第27話
第27話
「無事でよかった」
王都に戻って来たホムラを、シャイレンドラが笑顔で出迎えた。
「話はシャイレンドラ殿から聞いた。魔王は倒したのか?」
レセルニアスがホムラに詰め寄った。
ああ、倒した。と、答えかけて、ホムラは、その言葉を飲み込んだ。シャイレンドラの命令にしか反応しない、物言わぬ使い魔。そのキャラ設定を思い出したのだった。
そんなホムラを、兵士たちが取り囲んだ。
ホムラも一瞬驚いたが、考えてみれば当然だった。今のホムラは第1王子暗殺未遂の容疑者なのだ。魔王の出現という不測の事態が原因とはいえ、地下牢から抜け出した事実に変わりはないのだった。
「さっさと捕まえろ! いや、殺せ! そいつらが、魔王をここに引き込んだんだ! そいつらは魔王と結託して、この国を滅ぼそうとしておるのだ!」
兵士たちの後ろから、アデルハイドが喚き散らした。
「何を言っている!」
レセルニアスが一喝した。
「経緯はともかく、この使い魔は魔王から、この国を救ってくれたのだ!」
「ほざけ! 貴様がどう庇おうが、その使い魔が魔王を呼び寄せた事実に変わりはない! そいつは、我が国に災いをもたらす悪魔だ!」
「魔王が目覚めたのは、兄上のせいだろう! 貴様のくだらない小細工が、この事態を招いたのだ! 諸悪の根源は、貴様だ!」
「貴様、それが兄に対する言葉か!」
売り言葉に買い言葉。兄弟が一触即発の事態に陥ったところで、
「2人とも、やめい」
ベルナール王が仲裁に入った。そして王の後ろには、リリアンヌたちの姿もあった。
「話は、リリアンヌから聞いた。今回の件に関して、その使い魔に咎はないものとする」
ベルナール王の決断に、アデルハイドは鼻白んだ。
「なぜですか、父上! その使い魔は」
「おまえがどう言おうが、余の決定に変更はない」
ベルナール王に毅然と言い切られ、
「い、いいでしょう。父上が、そうおっしゃるのなら、その使い魔の魔王出現に関する罪は、不問といたしましょう」
アデルハイドも渋々了承した。
「しかし、容疑者の身で、勝手に牢から抜け出したのは事実だ。その罪を免れることはできん」
「貴様、この後に及んで……」
レセルニアスが歯噛みした。そのとき、
「その必要はない」
運命のカードの保有者、ルーン・アルステリアムが、捕縛した魔導師を一同の前に突き出した。
「こいつが暗殺未遂の真犯人だ」
ルーンの言葉に、全員の目が魔術師に集中する。
「ほ、本当なのか?」
レセルニアスは魔術師に詰め寄った。すると、魔術師は無言でうなだれた。
「これで、わかったろう。その人は無実だ。だから、脱獄の罪に問われるのは筋違いだ。元々、逮捕される理由がないんだからな」
アデルハイドの暗殺未遂事件以後、ルーンは真犯人を探して、独自に動いていたのだった。
「ありがとうございます」
シャイレンドラは、ルーンに笑顔で礼を言った。
「べ、別に、あんたたちのためにやったわけじゃない。僕自身が、誰かが無実の罪で捕まるのが我慢ならなかっただけだ」
2度と、師と同じような目に遭う人間など見たくない。本当に、ただそれだけだった。
「これで、貴様も終わりだ」
レセルニアスはアデルハイドに詰め寄った。
「自作自演で、シャイレンドラ殿を陥れようとした罪、その身をもって償ってもらうぞ」
「罪だと?」
アデルハイドは笑い飛ばした。
「オレが何をしたと言うんだ?」
「なに?」
「たとえ、犯人がその男だとしても、オレが被害者であることに変わりはない」
「貴様、この期に及んで」
「それとも、その男を使って、オレがアリスノートを陥れようとした証拠でもあるのか? あるなら出してみろ」
アデルハイドは、この魔術師を雇う際、雇い主が自分であることがバレないよう、周到に準備していた。魔術師との接触には下人を使い、その下人もすでに始末している。
死人に口なし。
たとえ、ここにいる占い師が、その下人の死体を見つけたところで、アデルハイドとの繋がりを立証することは不可能だった。
「貴様……」
レセルニアスは拳を握りしめた。悔しいが、確かにアデルハイドの言う通りだった。
「オレは寛大だから、今回は許してやるが、他人を罪人呼ばわりするときは、よく調べてから行うんだな」
アデルハイドは鼻で笑い飛ばすと、レセルニアスに背を向けた。
レセルニアスたちは忌々しくも、歩き去るアデルハイドを黙って見送るしかなかった。しかし、
「げぼあ!」
突然、どこからともなく飛んできた石が、アデルハイドの脇腹に直撃。その衝撃で、アデルハイドの体は折れ曲がり、そのまま壁に激突したのだった。
その後、アデルハイドは、飛んできた石はホムラの仕業であると、ベルナール王に厳罰を要求した。しかし、この訴えはベルナール王により却下されてしまった。
証拠がなければ立件はできない。
このアデルハイドの主張を、ベルナール王が肯定した結果だった。




