49話 もふもふ
天界騎士団は、第一部隊から第八部隊の計8つの部隊で構成されており、それぞれの部隊に隊長が1人。そして、それら全ての部隊をまとめる団長が1人。その団長は、俺たちが対峙したミカエルである。そして、エルシオとシルエトは、天界騎士団第二部隊の元隊長である。
それぞれの部隊に、それぞれの役割があり、護衛する地域も違えば、死神と対峙しない部隊も存在するらしい。
第二部隊は「ハクシュウ村」の護衛が基本的な仕事であり、死神がハクシュウ村に襲来した際に出動する部隊だった。そして、今回俺たちが向かう「シュンセイ村」は、第五部隊の守護地域のはずだった。だが、その守護地域から「シュンセイ村」は外されている。結界ももう張られていない。つまり、死神が入り放題だということだ。
ちなみに、他の地域には結界が張られているため、死神の侵入の心配はほとんどない。ただ、それを破ることのできる「知能の高い死神」の存在が、結界を張った地域から完全に死神の脅威を拭えない理由である。そして、結界の強さは時間経過で衰退していくため、それを狙って結界を壊す死神もいるらしい。
これがゲートに入る前、俺たちにシルエトが話した天界騎士団や結界についての情報だ。
そんな話をしているうちに、俺たち「メイプル・ダヴズ」はルルの故郷に辿り着いた。村の入り口には石で造られたアーチ上の門があり、その上部には、「ようこそ! シュンセイ村へ!」と書かれた看板が取り付けられている。
人間界でもこういうのを見たことがある。完成度はど田舎のそれだ。看板は少し錆びていて、門自体はかなり小さく、扉は開放されている。
「帰ってきたよ……ついに! 故郷に!」
ルルは瞳を潤わせながら看板を見つめている。その表情は歓喜で満たされていて、この村が守護地域がら外されていることなど、すっかり忘れているかのようである。
それもそうだ。門から見えたこの小さな村の様子は、「結界が張られておらず死神が入り放題」なんて状況を一ミリも感じさせなかった。
指折り数えられるくらいの建物しかないその村に居たのは、走り回る子どもたちや、野菜を栽培する老人。家の前で談笑する姿も見える。
エルシオはそれを見て、胸を撫で下ろしている。エルシオだけではない。俺たちは、今この平和な景色を見て安堵した。
「よかったのです。被害が本当になくて」
「そうですね。それにしても、結界のないこの村がなぜこんなにも……」
「平和ならそれでいいじゃないの! 早く行きましょ!」
フィロはそう言って、ズカズカと門を通り抜け、村に入っていく。
ここに来た目的は、ルルフィアが家族に会うことだ。死神に襲われていないのであれば、家族も無事なはず。
いやそれより、俺は大切なことを忘れていた。
星域以外に天界をウロチョロしたのは初めてであり、小さな村ではあるものの、こんなにも天使が居る場所に来たことはない。
「なあ、俺人間だけど大丈夫か? 捕まったりとかしない?」
「大丈夫よ。今まで会ってきた天使が匂いでわかっちゃうような天使だっただけで、普通はわかんないから」
「そうなのです。ルルフィアはわからなさそうですが」
「わかるもん! 臭いし!」
臭いはちょっと傷つく。でも、それなら安心だ。
皆がそう言うならばそうなのだろう。シルエトも頷いている。大丈夫そうだ。
俺たちは先頭のフィロに続き、村へ入った。
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「ひっさしぶりだなあルル! それにお仲間さんたちも! さあさあ、入って入って!」
「も〜突然きたら困っちゃうわよ〜! 何か食べるものあったかしら」
ルルフィアの家の前まで来てすぐに、ルルフィアの両親が玄関から出てきた。とても気さくなお二人だ。
もう少し感動的な再会になると思っていたのだが、案外あっさりと話が進み、家にお邪魔させてもらうことになった。これでは普通に帰省した娘とその娘が連れてきた仕事仲間だ。まあそれでいいし、それが1番なのだが。
2人はルルが牢屋に閉じ込められていたことは知らない。粉持ちとして、コハクリアで仕事をしていたという認識なのだから、当たり前と言えば当たり前である。
ルルフィアの父親は、何か買ってくると家を出ていってしまい、そしてそれに「僕も行きます」と、シルエトもついて行った。
つまり、家に入るとすぐに食卓に案内された俺は今、フィロ、エルシオ、ルルフィア、ルルフィア母と食卓を囲んでいる。
「これ美味しい!! ルルママ! お店出しましょう」
「こんなにも美味しいオゴーメは初めてなのです……」
「嬉しいわあ! どんどん食べてちょうだいね!」
すぐにルルのお母さん。愛称ルルママは、料理を振る舞ってくれた。
なぜかフィロとエルシオは既にルルママと打ち解けている。さすが天使と言ったところか、コミュニケーション能力が高い。いや、俺が低いだけか。
「カエデくんも食べて! 美味しいから!」
ルルママはそう言って、俺のほうへ皿を差し出す。
「あ、じゃあ、お言葉に甘えて……いただきます」
俺は手を合わし、スプーンでオゴーメを掬う。人間界の雑炊にかなり近い。つまり、オゴーメはやはりお米だ。
「うまあああああ!!」
革命が起きている。俺は鍋の締めくらいでしか雑炊を食べたことはなかったし、そこまで好きな食べ物でもなかった。
だからこそ、この雑炊は革命だ。ただの締めだと思っていたが、こんなにも美味しい雑炊が存在するとは。
ルルフィアは感動する俺たちを、ずっとドヤ顔で見てくる。悔しいが、これを実家に帰るたびに食べられると言うのは素直に羨ましい。
その革命的な美味しさに、止まらないスプーンで雑炊を口に運んでいると、何やら視界に白い物が入った。ダイニングテーブルの下。俺の足元で、何かがモゾモゾと動いている。
少し顔を引いて、テーブルの下を覗く。するとそこで、つぶらな瞳と目が合った。白くて丸い。ふわふわなボディ。パチパチと瞬きをしながら、じっと俺の目を見つめている。
「もふっ?」
「なんだこいつはああ!!!」
俺は勢いよく立ち上がり叫んでいた。
「もふっ」って鳴いた。なんだ。犬とか猫とかじゃない。手足が無く、丸くてふわふわ。ボウリングの球くらいの大きさだ。
「あ〜ごめんなさいね。食べ物が落ちると思って狙ってるのよ」
違う。そうじゃない。全く知らない生き物がそこにいるのだ。
ルルフィア母は「お客さん驚かせたらダメでしょ〜」と言いながら、テーブルの下の謎の生き物を抱き抱えた。
「あ〜可愛いですね。もふもふ」
ーーーーーーもふもふ……?
「久しぶりに見たのです! やっぱり可愛いですね〜」
「可愛いでしょ! ルルが拾ってきたんだよ!」
「もふっ!」
その「もふもふ」とやらは、ルルフィア母の腕から飛び出し、ルルフィアの頭の上に着地した。
「久しぶりに会えて嬉しいんだよね〜」
ルルフィアは頭の上に白いもふもふの生き物が乗っているのにも関わらず平然としている。
大体わかった。この生き物は、天界では普通にペットとして飼われるような生き物なのだろう。
人間界でいう、犬や猫と同じだ。初見では驚きが勝ったものの、落ち着いてみると可愛いかもしれない。
ここで俺が初めて見たなどと言ってしまえば、俺が天使ではないことを悟られる可能性があある。
「確かに可愛いな」
「でしょ! カエデくん触ってみなよ!」
ルルフィアにそう言われ、俺は「もふもふ」へと手を伸ばす。
「も…も…もふっ!!」
俺の顔面に、水飛沫がクリーンヒットした。
これあれだ。くしゃみだ。
「ちょ、もふもふ! だめじゃん顔にくしゃみしたら!」
「ごめんなさいね〜、これ使って?」
ルルママが俺にタオルを差し出してくれる。
「あ…ありがとうございます」
「楓…顔…ビタビタ……」
「ま、まあ…悪気はきっとないのです……」
俺の顔を見て、なんか笑いを堪えている奴らがいる。
いけ「もふもふ」こいつらにもくしゃみだ。
俺はルルフィアの頭上へと目を向けた。
「……もふっ」
あ、こいつ笑った。絶対笑った。今ちゃんと噴き出してた。
ーーーーーー前言撤回。やっぱりこいつ可愛くない。




