表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フリージア王国備忘録<第三部>  作者: 天壱
来襲侍女と襲来

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

508/512

Ⅲ311.舞台は膠着する。


「……何故、貴方がこの会場で銃を所持しているのでしょうか」


そう、ローザから問いかけられたレオンは滑らかな笑みを落とした。

ティアラの先にいる女王の表情が、冷ややかである可能性を声色から鑑みる。少なくとも女王の背後に立つ近衛騎士は三名揃い、目を見張っていた。

敵に動きを気づかれないように顔は正面のまま、目だけをレオンに向けるがそれでも驚愕を隠せない。護衛であるアネモネの騎士達が持っていても問題であるそれを、他ならぬ第一王子が所持していたのだから。

撃ったのこそ、彼の護衛の騎士だった。しかしローザ達はレオンがその銃を騎士へ手渡したのを確かに目にした。


本来、会場内に武器は持ち込み不可なのがオークションの規則だ。

その為に来賓のみならず護衛も全員が受付で武器を預けている。申請だけでなく、簡単な触診も行われている。フリージア王国に至っては特殊能力すらも、ミスミ王国から正式に許可証を得たヴェスト以外全員が申請だ。そんな中、拳銃一丁であろうとも厳罰は免れない違反行為だ。

侵入者の味方やそれ以外でも危害を来賓へ加える意図があったと疑われても仕方がない。

煙を吐き切った銃を、一階にいる侵入者達には見えないようにレオンは受け取る。そのまま手の中で手品のように一瞬で袖口へとしまった。細身のレオンのどこに隠す余白があるのか、目を凝らしたヴェストも判断できない。


「こうなることは想定できましたから。きちんと運営側と話はつけての所持です」

フリージア王国と同様、レオンもプライドを通して会場下に何者がどのような集いを起こしているのか知っている。そして今プライド達がなにをしているのかも。

ローザ達がそうしたように、地下にいる闇オークション関係者が地上に沸いてくることは想定したとレオンは示す。


だが、それを知るのはごく一部、ミスミ王国でも国王と王妃にしか知らされていない。

まさかレオンが、武器の所有を認めさせる為に極秘情報をオークション関係者へ勝手に漏洩したとも考えにくい。少なくとも、オークション関係者の中で気取るような気配は微塵も感じられたなかったとヴェストもローザも思う。それは近衛騎士達も同じだ。話をつけたという言葉もすぐには信用することは難しい。

同時に、レオンがその場凌ぎの嘘を吐いているようにも誰も見えなかった。

ティアラも含め戸惑いも浮かべるフリージア王国全員にここで一から百まで説明する時間は、レオンにもない。武器を所持しているとは見えない手をパラパラと開き悪意はないことを示しながら声を潜める。


「もともと、決まっていたんです。今回我が国が輸入した小型武器を紹介する際、この僕自ら登壇で披露することが」

あっ、と。ティアラは小さく溢し、口を両手で覆った。以前、プライドがレオンに今回のミスミへの極秘潜入を明かした際、レオンが自分の参加するオークションでどんな予定と話していたか。

更にヴェスト達は「小型武器」という響きにレオンが着席した時を思い出す。彼がフリージア王国に任された商品の順番を変える為、何を引き換えに後回しにするように仕組んだか。


『今年のオークションは僕も趣向を凝らす予定だったから、是非プライドにも見てほしいな』

『〝稀代の天才による特殊能力発明品〟……これを〝最先端小型武器〟と順番を交換してもらいました』


「あくまで趣向を凝らす予定というだけでしたが、お陰で僕だけは武器の携帯を許可されていました」

小型武器。利点として挙げられるのは、当然その収納性だ。それを競売にかけたアネモネ王国の第一王子自らが登壇し、そして何もない筈の衣装から次々と武器を取り出して見せる。

協力スタッフ以外の誰にも気付かれず、そして軽々とした動作でいくつも武器を装備していたことを明かして見せれば当然その武器の軽量さも持ち運びや隠し持つ容易さも全てを口で説明する必要もなく実証することができる。


順番を変えたのは、発明を確実に競売に出す為の手段としか考えなかったローザ達だが、それ以外の理由もあったのだと今理解する。

この騒動も戦闘も全てレオンの想定内であったことにヴェストは表には出さず舌を巻く。武器を持ち込むことはフリージア王国の摂政であるヴェストにも、そして近衛騎士達にもできなかった対策だ。

流石ですっ!とティアラも思わず声が出かかった。しかし下の階では変わらず一斉占拠が進む中、そんな呑気な発言はできず意識的に唇をきゅっと結ぶ。

フリージア王国から尊敬や関心の眼差しを受ける中、とうのレオンは自分が一手先を読んだとは思わない。あくまで自分は武器を持ち込む理由があったから利用したまで。そして、そんな幸いな偶然がなくとも情報を掴んだ上でフリージア王国が大人しく人質に甘んじはしないとレオンはよく知っている。


「僕は、競売品の確保に向かいます。我が国のみならずどの国にとっても貴重な品々ばかりですから」

彼らと一緒に、と。

そう滑らかな笑みを浮かべながら、背後に控えるアネモネ騎士達へと軽く視線を投げた。第一王子の護衛はもちろんのこと当然共に行動を望む騎士達は、小さな動作で肯定を示す。レオンと異なり武器もない丸腰の彼らだが、自国の時期国王を守ることに迷いはない。

そしてそれは、闇オークションの存在を知るフリージア王国もまた同じこと。

レオンの笑みを受けながら、ローザは二秒目を閉じる。このような事態にならないようにプライド達の潜入を認めたが、もうここまで公になってしまっては意味もない。目下で襲われる来賓達の身の安全は勿論のこと、各国の貴重な品を混乱に乗じて奪われるわけにもいかない。

レオンが今襲われている客よりも、品の方を選び伝えたこともそれは彼の優先順位ではないことをローザも当然理解する。


「……そうですね」

僅かに低めたその声は、自分の盟友にも似た声だとレオンは穏やかな気持ちで思う。更に化粧で吊り上げた眼差しの強さもまた彼女と似た輝きだ。

近衛騎士達も全員がローザの一挙一動に注意を向ける。当然、周囲と目下の敵の動きにも警戒し気を払う。今、フリージア王国の護衛として同行を認められ傍にいるのはたった三名の騎士のみ。その三名全員が女王の近衛騎士だ。

緩やかに、そして目下に蔓延る裏稼業達には気付かれない動きでローザは肩の位置まで手を挙げる。その小さな動作さえ近衛騎士達は見落とさない。薔薇のような唇から語られるであろう指示に、早くも薄く呼吸を止めた。

今、この場で自分達へ最も強い命令権を持つのは騎士団長ではない。


「ケネス、引き続き私達の護衛を」

はっ、と。その声も抑え、背筋と頷きの動作で答えた。

最も自分達が守るべき女王と王族の護衛ほど、重き命令はないと考える。この場にいるローザだけではない、ヴェストもティアラも、そして同階にいる全員を自分だけで守らなければならないのだと、たった一言でケネスは理解する。

それを可能だと、他ならぬ女王に認められたことに僅かに身震いを覚えそして飲み込んだ。


「ブライス、一階席の収束を」

来賓の死者は出さないように、と。そう続けるローザの言葉にブライスは表情一つ変えず肯定の動作で示した。

ざっと見ただけで各国の重鎮来賓が二階席の倍数以上騒然としている。自分一人でこんな数を相手にするのかと思えば、まぁまぁ骨が折れそうだと今は思う。

武器がないのが余計に手痛い。少なくとも大声で怒鳴って暴れ回ることは初手ではできないと早々に算段づける。


「ノーマン、彼らの侵入経路の遮断を」

小さく肩が揺れ、口の中を飲み込んだ。大きく目を見開くノーマンもまた、今は言葉では返さない。先輩騎士二人と同じく動作で示し、急激にバクつきそうな心臓を直接押さえたい気持ちを堪える。

他の騎士二人が落ち着き払っているのに、自分だけが戸惑いを見せるわけにはいかない。自分は今、女王付き近衛騎士なのだから。

各所の護衛を任される中、二番隊のブライスでも九番隊のケネスでもなく自分にその任を命じたことに女王が各隊の特色も把握しているのだと思考の中だけで理解する。


「先ずはブライスとノーマンで人質の確保を。その後各自行動に移りなさい。……できますね?」

そう試すような声色で尋ねる女王に、場所が場所であれば一斉に片膝をついていた。それほどの威厳を纏う女王の期待に応えないわけにはいかない。

最初に動こうとしたのがブライスだった。下の階に蔓延る裏稼業達にも気付かれないよう降りるべく上着に手を掛けた。騎士の証としてはこの上ない団服だが、今は客に紛れる為に脱ぐ方が目にも付きにくい。しかしブライスが上着を脱ぎ下ろすよりも先にレオンが潜ませた声をかけた。

待ってください、とその言葉にブライスだけでなく全員が視線をくれる。変わらず椅子に掛けたままのレオンは、必要な人物達から注目が集まったことを確認してから左脚を伸ばした。同時に首を掻くような動作で片手を後頭部へと回したその瞬間。




武器が、雪崩れた。




ボトッボトボトボドボトトッと、レオンの裾から音を立ていくつも無機物が背を撫で滑り落ちる。

一階からは転落防止の手摺と柵で死角になった位置、レオンの上着の裾から複数の武器が床へと転がった。それを目撃した騎士達だけでなく、レオン達の様子を遠目に窺っていた二階席の客もそれを捉えられた者は目を疑った。

細身のレオンではあるが、元々の衣装もそこまでゆとりのあるデザインではない。それを上着の裾からいくつも鉄の塊が落ちてくる光景は衝撃だった。更に間近に立つ騎士達の目にはそれがどのような武器かも認識できる。

アネモネ王国から提供されるフリージア王国騎士団だからこそわかる、新型武器だ。しまいには小型武器だけではなく、謎の部品らしき塊までも落とされる。


上着の隙間から落ちたその武器や部品を、レオンは軽く屈み手を伸ばす。

そこから拾い上げ、丸めた背中を元の角度に戻すまでの短い間にガチャンガチリと畳まれた武器を本来の形の一歩手前まで広げ、バラけた部品同士は組み立てる。出来上がっては、一階席に背中を向け壁になるアネモネ騎士達へ手首の動きだけで投げ渡した。


「どうぞ持っていってください。爆弾は数が限られますが」

折りたたみ式のナイフはアネモネ騎士が最後に縦に広げれば、大振りナイフと呼べる大きさだった。剣よりは小ぶりだが、通常のナイフよりも大きく戦闘でも充分に活躍する鋭利さだ。

さらに組み立てられた銃も、服の中に入っていたとは思えない旧型に近い大きさの銃が出来上がった。最後、左裾から小分けにされた銃弾まで出された時には、近衛騎士達分どころか二階席の護衛を抜いた来賓分はある数の武器がアネモネ騎士達の手に置かれた。

最後には部品の塊を全て繋ぎ合わせた結果、首よりも太い小型バズーカまでも一本完成させたことにフリージアの誰もが瞼を無くす。

いっそ武器よりもレオンの上着の仕組みの方が気になってしまう中、上着の皺を一度整えたレオンは彼らの顔色に再びなめらかな笑みで返した。


「皆さんに提供できる武器はこのくらいですが、一定以上の品質は保証します。仮にもオークションに出品予定だった武器ですから」

どうぞ、と。レオンの合図でアネモネの騎士達が近衛騎士達に差し出せば、彼らも今度は手を伸ばす。

ケネスは銃と銃弾、更には使うには威力は大き過ぎるが牽制となるバズーカを、ノーマンは音が漏れない大振りナイフを、そしてブライスは銃とナイフ両方をそれぞれ掴み取った。

騎士団でも数度アネモネから提供された際に使用したことのある二種だが、あくまで使い勝手がわかる程度で手に馴染んではいない。だが丸腰よりも遥かにその武器の存在は心強かった。

人間武器庫、という言葉が近衛騎士達の頭には浮かんだが口にはされない。


組み立てられた後の武器はどれも隠し持つには難しい大きさだが、それでも可能な限りケネスとノーマンは予備も携帯した。

いつ、どのような状況で武器を一つ二つ手放すことになるかもわからない。ブライスは上着を脱ぐ為、隠し持つことは諦め、銃と銃弾の予備とナイフを一つずつで諦めた。最後にそれぞれレオンが手榴弾を差し出せばブライスは断り、ケネスとノーマンは二つずつ受け取った。

感謝致します、と。近衛騎士達がレオンへ感謝を示す中、残った銃やナイフをアネモネ騎士達は携帯せず二階席の来賓護衛へと配りに動いた。


一階席の角度からは気付かれないように必要以上は歩かず、自分達に注意を向けた護衛達と目を合わせてから床に置き、蹴り飛ばす。

もともとレオンが狙撃を行なってから二階席の来賓の殆どが注視していた為、息を合わせることは難しくなかった。各来賓の護衛達もまた、護衛対象者を守るための武器を欲していることは同じだ。経緯は読めずとも、アネモネから供給された武器を今は言及することなく静かに受け取った。

各所に武器を配れたことを視界で確認するレオンは、そこでちらりとティアラと目を合わせる。彼女も武器を欲しそうに手をうずうずさせていたが、レオンは小さく笑みながら人差し指でバツを示した。

摂政のヴェストにならばまだしも、王女である彼女に銃やナイフなどの野蛮な武器は持たせられないと考える。レオンの意思表示にティアラもすぐ理解し、しょんぼりと肩を落とした。

武器は身を守る為だけではない、味方や己を傷付ける凶器であることはレオンも理解している。何かの間違いで自己防衛の為に手を汚すだけでも咎められる国の王族もこの会場にはいると知っている。


「人質の救出には僕らも加わります。その後別行動で競売品の確保に向かう、で宜しいでしょうか」

「いえ、救出は我々二名で充分です」

確認したレオンの目配せに、抑えた声で発言したのはブライスだ。

一階席には見えないように腰に近い位置で挙手をしたブライスへ〝我々〟に加えられたノーマンは微かに肩を緊張させ視線を向けた。武器提供をしてくれたアネモネ王国からの協力申し出を断るなどと思うと同時に、……確かに二名の方が都合が良いとも理解する。口の中を飲み込んだところで、ギラリとしたブライスの眼光と目が合った。自分にも意思確認を求める厳しい視線に、直後ノーマンも同意を言葉にした。

アネモネ騎士が足手纏いという意味ではない。戦況によっては望むところでもある助力だが、今だけは人数が少ない方が確実だった。

せっかくの申し出大変申し訳ありませんがとノーマンが頭を下げる中、レオンも手で受けた。フリージアの騎士が優秀であることも、隣国である自分達はよくわかっている。

更に断ったブライスが、改めて低めた声で謝罪する。その眼差しはレオンにでもローザにでもなく、今も裏稼業達に襲われている一階席の方向へと向ける。

最初に確認した時と人質の数が変わっていないことを配置と共に確かめた。


「双方の被害を最小限に抑える為、何卒ご理解のほどお願い致します」

「お手並み拝見させて頂きます」

ひらりと手を振るレオンは、穏やかな声でブライスに返した。女王付き近衛騎士。その実力を目にできるのを心から喜ばしく思う。


アネモネ王国、そしてフリージア王国に全侵入者への生死問わずの反撃許可が改めて正式にミスミ王国の国王から下されるのは間もなくのことだった。


Ⅲ6-1

Ⅲ290-1

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ