ダークエルフの依頼 解決編
「出来た。出来てしまった」
オルターニャさんや、ナターシャさん達が来てから。
既に五日が経っていた。結局、たいした案も浮かばず。
取り敢えず、世界樹の杖を落札した、商人の男の情報を集める事で話はまとまった。
そして、俺は何をしているかと言うと。
「作っちゃった。世界樹の杖」
ゲーム時代の、手持ちの素材を使って、世界樹の杖を製作してみた。結果・・・・「んーー、結構えげつないのができたな」
ちょっと調子にのって、いい素材を使い過ぎた。
「保持者の魔力量と魔力を、50%上昇。詠唱時間を30%短縮。
発動魔法の威力を二倍に。ランクの星は5.5・・・。伝説級、いや神話級に届くかな? うんコレは・・・・あかん奴だな」
こちらで作ったなかで、最上級の代物が作れてしまった。
死蔵まっしぐらの物だ。まあ、俺の本気装備には敵わないが。
にしても・・・・世界樹の苗木を育てる特別な力。
そんな物、作ったこの杖には無い。んー。ダークエルフに託した世界樹の杖は、やはり違う力を元に作ったのだろうか?
それを作った迷い人。一体、何者なんだ?
考えに耽っていると。『コンコン』とドアがノックされた。
「はーーい」
「店長。ナヴィアナさん達が来られましたよ。リビングにお連れしてあります」
「分かったー! 直ぐ行くー!」
机の上物を片付け、身嗜みを整える。さすがに、頭ボサボサでみんなの前に出る訳にはいかない。
「お待たせしました皆さん」
オルターニャ「朝早くからごめんなさいね。エルちゃん」
ナターシャ「店はいいのか?」
「今日は定休日なので大丈夫ですよ」
ナターシャ「そうか」
ナヴィアナ「所でエル」
「はい、何ですか?」
ナヴィアナ「古竜はどうした?」
「ララウならまだ寝てます。アイツ朝が弱くて」
ナターシャ「・・・・ある意味、朝早く来て良かったと考えるべきかしら」
「ナターシャさん。ララウが苦手ですか?」
ナターシャ「別に苦手という訳じゃ・・・・そもそも、苦手ですむ問題なのかしら?」
オルターニャ「古竜様のお話はそれくらいで。それより・・・・」
「はい。例の商人を調べてたんですよね?」
「「「「うん」」」」と、ナヴィアナさん達は揃って頷く。
ここ数日、情報収集に明け暮れていたらしい。
みんなで来たと言う事は、何が有力な情報が・・・・。
「あの、お茶どうぞ」とリィーサがナヴィアナさん達にお茶を出す。
「「「「ありがとう」」」」と、みんなお茶を受け取って、口をつけた。
オルターニャ「ふう、美味しい。落ち着くぅー」
ナターシャ「中々美味いな。このお茶」
ナターリア「私はいつもここのお茶を買ってますよ」
ナヴィアナ「私もだ。香り味共に、ここ以上の物は無い」
オルターニャ「へぇー、なら私も買って帰ろうかしら」
ナターシャ「私も買うかな。里の土産にでも」
わいわいと、お茶で盛り上がるダークエルフの面々。
あの、それでどんな御用なんです? 何か分かったから来たんじゃ・・・・。
「あ、あの。本題に入ってもらえます?」
オルターニャ「あら、ごめんなさい。あまりに美味しいから。
ごほん! それじゃあ、本題に入るわね。例の世界樹の杖を落札した商人なんだけど」
「はい」
ゴクリと唾を飲み込んだ。真剣な表情で、オルターニャさんが語りだしたからだ。何やらこの様子、ただ事では・・・・。
オルターニャ「・・・・どうやら、毛生え薬を探してるみたいなのよ」
「へっ?」
オルターニャ「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・なんじゃそれ?!」
ナヴィアナ「気持ちは分かるぞエル。私も、姉上から知らされた時。そんな感じだったからな」
「毛生え薬って・・・・」
ナターシャ「まあ、ハゲ散らかしてたもんな」
ナターリア「そうですね。見るも無惨に」
オルターニャ「不毛地帯でしたわね」
何だろ、やめてあげて。その人と会った事ないけど。やめてあげて。
ナヴィアナ「そんな気にする事なのか? ハゲって」
オルターニャ「うーーん。ダークエルフにハゲてる人って居無いのよねぇー。だから、よく分からないけど」
えっ、ダークエルフってハゲないの? それって、エルフ族そのものがって事かな? 確かに、ハゲたエルフ族って、地球の漫画やアニメ、ゲームでも見たことないけど。
「まあ、分からなくもないですよ。その人の気持ち」
ナヴィアナ「エルはハゲてないではないか?」
「・・・・ハゲた知り合いがいまして」
ナターシャ「そうなの。・・・・でもハゲを直す薬なんて無理じゃないかしら?」
ナターシャ「うーーむ。確かに聞いた事は無いな」
オルターニャ「薬の知識が豊富なエルフ族でも知らない物は、どうしようも無いですね」
ナヴィアナ「エル。お主、ポーションの知識が高いと聞いたぞ。
どうだ? 毛生え薬は作れるか?」
四人の視線が、此方に向く。期待に満ちた目、無理はしないでの目、どうするのだ? の、ワクワクした目。そんな視線が俺に注がれた。
「毛生え薬か。さすがに・・・・ん?」
ナヴィアナ「どうしたエル?」
「いえ、ちょっと」
あれ? もしかしてアレはそうなのでは?
俺の脳裏に浮かんだアレとは、カオスフロンティアに存在した、
毛生え薬と言えるアイテムだ。
カオスフロンティアは、一度容姿を設定すると。再度設定する事は出来ない。それはゲームでよくある話だ。
容姿の一つとして、ヘアスタイルがあるが。ヘアスタイルは、ショートにもロングも、設定の変更が自由だった。ただ一つを除いて。
それは、スキンヘッド。つまりハゲ。ハゲにすると、ヘアスタイルの設定が、出来なくなるという呪いのようなシステムがあったのだ。
その為、そのシステムを利用した。PKならぬ、ヘアKと呼ばれる行為が横行した。毛狩りである。
なんともアホみたいな話だが、結構問題になった出来事だ。
因みに、その問題を解決する為に、髪を元に戻すアイテムが作られた。それが、再設定ヘアポーションだ。
運営側が、ヘアKされたプレイヤー救済の為に、急遽導入したアイテム。ただ、このアイテム。結構レアだ。
プレイヤー救済の為なのに、そのアイテムを得るのにクエスト受けるってなんなんだよ! しかもこのクエスト。結構ムズイ。
運営のアホめ! あの時の苦しみ、今でも腹が立つ!
・・・・実は俺、その毛狩りの被害者です。まだ、レベルが低い頃にその被害に・・・・。
兎に角、ヘアポーションを使えば、或いは・・・・。
「ナヴィアナさん、オルターニャさん、ナターリアさん、ナターシャさん。もしかしたらいけるかもしれません」
「「「「本当!!」」」」
「はい」
後日、ヘアポーションを持ったオルターニャさんとナターシャさんは旅立った。そして、その結果はというと。
ナヴィアナ「エル。姉上達からの連絡で、世界樹の杖と交換できたらしい」
「良かった。上手くいったみたいですね」
ナヴィアナ「あぁ。これもエルのおかげだ」
「いえ、たいした事はしてませんよ」
因みに、毛生え薬を使った商人は、髪がフサフサになったそうな。そのフサフサ髪を見た他の者達が、ダークエルフと商人が会っていた事から。暫くの間、ダークエルフには髪をフサフサにする秘薬があるらしいと、噂が立ったらしい。作ったのは俺なんだけど。
ヘアポーションの製作者に関して、オルターニャさん達に、内緒にしてほしいと頼んだので。客がお店に押し寄せる事態にはなっていない。売り出す予定も無い。手持ちに限りがらあるし。
将来の事を考えて、自分用に取って置きたい。
ハゲない・・・・とは限らないし。
そうそう。俺作製の、世界樹の杖だが・・・取り敢えず、アイテムボックスに放り込んである。
使う日も来ないだろう。・・・・多分。