84話:天輪壁
【天輪壁】内、大回廊。
「ちっ……見回りなんて要らねえだろ……どうせ【転移陣】からしか来れねえのに」
愚痴りながら眷属であるトカゲ達を連れて、一人の竜族が歩いている。彼は下っ端であり一番退屈な見回りという役割が大嫌いだった。
どうせ、異変など何もない。そう決めつけていた彼よりも、トカゲ達の方が早くソレに気付いたのだった。
「――やるしかないよ!」
トカゲ達が上を向き、釣られて高い天井へと目を向けた竜族の目に、3人の影が映った。
「っ! どこから来やが――かはっ」
竜族の胸を、炎剣が貫通する。
竜族が燃えさかり踊り狂う中、一体のトカゲを斬撃が襲う。
「後は任せたぞ、レド!」
「ああ! 【岩石召喚】」
魔術によって巨大な岩が空中に出現した。それは轟音を発しながら床とぶつかり、トカゲ達を押し潰した。
岩が消え、床へと3人の影が着地する。それはレド、セイン、グリムの3人だった。
「おい、なんであんなとこに転移したんだ!」
「無事内部に転移出来たんだから文句言わないの! ちょっと高さの座標ズレただけじゃん!」
「グリムもセインも喧嘩するな。行こう」
レドが素早く周囲を見渡す。その回廊はどことなく、ウーガダール冥界神殿にあった物と似ていた。
耳を澄ませば遠くからこちらへと向かってくる足音が聞こえる。
「すぐに集まってくるぞ! まずは【転移陣】に向かおう」
走り出す3人。
「位置は分かるか?」
「これ、円状に回廊が繋がっているから、どこも似たような場所で分かりにくいね」
「敵をやり過ごせる場所を見付けるほうが最優先だ。現在位置、【転移陣】の制圧はそのあとだ」
レドがそう言って、回廊の右側――つまり円状の回廊で言えば内側――にある扉を見付けて、そこへダメ元で手を掛けるも扉は開かない。
「私が開ける。その間守ってくれる? 現在位置もついでに分かるかも」
扉の横にコンソールがある事に気付いたグリムがそれを操作しはじめた。
「前から来たぜレド。トカゲに……竜族もいるな」
走ってきているのはトカゲが数体と、剣を2本持った竜族の青年だった。
「音がするからと思って来てみれば……一体どこから入って来たのでしょうか?」
その青年は蒼い長髪を縛っており、涼しげな目元が特徴的な美男子だった。
「邪魔してる――ぜ!」
セインが獰猛な笑みを浮かべながら大剣を振るう。トカゲ達の胴がまとめて切断されるも、竜族の青年はそれを2本の剣で軽くいなした。
「僕は【竜の爪痕】第八爪……“双閃”のクロアーゼ。以降お見知りおきを」
「名乗るなんて律儀な奴だな!!」
セインとクロアーゼの剣戟が響く。レドは隙を見て魔術を撃ちつつ、トカゲ達を殲滅させていく。
「んー結構めんどくさいセキュリティ入れてるなあ……もうちょっと時間かかるかも!」
グリムの言葉を聞いて、レドは更に反対側からトカゲの群れがやって来ている事に気付いた。
「セイン、そっちは任せた!」
「はん、余裕だよ!」
レドは安心して背中を預けて、後方から迫るトカゲたちへと魔術を叩き込む。
少し動きを見ただけでレドには分かっていた。セインは全盛期の力を取り戻していて、何の心配もいらない事に。背中を預けられる安心感に自然とレドの顔にも笑みが浮かんでいた。
「ふむ……中々の手練れですね。僕の連撃をたかが人間にここまで防がれたのは初めてですよ」
「だとしたら、お前が相手した奴らが雑魚過ぎるだけだな!」
左右から迫る凶刃を大剣で捌きながら、セインはどう攻めに転じようかとと考えていた。
明らかに人の領域を超えるスピードと膂力を持っている目の前の敵に、セインは言うほどの余裕はなかった。
「剣術は一流ですが……そんな大剣で僕を斬れるとでも?」
「ぺちゃくちゃうるせえ奴だな! 竜族ってのはみんなそんなお喋りなのか?」
金属同士がぶつかりあい、火花が散る。
「そうですね。でないと戦闘が退屈で退屈で……なんせ同族以外は弱すぎるんです」
「そういう傲慢なところは、昔を思い出すな!」
「強者の余裕と言ってくれます?」
「っ!!」
クロアーゼのスピードが更に加速する。1本の剣で大剣が弾かれ、隙だらけになったセインの首へともう1本の剣が迫る。
「終わりです」
切っ先が迫ってもなお、セインは余裕の笑みを崩さない。
「そうかな?」
クロアーゼの剣が届く直前に切っ先に拳ほどの大きさの石が現れる。剣はあっさりとその石に弾かれたせいで軌道がずれてしまう。
それはレドが、セインを見もせずに放った魔術によって精製された石だった。
「相変わらず、うざいぐらいに正確だなレド!」
今度は逆に隙だらけになったクロアーゼへと肉薄するとその腹部へとセインは右手を当てた。
「――【暴風解放】」
セインの義手から、渦巻き、極限まで圧縮されていた風が放たれた。反動でセインが後ずさる。
「……あり……えません」
放たれた暴風によって下半身が吹っ飛び、上半身だけとなって床へと落ちたクロアーゼが、目を見開いてセインを見上げていた。
「そんな魔術を撃てば……腕も無事でないはずなのに……」
それを見下ろしたセインが大剣をクロアーゼの頭へと振り下ろしながら、こう言ったのだった。
「俺の右腕は特別製でな。人類の叡智って奴だ」
☆☆☆
【天輪壁】内、管制室。
数人の竜族達がコンソールを操作している。その様子を見ていた一人の男に、部下が声を掛けた。
その男は貴族のような服に、柔和な笑顔に金髪と、一見するとディランザル王国の貴族のように見えるが、その瞳の瞳孔だけは縦長で血の色をしていた。
「ヘネシー様、侵入者のようです」
「……【転移陣】を突破されたのかい?」
「いえ、それが、全く別所からのようで。監視班も外からの侵入ではないと言っています」
「ふむ……元から中に潜んでいたか……転移魔術を使ったかのどちらかだね」
「転移魔術を使える人類はいないはずです」
「人類ではね。考えられない事だけど……魔族と手を組んだのかな? うん、じゃあ“爪先”を全員動かしてすぐに排除するように」
「はっ! 既にクロアーゼ様が向かっています」
「油断しないようにね。魔族と組んで先陣を切るような連中だ。只者じゃないよ」
部下が頭を下げ、退室していくのを見て貴族風の男――ヘネシーは笑みを浮かべたのだった。
「楽しくなってきたね。早く我らが主に降臨していただかないと」
「【欲災の竜星】の軌道修正が完了しました。着陸まで……およそ22時間程度かと」
コンソールを操作していた部下の報告に満足げにヘネシーは頷く。
「引き続き、誘導を行ってね」
「了解しました」
ヘネシーは、モニターに映る【欲災の竜星】の姿をうっとりと見つめていた。
それはまるで胎児のように丸まった竜と、それが抱える無機質な球体が融合したような、なんとも歪な姿だった。赤い光を各所から放っており、禍々しい雰囲気を纏っている。
「ああ、我が主……愛しきマーテルよ。もうすぐだよ……」
ヘネシーの呟きが管制室に響いた。
セインさんは剣と右腕を失った代わりに螺旋丸的な何かを撃てる義手をゲットしていました。
魔力を込める事でそれを風へと変換し内部で圧縮させて、放つなんか凄いサムシングです。
次話更新は9月23(水)です。
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