83話:ギルドナイト・セイン
「セ、セイン!」
「あー、彼が例の」
グリムが興味深そうにセインを見つめていた。どうやら、グリムはセインの事を知っているらしい。
レドはセインの姿を見てどういう顔をしたら良いか分からず、何とも言えない表情を浮かべていた。
嬉しいのと、それを素直に喜べない自分との間で揺れている。
「まあ、各々思うところはあると思うけど、僕としてはこれが最も成功率が高い人選だと思っているよ」
「ギルドマスターには恩義があるからな。俺は全力で応えるさ。だから……虫のいい話かもしれないがレド――協力して欲しい」
そう言って、セインが左手を差し出した。
「……元気そうで何よりだ」
レドはそれだけ言って、その手を握り返した。
「さて、じゃあ詳しい話はセインに伝えている。あとは君達で決めて貰って構わないが、時間はあまりない。すぐに出発してもらいたい。既に【天輪壁】へと飛べる【転移陣】には戦力を待機させている。君達の合図次第で突入させる手筈だよ」
アルマスの言葉に三人が頷いた。
「ま、二人とも色々あるだろうけど、さっさと準備しよっか」
グリムはにやにやしながらそう言うと、スタスタと会議室から出て行ったのだった。
「……んで、あのちびっ子は何者だよ、レド」
その小さな後ろ姿を見てセインがぼやく。
「そこからか……」
前途多難だな……とため息をつくレドだったが、そういえばここ最近はずっとそうだった事には気付かない振りをした。
☆☆☆
「そうか……ギルドナイトになったんだな」
「それしか道はなかった。牢獄も飽きちまったし。後悔はないさ」
「ギルドナイトって何?」
冒険者ギルド本部にある保管庫にて、レド達三人は装備を調えていた。あらゆるアイテム、装備を持ち出して良いとアルマスに言われたので、遠慮無く物色しながら会話を続けていた。
「ギルドナイトってのは冒険者ギルドの依頼のみを請け負う冒険者だな。ギルドがあまり表に出せない依頼をやる分待遇や報酬は良いが……」
「その代わりに汚れ仕事をやらされる。犯罪を犯した冒険者の捕縛や処刑。犯罪組織への潜入……破壊。まあそんなアレコレばっかりだ。表舞台から消えざるを得なかった俺にはぴったりの仕事さ。勘はもう取り戻してるし、この義手が予想以上に便利でな。レドと組んでいた時より強くなっているぜ?」
「ふーん、なんか暗部って感じだね。冒険者を狩る冒険者か……アハハ、私と似てる」
グリムがニヤリと笑った。レドも詳しくは聞いていないが、どうやらグリムは魔族のルールから外れた魔族を狩るのが本業らしい。
セインの話を聞いていると、ガディスでの事件のあとセインは冒険者ギルドに二つの選択肢を与えられたようだった。
牢獄で、死ぬまで過ごすか。
ギルドの為に汚れ仕事をして制限された自由を楽しむか。
そしてセインは後者を選択し、義手とギルドナイトという立場を与えられたようだ。
「話は大体聞いているが……まさか俺とレドが魔族と肩を並べて戦うとはな……人生何が起こるか分からないもんだな」
「ま、色々しがらみはあるかもだけど、仲良くやろうね、元勇者君」
セインにウィンクをして挑発するグリムだが、セインはそれを無視してミスリル製のロングソードを腰に差した。背中には黒鉄で出来た大剣を背負っている。
「元勇者って呼ぶんじゃねえよ」
それだけ言ってセインはグリムに背を向けた。
「ごめんね~気にしているんだ」
「角斬って更に身長を短くしてやろうか、ちびっ子」
「やってみれば?」
最初は不安だったが、仲良くじゃれ合っているセインとグリムを見て、レドは何とかやれそうだと安堵した。
未知の遺跡、未知の敵。前の事件同様に厄介極まりない状況だが、やはり自分がどうにかするしかない。
レドは腰のポーチにいくつかアイテムを入れて、更にグリムにも勧めたが、にべもなく断られてしまった。
「興味はあるけどいらない。私は魔術だけで十分だし後ろから適当に魔術連打するよ」
「前衛は俺が請け負う。サポートはレドに任せていいか?」
まあ、このメンバーならそうなるだろう。レドは納得し、頷いた。
「もちろんだ。グリムの魔術の殲滅力は確認済みだ。セインのサポートに徹して敵の足止めに専念するさ」
「相手は竜だからね。私の魔術についてはそこまで期待してもらっても困るけどね。まあやりようはあるけど」
「竜か……ふん、 骨竜峠の亡風竜を思い出すなレド。」
「あれも大変だったな……」
それでレドはふと思い出した。自分の愛弟子についてだ。
「そういえば、お前がくれた剣、シースが打ち直して大事に使っているぞ」
「ん? ああ。ならいいんだ。あれを持つには、もう俺の手は汚れすぎたしな」
セインがジッと自分の左手を見つめた。
「あいつが……いつか勇者になるかもしれないな。また機会あれば会ってやってくれ。随分とお前の事を心配していたよ」
「会わない方が良いだろうさ。しかし勇者ね……良いのかちびっ子。自分の父親を殺そうと企む奴の師匠だぞこいつ」
セインが愉快そうに笑うとレドの肩を小突いた。
「む、確かにそれは迂闊な発言だった」
「んー? あー、別にいいよ。多分、みんな勘違いしてると思うけど、パパは魔族の長だから魔王って呼ばれているだけで、本来の意味での【魔王】は――別にいるから。これを信じるか信じないかは君達次第だけど……」
……今サラッととんでもない事を言わなかったかこいつ。
レドとセインは同時に同じ事を思ったのだった。
「……その話はとりあえずあとでじっくり聞くとして……どうだグリム、セイン。準備は?」
「俺はいつでもいける」
「私もー」
「……うっし、じゃあ行くか」
こうして、Sランク冒険者、元勇者、魔族という前代未聞のパーティは、竜族が潜む【天輪壁】へと挑む事になった。
次話からいよいよ【天輪壁】に突入です。
次話更新は9月16日(水)です!
書籍作業進んでおります! キャラデザラフは想像以上に素晴らしい物でしたので、またどこかでアナウンス出来ればと考えております。お楽しみに!!




