Ep4:惑星間の艦隊戦争
:科学と文明
ジグルはこの中で魔核鉱石の運用方法に戸惑っていた。パヘクワードでは自らの欲望だけで数多の“同類”をインシュビー・ツインと名付けていたし、ナンバーネームで己の意志と魂を繋げようとしていた。だが、コトワリの道の中に居る内、その単純な存在感から新たな方法を見出そうとしていた。それがブラックホール内で起きる艦隊戦争の中で散らばる遺伝粒子を集め、ここに無い、ライト・オブ・ホールの原子核を集め、新たな人類を形成するべきこと。もう一つは自らの精子をジグル自身とせずに、他の遺伝子を組み入れる事で完全なる他者であり、共存できる未来の仲間を育てるのに役立てようとしている。この二つを掛け合わせれば、失った命でさえも新たな変容を迎え、産まれてくる人類に希望を見出すことが出来る。少子のバランスを高子とすることが出来る、と睨んだ。興味を持ったティム・N・ランカーが「科学者として助手となろう」と言葉を挟み、一方、ライズ・フォーレムは「手伝える事があったら何でも言って欲しい」と協力を差し伸べる。
「ただ、一つ難題があってね」
「ライズ、何だい?」
「この魔核鉱石が虹の鉱石で出来ているのなら、溶かさない方が身のためだよ」
「僕は以前の世界線で生殖素材として溶かし、生命へ注入した」
「いや、そうじゃない。例えば飲料や食事に混ぜると急速に成長を早めたり、体自体が分解を始める」
「ティム。再生するのだから、拒絶反応を起こすのも当然だし、一過性のものだよ」
「君は誰かを救いたいから、魔核鉱石を創ったんじゃないの?神をも超える存在になるなら、もっと創造的に事を運ばせなければ、自滅しちゃうよ?」
「人工生命体には増強剤として、機械生命体には動力核として実証済みだよ。もし、ティム達の棲むブラックホールで戦争が起きているのなら、丁度人口を増やすのにうってつけの再生素材となるけれど。それにここに虹の鉱石が存在しないのなら、培養すればいいだけだ」
「ジグル・・・君は素晴らしいよ。そこまでこの世界線で起きている理を質そうとしてくれているなんて、最高の不純物だ。消えるには惜しい人物だよ」
「そう?」
「ティム、ジグル、これはね・・・世界線によっては科学の進歩による人体に対する変化が異なるので、溶かすのなら十分注意して欲しい。本当に生命が死んだときに、たとえ研究や実験で失敗するほどの犠牲者が多いなら、自ずと裁かれるだろうから」
「組織内に侵入するような物じゃなく、血液を活動的に動かす。それにライト・オブ・ホールのような未知の宇宙遺伝粒子と虹の鉱石の再生エネルギーを利用すれば母胎に負担のない妊娠も可能だ。たった一人の精子だけで倍増されるし、強化されるよ」
「はは、ジグルは精力的だね。ここまで私の科学実験に付き合ってくれるなんて」
「僕の体にまだ知識が残っている限り、君達が行動するだけで無限のエネルギーを増産することが出来る」
「ジグル、君は僕達の結晶だ。闇の住人だろうが、我々にとってかけがえのない命そのものだ。崇拝するよ」
理によって未知なる威厳を持ったジグルであった。只の人間である闇の住人は、ここから新たな変容を迎える為の準備を行っていた。それはこの世界線での科学に融合的な知恵を授け、人類を滅ぼさないという、今度こそ仲間が出来ると確信した瞬間で、コトワリから告げられた通りに己の中身を変えるというプロセスに入ろうとしていた。
:ブラックホール現象
磁場によって惑星が反転している。その磁場によって生命が活動的になっている。
ブラックホール内にある太陽が月明りにように輝き、この暗き世界にも生命を繋げてゆく。大きな渦の中にブラックホール内にある惑星に季節を与え、並々ならぬ風景さえ色濃く残してゆくだろう。生命は子供たちを産み、その子供達は新たな生命を生み出して闇をも照らす。備えるべき変容に向かい、新たな礎となって次代の世界線を繋げる役目を果たそうとする。ジグルは不純物とされ、変化を求めるべき自由を知らない。唯々、愛撫の毎日に明け暮れて朝を迎えた時に異次元たる呪いを背に暗闇を見つけてきた。そして、現にブラックホールに佇む中で、ある種の夏場を迎えるのだった。闇の住人としてどう在るべきか、生命の由来とは如何に感動的なものか、そして自ら放った魔核鉱石の運用方法を人類の希望の度に運用するべきでないか、と。闇の中で光る太陽に願いを込めて、ブラックホールという暗黒に光を見出すことこそが、大いなる意志と記憶を求め彷徨う魂を繋げる唯一の方式で、ブラックホール現象と呼ばれるものである。つまりジグルの云う技術の結集こそがそう呼ぶのでなく、新たな意志を以って記憶を司る事もブラックホール現象の一つという事だ。この現象は幾つにも分かれており、今の人類で遺伝子を繋いだとしても全てが吸収され排出されるまで、空間に起き得る時空の波道と宇宙の漂流物体などで抽出され、ようやく一つの形となるのが最終手段として紡がれる。
「もし、ブラックホールの外に出たら、新たな世界線の創造の中に入っている事だろう。もしも自分で制御できない何かに遭遇するなら、悪戯に支配しようなどと考えない事だ。ジグル、分かるかい?」
「僕に魔核鉱石を注入し、再びブラックホールの中に飛び込ませるという事だよね?そこで積み重ねてきた意志や魂を解放すると、新たな世界線で僕が自由に動き回れるわけだ。身体的な異常も起きずに・・・」
「ティム。もしかしたら、彼は別の体となって現れるかも知れない。もしかすると別の生命となり人類に捕食される可能性だってある。身体内部に変化が起きても何らかのスーツを加える事で、その体の変容を緩やかに止められるかもしれないが、それは如何に?」
「ジグルの体自体は変容を迎える。年齢、容姿、性格、遺伝子構造自体は勿論変化するだろう。例えばここで英雄だったとしても次代では危険生物になったりする。彼の理性次第で十分、改正されるだろう」
「君達、僕の心配をしてくれているのかい?」
「当然だ。我々の計画に真意を以って助力をしてくれている、宇宙の真理そのものだよ。未知のね」
「この、ウードンというものは伸びる。僕もブラックホールに包まれれば伸びては縮む。チュ、ズルルルルルゥ――、チュピン、美味い!」
誰もが思う。魔核鉱石を使用したとしても、ブラックホール現象の中に佇んでしまえば記憶を失うかも知れないと。だが、ジグルは体に注入し、血液の中を動いているならば、記憶を保持したまま肉体の変容だけで済み、別の生命といっても共存できるような素晴らしい肉体を手に入れていると自負する。例えそれが遊びと手加減の様子から外れた雷であっても、記憶の奥底にある意志は必ず保てるだろうとして、ティムとライズは憶測を本物とするのであった。
そこがブラックホール現象での脱出を期するもの。
そして、ライズはそのまま自室に篭り、何かと通信を始める準備を行っていた。どうやら、次元干渉に佇む生命との理解を深めるために行っている様だが、実のところは異なる目的であった。




