言い切った、達成感と同時にどう反応されるかが、怖くて仕方がない。

 おかしいほどに脈が打っており、心臓ががドクドクと騒いでいる。


 お願いします、お願いします!


 勇気は願った。

 だが、


「っ!」


 日乃理は勇気が想像してしまった、悪い方向に行く想像とほとんど同じ顔をしていた。


 途端に血の気が引いていく、怖がられたと気づいてしまった。このままでは関係が終わると気づいてしまった。


 日乃理はドアを開け、逃げようとしている。


 失敗、失敗ですか? 嫌です、嫌です嫌です嫌です! まだ一緒に居たいです、一緒に遊びたいです、一緒に学校に行きたいです。


 逃げられると思ったら体は勝手に動いていた。


「まってぇ! 逃げないくださいよぉ!!」


 勇気は逃げられた場合引き止める気はなかった。なのに、引き止めていた。


「っ!」


 ピタッと、日乃理が動きを止め振り返る。


「怖いことはしませんからぁ! 私は普通に暮らしたいだけなんです! 日乃理君が居なくなったらやだぁ」


 勇気は日乃理の腹に抱きつく。


 勇気は気づいた、会って二ヶ月なら日乃理に怖がられて、逃げられても回復できると思っていた。

 だけど、それは違ったようだ、勇気にとって日乃理がいなくなってしまうと、ずっと、ずっと傷が深く残ってしまうほどの、存在になっているらしい。


「お願いします。これからも遊んでくださいよぉ!」


 無理なお願いなのかもしれない。それでも一緒に居て欲しかった。


「すぅぅぅぅはぁぁぁぁ」


 途端、日乃理が大きすぎる深呼吸をする。そして笑いながら喋り出す。


「そうだったね、怖いサイボーグじゃなくて、君は勇気だった、逃げる必要はないじゃないか」


「日乃理君?」


 いつものように優しく笑って一人後を言っている日乃理に、勇気は少し戸惑う。


「ごめんごめん、見た瞬間に襲われるって思っちゃってさ、けど引き止めてくれたから、勇気は何も変わってないって気づけたよ」


「逃げないですか?」


「そりゃあね、友達だから。学校も一緒に行くんでしょ?」


 受け入れて、くれたんですか?


 希望が安心に変わろうとしていた。

 日乃理と今後も会えることが出来る可能性が高いと思った。


「本当ですか?」


「本当だよ」 


 安心した。今後も会えると分かった。


「良かったです!」


 日乃理の身体に強く抱きつき、勇気は今度は安心して泣き出す。

 それを日乃理は照れずに、勇気の泣き顔を見て自分が逃げ出さず引き止まれたことが、良かったことだと確信していた。



♢♢



「じゃあ、今度こそ帰るね」


「も、もっといてくれても良いんですよ?」


 泣き出して一時間ほど経った時、日乃理がそんな事を言い出した。

 勇気からしたらもう少しいて欲しかったので日乃理を止める。


「うーん、まあ今日はゲームとかする気にならないだろ? 夜に通話で良いだろ?」


「…………それで良いです」


 少し不満だったが、言うのは恥ずかしいし、これ以上言ったらバレそうなので勇気は我慢する。


「はぁ、どうせ明日も遊ぶんだし、そんな顔するなって」


 どうやらバレていたようで、やれやれと言う感じで、勇気は言ってくる。


「な、何のことですか?」


 なにか可笑しかったですか? 何でバレてるんですか、恥ずかしいじゃないですか。


「まあ良いよ、じゃあまた夜に話そうね」


「はい、本当にすいませんでした」


 ガチャ


 そうして、日乃理は部屋から出ていく。


「良かったです」


 少ししてから勇気はそう独り言を言う。


 もし引き止めてなかったら逃げられて、友達ではなくなっていたかもしれなかったのだ。


 まだ少し流れている涙を拭って、勇気はベットに寝転ぶ。


 一次はどうなるかと思ったが、最後には最善の結果になった。これで明日からも日乃理と友達でいれる。


「これからが楽しみですね」


 もう心配する必要もない、安心して親に学校のことを言える。


 楽しみですね、学校。まだ行けるとは決まってないですけど、だぶんお母さんは許可してくれるでしょうし、試験も私はサイボーグですから、計算機能とか有りますし、計算とかは特に得意です。それに日乃理君も今のペースなら余裕で合格できるって言ってましたし。大丈夫なはずです。

 もう言うこともないですし……


「あ!」


 勇気がこれからのことに想いを馳せていると、言ってなかったことを思い出す。


「そうでした! 私が元は男だったと言うの忘れてました!」 


 これも言っておきたかったのだ、自分とこれから一緒にいるなら、言っておくべきと思っていた。


「日乃理君まだいるでしょうか? 近くにはいるでしょうし、早く行きましょう!」


 もう、勇気はあまり怖くなかった、サイボーグである事を受け入れてくれたのだ、流石に受け入れてくれるはずだと思ったから。


「待ってください! 日乃理君!」


 あたふたしながら勇気は部屋を出る。



♢♢



「ふぅ」


 本当に良かった。


 日乃理は勇気の部屋を出て、そう思う。


 最初見た時は、襲われるんじゃないかと怖がってしまったが、いつもと同じ勇気だと分かると、その恐怖もほとんどなくなった。


 けど、すごいことが起こってるな。


 まさかたまたま声をかけた子がサイボーグだなんて思うはずがない。

 今、日乃理には漫画のようなことが起こっているのだ。


 まあ、取り敢えず今日は帰ろう。


 そうして勇気は階段を下りる。


「じゃあ帰りますね」


 最後に夏に挨拶をして、玄関に行こうとリビングの扉を閉めようとした時、


「あ、ちょっと待ってちょうだい!」


「な、何ですか?」


 急に止められ、締めかけたドアを再び開ける。


「勇気のこと、今日話してたでしょ?」


 夏は聴いていたのだ、勇気が何を話したか、そしてどうなったかを。


「聴いてたんですか」


「そうね、だけど、もう一つ勇気が言い忘れていた事が有るの」


「秘密?」


 何だろうか、正直サイボーグと告白されてお腹いっぱいなんだけど。


「そう、実はあの子、宇宙人に連れ去られて、改造された時に、女の子に変えられたから、元は男の子なのよ、これからも遊ぶなら一応それも知ってて欲しいの」


 あそこまで言ったなら、もうこれは言わないといけないだろう、それに勇気もそう思っているはず。そう思って夏は日乃理に告げる。


「そうですか、けどなんかさっきので慣れたかもしれません、そんな驚いてないですよ」


 先程人生で一番と言っても良いくらい驚いたので、驚いてないとは言わないが、思いの外すんなり受け入れられている。


「そう? なら良かったわ! じゃあこれからもよろしくね!」


「はい、では!」


 夏も本当に安心したようで、嬉しそうに言う。


 そうして、今度こそ帰ろうと、靴を履いた時に、階段がドドドド! となり始める。


「良かった、日乃理君! まだ居ましたか」


「なに?」


 今日はよく引き止められるな、と思いながら、勇気に引き止めた理由を聞く。


「えっと、もう一つ言い忘れていまして」


 ああ、あのことか。


 日乃理はさっき夏に聞いた事だとすぐに分かる。

 別にもう聞いていたので驚きはしない。


「分かってるよ、元は男だったんだよね? 安心してよ、俺は気にしないから」


 ポンッと、勇気の頭に手を置き、言い終えると、手を離し、


「じゃあね!」


 と、日乃理はいつも通り軽く手を振る。


「は、はい! ありがとうございます!」


 そして、日乃理は家を出る。


 笑顔で落ち着いて家を出た日乃理だが、頭の中は結構恥ずかしがっていた。


「ああ、何してんの、流れとはいえ恥ずかしいよ!」


 日乃理は頭に手をのっけた事を、照れていた。

 まさか自分が主人公のような事をするとは、と。



♢♢



 一方その頃、勇気はと言うと、


「…………」


 顔を赤くして下を向いていた。


 何なんですか、なんか凄く照れてます! 日乃理君が、あんな事をしたからでしょうか。

 もしかして。


「い、いや、流石に違いますよね」


 勇気は日乃理の事を友達として見ていた、それは今も変わらないと思っているし、何より元男の勇気には男を好きになる気持ちはわからない。


 じゃあ今照れているのは何なんでしょう、たとえ撫でられてもここまではなりませんもんね。


「あらぁ、これはもしかするのかしらぁ」


 後ろのドアからひょっこりと顔を出して聴いていた、夏がニヤニヤとこっちを見てくる。


「ち、違いますよ!」


 日乃理君は友達です。そんな事あるはずないです。


「いやいや、私の秘密を全てを受け入れてくれた君に私は、的な事じゃないの?」


「何ですかそれは!」


 そりゃ嬉しかったですけど、それで好意を寄せるなんて。


「大丈夫よ、応援するからね! 日乃理君なら大歓迎よ!」


「揶揄わないでください!」


 そしてまだ落ち着かない心臓を不思議に思いながら、自分の部屋に帰っていく。


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