食べて除霊2
午後の講義に出る気にもなれず、サキは一先ず不審者――リョウの事務所とやらに付いて行く事にした。
ただでさえ法外な金額を請求され落ち込んでいると言うのに、背負ったリュックから漂ってくる匂いで、折角作った弁当が大破しているのが見なくても分かり、うちひしがれる。
公園から大通りに出て坂を下り、二本目の信号を右に曲がり、一階にコンビニの入った雑居ビルの脇の路地を奥へ奥へと進み、突き当たりの廃墟のようなビルへと入っていく。
狭い路地だと言うのに、住人たちは気にせず堂々とゴミ箱を置くせいで、いちいちゴミ箱を跨いだり壁に張り付いて避けたりしなくてはならない。
屈まないと頭をぶつけそうな細い階段を三階までのぼると、リョウは一番手前の扉を開けた。
部屋の中は、デスクと椅子、来客用のセーブルセットが置かれただけの、いたってシンプルな事務所といった内装だった。
リョウは鞄をソファーに放り投げると、コンビニ袋をガサガサとあさりながら、隣の部屋へと消えていった。
「何回説明されても意味分かんないんで、もう一回確認して良いですか。あなたは退魔師? で、一般的なお経とか祝詞とかお線香とか塩とか十字架とかニンニクとかじゃなくて、霊を食べて徐霊する。そして私に憑いていた悪霊を食べた。で、その代金として住み込みでバイトしろと。……はあ?」
入り口につっ立ったまま、サキは隣の部屋を見詰め向け独りごちる。
リョウは下のコンビニで買って来た、見切り品の一リットル八十円のミネラルウォーターをコップに注ぐと、戻って来るなり無言でテーブルに置いた。
ガラス製のコップだが、手入れが悪いのか普段使わないのこ、くすんでいて水が濁って見える。
「仕事の帰りだったんだ。まぁ、不発だったけどな。心霊現象に悩まされてるって依頼を受けて行ってみれば、結果ただの欠陥住宅。で、食いっぱぐれて死にそうになっていたところに、美味そうな悪霊連れたお前が来た。これはもう運命だろ」
「待って。次々新しい情報出してこないで。馬鹿なの?」
「失礼な。大卒だぞ」
「あ、凄い馬鹿だ」
呆れるサキを尻目に、リョウは気にした様子もなくデスクの引き出しから瓶を取り出す。
きゅきゅっと瓶の口を回し開けると、中からミルクアメのような白く丸い物を取り出し、口に放り込んだ。
「いるか? 地縛霊飴」
「次々新しい情報だしてこないでってば」
やっぱり馬鹿だわと、サキは思い切り口に出してしまった。
「酸っぱ苦い。とろりとした酸っぱ苦さ」




