50話 もちもち
「ただいま帰りました!」
「もちもちが安かったから大量に買ってきたぞ!」
俺がもふもふの口から噴出された唾を丁寧に拭き取っている間に、シルエトとルルパパが買い物から帰宅した。
ルルフィアのお母さんがルルママであれば、お父さんはルルパパで間違いないだろう。
それよりも、「もふもふ」だとか「もちもち」だとか、紛らわしい単語がこの世界は多いらしい。
ルルパパが袋から取り出した「もちもち」は、名前通りの見た目だ。人間界で言えば、饅頭。もしくは肉まんに似ている。
「やった〜!! もちもちだあ!」
そう声を上げたルルフィアを筆頭に、フィロとエルシオもその「もちもち」とやらに食いついた。
「ほら、カエデくんも食べなさい。美味しいぞ」
ルルフィア父はそう言って、俺に「もちもち」を差し出した。
俺はありがたくそれを受け取り、口に運ぶ。
「もふっ!」
「おまっ! これは俺のもちもちだろうが!!」
さあこれから一口。そんな瞬間に、もふもふがルルフィアの頭から勢いよく俺の口元に飛びついた。そして、貰ったばかりの「もちもち」を俺から奪い去る。
「まあまあ。まだまだあるから」
ルルパパの優しさが俺の憤りを抑えてくれる。もふもふは、どうやら本格的に俺のことを舐めているらしい。フィロやエルシオのもちもちには手を出さない。
そんなことより、俺が人間だということは本当にバレていないようだ。バレていれば、真っ先にその異様さに触れるはずだ。ルルママもルルパパも、そのことに触れないどころか、親切に食べ物を恵んでくれている。
「それで、ルルフィアはちゃんと粉持ちとして働けているかい? どうも心配で」
ルルパパは俺たちに、ルルフィアの仕事ぶりについて尋ねた。まさか牢屋に閉じ込められていて、少し前に脱出したところ、なんてこと知る由もない。
心配になる気持ちはわかる。俺もルルフィアの父親という立場なら、「どうも心配」になるに違いない。
「しっかり働いていますよ! 本当に、頼もしいです」
フィロはそう答え、ニコリと笑った。お世辞ではない、本心でそう言っている。その表情から俺はそう感じた。そしてそれは、ルルパパも、ルルママも同じはずだ。
「それならよかった」
「粉持ち」の仕事。ルルパパの言うそれは、もうすでにこの天界から消えている仕事だ。
フィロが、その仕事を隠れて続ける選択を取り、アレシアとエルシオがそれを手伝い、それが俺のポイント稼ぎに繋がり、ルルフィアやシルエトも仲間になった。
そして俺たちは、「メイプル・ダヴズ」というチーム名を定めた。
「じゃあ皆さんがここに来られた理由は、クビになったルルフィアを返しにきたわけじゃないってことだな」
ルルパパの顔つきが変わった。ここにきた理由は、確かにそんなことではない。ルルフィアには悪いが、その方がよかったかもしれない。
「そうですね。ここにきた理由については、僕から話しましょう」
シルエトはそう言って、姿勢を正す。
そんなシルエトを見て、ルルパパは口を開く。
「あれだろ? もうこの村が天界騎士団の護衛下に無いことについての話だろ?」
「さすがにご存知でしたか。そうですね。だからこの村のことが心配で、僕たちはここに駆けつけました」
「いまさらで悪いが、君らは何者なんだい? 天界騎士団の方もいるように思えるが……」
「えっと…僕たちは……」
少し返答に困った様子で、シルエトはフィロへ視線を向ける。
「ちょっとした慈善団体のような集まりですよ。粉持ちの仕事とは別に、こっちもルルに少しお手伝いしてもらってるんです。村の治安を守っている、天界騎士団とは別の集まりです」
「なるほど……。それで、この村の異変に気づいて来てくださったということか」
フィロの受け答えに納得したように、ルルパパは頷きながら答えた。
「そういうことです。もし差し支えなければ、この村の状況を教えていただけませんか?」
「ねえねえ、ロロはどこにいるの? さっきから見かけないけど」
話を聞かず、空気も読めないルルフィアが、「もちもち」を頬張りながら会話に割り込んだ。
「ロロ」は家族の一員なのだろうか。いや、ペットの可能性もある。
「ルルフィア、ロロフィムは……」
「いいんだ、それについても俺から話そう」
眉を顰め、どこか悲しげな表情でルルフィアの問いに答えようとしたルルママを制し、ルルパパが話に割って入った。
「ルルフィアが家を出てから少しして、あのバカ息子もこの家から出て行った。俺は、父親失格だ」
ルルパパの辛辣な発言に、空気が重くなる。
そんな中、ルルパパは今の村の状況と、出て行ったルルフィアの兄、「ロロフィム」について話した。




