48話 メイプル・ダヴズ
ローズベルクに戻って、まだ5秒と言ったところか。あまりの偶然に、俺は驚きを隠せないでいる。
ここに着いた矢先、シルエトの口からさっき聞いた村の名前が飛び出したのだ。
「シルエト、今なんて?」
「かえちゃんたちおかえり! えっと……シュンセイ村です。って言ったよ?」
「なんで知ってるのおおぉお!?」
ルルフィア。色々すっ飛ばしすぎだ。
「……え?」
シルエトは眉を八の字にし、困ったようにルルフィアを見つめる。
そりゃそうだ。これではシルエトも「こんがらがっちゃ」だ。
「……ん?」
ルルフィア、おかしいぞ。「ん?」じゃないんだよ。
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「故郷……そうですか」
俺はシルエトとフィロに、ルルフィアの故郷が「シュンセイ村」であること。そこへ行き、ルルフィアが家族に会いたがっていることを伝えた。
シルエトは「そういうことですか! 偶然ですね!」と、すっきりした表情を俺に向けた。なんて反応になるかと思っていたが、真逆だ。どこか浮かない顔をしている。
ルルフィアの暴走で少し遠回りをしてしまったが、俺にも聞きたいことがある。
「それで、シルエトたちはなんでシュンセイ村の話を?」
「これは偶然なんだけど、天界を変えるために色々調べていたら、興味深い村があることがわかったんだ」
思ってたより、目的のためにちゃんと行動してくれていたらしい。
「興味深いことって?」
シルエトは俺、エルシオ、フィロ。そして、ルルフィアの順に視線を向けた。
その目はどこか真剣で、この場に少し緊張感が漂う。
「ルルちゃん。落ち着いて聞いてほしいんだけど」
ーーーーーーその忠告は大切だ。いや、それよりも、ルルちゃん?
「わかった。落ち着く」
「助かるよ。そうだな…結論から言うと……今のシュンセイ村は、死神に襲われる可能性が非常に高い」
「どう言うこと……? ママは? パパはどうなってるの!?」
ルルフィアは忠告を無視して声を上げた。当然だ。俺が同じ立場でも、そうしているだろう。
「ごめんね。詳しいことは僕にもわからないんだ。ただ……」
シルエトは、何かが喉に詰まっている時のように、険しい表情で言葉を飲み込んだ。
だがそれを、うちの大将は許さない。
「ただ、何?」
その声には圧がある。その言葉の続きに俺はあまり触れたくない。何か良くない言葉が飛び出す気がしたからだ。
それでも、フィロはシルエトに続きを求めた。ルルフィアは上目遣いで、似合わない真剣な瞳をシルエトに向けている。
エルシオはさっきから黙ったままだ。エルシオはこういう時、基本聞く側に回っている気がする。
「この情報は、天界騎士団の特権で使用していたネットワークに接続して手に入れました。ほとんどハッキングですけどね」
天界にもネットがあるのか。ただ、今はそれどころではない。
一呼吸おいて、シルエトは話を続ける。
「だから、確実な情報とは限らない。それを踏まえて聞いてほしい」
シルエトのその前置きで、緊迫感がこの部屋を駆け巡った。
「その理由も、いつからそうなっているかもわかりませんが、天界騎士団はシュンセイ村を守護地域から外している」
なんとなくだが、言っていることは理解できた。
そしてじわじわと、事の重大さや、その緊急性が鮮明になってくる。
そして、シルエトは追い打ちをかけるように言葉を付け加えた。
「……つまり今のシュンセイ村には、結界も、死神を倒す術もない」
1番にゲートを開こうとしたのはエルシオだ。そんな気はしていた。
こんな話を聞いて、黙ってここにいられる天使ではない。
「エルシオさん待ってください。僕が興味深いと思ったのはそこではないんです」
シルエトはエルシオを呼び止めた。この光景を俺は前にも見たことがある。
「天界騎士団の情報では、死神が出没した情報を得て駆けつけても死神の姿はなく、民間の天使に被害は無いそうなんです。それが、僕が気になった点です」
シルエトはエルシオの顔色を伺い、再び口を開く。
「だからおそらく、天界騎士団は死神と村の天使に何らかの繋がりがあると推測して、護衛を辞めた。僕はそう踏んでいます」
よくわからなくなってきた。死神は、天使を無差別に襲う生き物ではなかったか。
それに、死神と天使との間の繋がりとはなんなのか。天界騎士団の推測どおりなのであれば、死神と天使とで手を組んでいるということになる。
「なんにせよ、私は向かうのです。ルルフィアの家族が結界の無い場所にいる。理由はそれだけで充分なのです」
いや、きっとエルシオは、たとえルルフィアの家族がそこにいなくとも、シュンセイ村へ向かっているはずだ。
「エルシオ待って。私も行くわ」
フィロは立ち上がりそう言った。その表情は、いつものように楽観的なものではない。
「エルシオ…エフィルロ……」
座り込み、今にも泣き出しそうなルルフィアでも、この状況は理解している。
シルエトの話が事実であれば、民間の天使に被害がないとしても、天界騎士団はもう村を護ってはいない。
「大丈夫、ルルの故郷は私たちが護るわ」
ルルフィアは力強く頷いた。そして、潤んだ瞳をフィロに向ける。
「……私も行く」
「ルル。危険な場所かもしれない。それに……」
フィロが言い切る前に、エルシオが口を挟んだ。
「ルルフィアも連れていくのです。彼女の魔法は優秀なのです。もちろん、シルエトも、楓くんも。シルエトも戦力になりますし、楓くんの首飾りの力も役に立つはずなのです」
座り込むルルフィアへ、エルシオは手を差し出した。
俺もか。まあ、こういう展開は正直嫌いじゃない。
それに、このメンバーならなんとかなりそうだ。
「ふぅ……じゃあみんなで行きましょ!」
「では、このゲートを使いましょう。あらかじめ、目的地を設定しておきました」
シルエトはゲートを開く。こうなることはお見通しだったようだ。
「私ね、チーム名を決めたの。天界騎士団ってあるじゃない。そんな感じの」
この状況で話し始める内容ではない気もしたが、そんなことはないみたいだ。シルエトの情報では、民間に被害はない。それもあってか、誰も暗い目をしていない。
皆で同じ目的を持って突っ込んでいく。やはり俺は、こういうのが好きみたいだ。
団結力を深めるためにも、この集団に名前があるのはいいことかもしれない。
フィロは大きく息を吸い込み、チーム名を高々と発表した。
「私たちのチーム名は『楓と鳩たち』よ!」
「ちょっと待ってくれ。俺の名前が全面に出過ぎだろ。もっと天界騎士団みたいなのじゃないのか。それに、鳩とか趣味全開じゃないか。絶対漫画読んでて思いついただろ」
「いいですね! あの漫画僕も好きですし、あの鳩も、天界に喧嘩を売っているわけですから」
エルシオは話についていけず、ゲートの前でウズウズしている。早く飛び込みたいのだろう。
ルルフィアは聞いていなかったみたいだ。故郷のことでそれどころじゃないのだろう。そういうことにしておこう。
「楓もこれでいい?」
「…もうなんでもいいな。ちょっと俺の名前を推しす……」
「じゃあ決まりね!」
チーム名はそうして決まった。それよりも、俺が他に天使に見つかってはいけないという設定はどこへ行ってしまったのか。
まあ、もうどうにでもなれという精神なのかもしれない。すでに天界騎士団には色々バレている。
それに、俺たちはあの漫画でいう鳩。天界を敵に回しているのだ。
そう考えると、このチーム名は案外悪くないとも思えてきた。
こうして、俺たち「メイプル・ダヴズ」は、シュンセイ村へと向かった。




