85話:簡易転移陣
「開いた! ついでに現在地も把握出来たよ~」
グリムの声が響き、扉が無音で開くも既に周囲に敵の気配はない。
「もう全員片付けちまったよ」
義手の具合を確かめながらセインがぼやく。レドは扉の奥を素早く見渡すが、そこはコンソールがポツンと一つだけ置いてある小さな部屋だった。
「とにかく、一旦ここで作戦を立てよう、むやみに突っ込んでいたら命がいくつあっても足りないぞ」
「言うほど竜族も強くないけどな」
「レド君に援護されて、やっと倒せたくせに強気だねーセインちゃん」
へらへらと笑いながらグリムが部屋の中のコンソールを操作する。
「勝手にちゃん付けするんじゃねえよ魔族」
セインが憮然とした顔で答えるも、本気で嫌がっているわけではなさそうなのがレドには分かった。随分と丸くなったな、とレドは笑ってしまった。
「じゃあ私の事グリムちゃんって呼んでもいいよ?」
「そういう事じゃねえ」
セインの言葉を無視してグリムがコンソールの操作を続ける
「グリム、【転移陣】の位置は?」
「ん、今出す」
部屋の真ん中にホログラフィックディスプレイが起動し、【天輪壁】の立体図が表示された。それにセインが驚く。
「うお、びっくりした。へーすげえな」
「赤い点滅してるところが現在位置で――」
立体図に赤い点滅する場所が現れた。
北側を時計の12時とすると、この部屋は丁度3時の位置にあった。
「【転移陣】の位置がここ」
7時の位置が青く点滅した。
「セキュリティを見る限り、ここだね。結構厳重に警備してるっぽい」
「近くもないが遠くもないか」
「だねー」
「正面突破しかないのか?」
セインの疑問に、グリムが【天輪壁】内部の構造図を展開させた。
「この部屋の外にあるのが大回廊で、この遺跡内を一周してるね。シンプルに行けば、ここを通るのが一番早いけど……」
「それだと敵に遭遇しすぎるな」
レドの言葉にセインが頷いた。
「流石に俺らでもそれはちょっとしんどいか」
「まあ無謀だよね。となると……」
大回廊の上にも通路があり、そこは小さな小部屋と通路が入り組んでいる迷路のような構造になっていた。
「ここだけど……んー流石にこのマップを覚えるのは賢いグリムちゃんでも難しいかなあ。その都度コンソールで現在位置を確認しながら進むしかないね」
「逆に言えば向こうもこちらを捕捉しづらいだろう。ここを進むしかないな。ただ時間があまりないのがな」
「上の通路で陽動して、大回廊を全力で突っ込むって手もあるが……戦力を分散させるのは悪手か」
セインの言葉にレドとグリムが頷いた。
「気になるのは、もう一個6時の位置に【転移陣】があるんだよね」
そう言って、グリムが黄色の点滅を表示させた。確かに6時の位置にそれらしき物があった。
「もう一個?」
「うん。でもセキュリティもないし、使われていないのかも」
「どこに繋がっている奴だ?」
「んー分かんない。ここが使えれば楽なんだけどね」
「どうせそこを通るならそこを確認してもいいな。もし王都のどこかに繋がっているなら、そこから戦力を送れる可能性がある」
とレドは言ったものの、それはかなり楽観的な思考だと分かっていた。
「逆に言えば、奴らの根城に繋がっている可能性もあるぞ」
セインの言葉にレドは同意した。
「確かにそうだな」
「ま、行ってみるのも手だね。今は少しでも戦力を増やした方がいいし、ダメならすぐに転移魔術で脱出すればいい。まあタイムロスにはなるかもだけど」
「よし、じゃあまずはそこへ向かおう。それでいいかセイン?」
「……俺はお前に従うさレド」
「ああ。すまん」
申し訳なさそうにするレドの肩をセインが笑顔で叩く。
「謝るなよ。さあ行こうぜ」
3人が再び行動を開始した。
☆☆☆
「そんなにむくれなくても……アリアさん」
「むくれてない」
「母校の警備がそんなに不満なんですか?」
「不満じゃない」
「不満たらたらじゃねえかよ……」
レダスが小さくぼやくもアリアには無視された。
「……警備も……大事」
ヒナの言葉にイザベルが頷いた。
「そうですよアリアさん! 警備も立派な仕事です!」
アリアとイザベル達は竜学院内を歩いていた。
アリアはSランク冒険者なので当然、【天輪壁】突入メンバーに含まれると思っていたのだが、なぜか、竜学院内を警備するようにギルドマスターから命令されたのだった。
自分が若いせいで信頼できないのかと勘ぐったが、真意は分からない。そもそも王都の危機だというのに避難勧告どころか、星が墜ちてくるという事すらも王都民には知らされていない。
政治的理由があるのは分かるが、アリアはそれも納得がいっていなかった。しかし、若い彼女にはそれに声を上げて抗議するほどの気概はなかった。なので、竜学院内でも戦力に数えられるイザベル達と共に、他に竜族や魔物がいないかこうして見て回っているのだが、やはりどうしても頭上にある【天輪壁】が気になる。
「あ、そういえばアリアさん。東校舎に気になる場所があるんですけど」
「気になる場所?」
「はい。ちょっと行ってみませんか?」
五人が東校舎に移動し、二階の一番奥にある魔術研究室へと足を踏み入れた。
「これは……」
そこには、急造された機械やら何やらが設置されており、静かな駆動音を響かせていた。そして床には魔方陣が刻まれていた。
「魔方陣……ですね」
「何だろ……【転移陣】に似ているような気がするけど」
アリアが慎重にそれを検分するも、どちらかといえば魔術が苦手なアリアが見たところでそれが何かさっぱりわからなかった。
「まだ動いていますね。おそらく裏切り者のファボラが設置した物でしょう。ここはあいつの部屋ですし」
魔術学の講師だったファボラの研究室だから、当然彼が関与しているのは明白だった。
「……ちょっと試してみる。もしかしたら竜族のアジトに繋がっているかもしれないし。あんたらは残って見張っていて」
「いや、一人は危険ですって」
「……一応私Sランク冒険者なんだけど?」
不満そうにそうアリアが言うものの、イザベル達は不安そうな顔を浮かべた。
「いやそうだけどよ……それでも一人ってのは」
「平気だから。大人しく待ってなさい。じゃ、行ってくる」
アリアがその魔方陣に足を踏み入れると、一瞬でその姿がイザベル達の前から消えた。
「やっぱり【転移陣】でしたね……それで、イザベルどうします?」
ニルンが視線をイザベルへと向けた。
「んー下手に私達が行っても足手まといかもしれないし……」
「でもよ、一応俺らも戦えるし自分の身ぐらいは守れるだろ」
「ファボラに……殺されかけたよ?」
ヒナの言葉に全員が気まずそうに顔を見合わせた。
「あれはほら! あいつがズルするから!」
「勝負に……ズルはない。死ぬか殺すか……だから……」
ヒナの言葉に、全員が押し黙った。
しかし、再び口を開けたのはイザベルだった。
「とりあえずしばらく様子を見て、帰ってこないようなら行ってみる? やばそうなら帰ってくればいいし、もしかしたらアリアさんがピンチの状況かもしれないし」
「そうですね……それが良いと思います」
「俺はすぐに行ってもいいと思うが。まあちょっと待つか」
「……待つのも鍛錬」
こうして【転移陣】の前でアリアの帰りを待つイザベル達だったが、全員の顔にはうずうずして待ちきれないといった表情が浮かんでいた。
うずうず(フラグ
次回更新は10月2日(金)です。お楽しみに!
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もうそろそろ書籍化の詳しい情報について発表出来るかと思います。こちらもお楽しみに!




