第26話
第26話
「どこにいるかと思えば、こんなところに隠れておったか」
魔王ブルムンドは、牢内にいるホムラを射すくめた。
「隠れてねえよ」
ホムラは、不本意そうに言い返した。強力な魔力を帯びた魔王を前にしても、ホムラは普段通りだった。
「その結界の中にいれば、気配を消せると思ったか? 甘いわ。貴様の存在を探し当てることなど、わしには造作も無いことよ」
「だから、違うっつってんだろうが。て、もういいわ。で? 復活早々、俺んところに来たってことは、あのときの捨て台詞を実行しに来たのか?」
「しれたこと。あの屈辱、片時も忘れたことはない。今度こそ、貴様をこの手で八つ裂きにして、この世から完全に滅殺してくれるわ」
「あっそ。でも、悪いことは言わんから、このままおとなしく田舎に帰れ。今なら見逃してやる」
「ほざけ! ゴースト風情が、誰に物を言っている!」
ブルムンドは、合わせた両手に闇の力を収束させた。それを見て、
「う、うわああああ!」
アデルハイドが血相を変えて逃げ出した。
「やめろ、このバカ」
ホムラは、サイコキネシスでブルムンドの動きを封じにかかった。
「くだらん」
ブルムンドは鼻で笑うと、ホムラの念力を振りほどこうとした。しかし、
「バ、バカな」
どんなに力を込めても、ホムラの戒めはビクともしなかった。
「たく、しょうがねえな」
ホムラはシャイレンドラに右手を突き出すと、
「エナジーガード」
シャイレンドラの周囲にバリアを張った。そしてシャイレンドラの安全を確保した上で、
「エナジーバースト」
結界ごと鉄格子を吹き飛ばした。
「やばいな。これ以上、ここで暴れると崩れかねん」
ホムラは天井を見上げた。ブルムンドの魔力と今の衝撃で、天井の至るところから砂埃が落ちていた。
「バカが考えなく、力を放出しまくりやがるから」
ホムラはブルムンドの首根っこを掴むと、そのままシャイレンドラの腰を抱きかかえた。
「とりあえず、外に出るぞ」
ホムラはシャイレンドラとブルムンドを連れて、地下牢から脱出した。そして地上に出たところでシャイレンドラを降ろすと、
「ちょっと、そこで待っててくれ。じゃなかった。待っててくださいませ、御主人様」
ホムラはブルムンドを連れて王都から飛び離れた。
「この辺でいいだろ」
ホムラは人気のない街道まで来たところで、ブルムンドを地上へと叩き落とした。
「んじゃ、いっちょやるか」
ホムラは軽く肩を回した。
「き、貴様、人霊ではないのか? なぜ、ゴーストごときに、そんな力が?」
ブルムンドには信じられなかった。今のホムラの力は、魔王である自分を、はるかに凌駕していた。いや、それどころか、それこそ魔界を統べる大魔王すらも。
「き、貴様、一体何者なのだ?」
ブルムンドは、知らず知らず後ずさっていた。
「俺か? 俺は、勇者で賢者で魔王で使い魔だよ」
「ふ、ふざけるな!」
「ふざけてねえよ。それと、なぜゴーストごときがっていう、さっきの質問の答えは、俺がゴーストだからだよ」
「ふざけるな!」
「だから、ふざけてねえって言ってんだろ。いいか、ゴーストの力は、基本生前の能力によって決まる。が、俺は生前の記憶がないから、ゴーストの固有スキルである「エネルギードレイン」とポルターガイスト現象、つまり「サイコキネシス」しか使えなかったんだ。で、俺は考えたわけだ。エネルギードレインてのは、生きてる人間の生命エネルギーを吸収する技。なら、同じ要領で、人以外の、たとえば地水火風といった精霊エネルギーや魔力も吸収できねえかなってな」
「ほ、他のエネルギーだと?」
「そして、100年間の試行錯誤の末、俺は「エネルギードレイン」を進化させ、生命エネルギー以外のエネルギーも吸収できるようになったんだよ。それこそ、おまえご自慢の、暗黒の力を含めてな」
「な……」
「ま、そんなわけで、おまえが今相手にしてるのは、この世界にある力のすべて、要するに、この世界そのものなんだよ」
「バ、バカな。じ、人霊ごときに、そんなことが……」
ブルムンドは右手を握りしめると、
「できてたまるか!」
ホムラめがけて暗黒砲を撃ち放った。だが、街ひとつ軽く吹き飛ばせる威力を持つブルムンド最強の一撃を、
「エナジーガード」
ホムラは軽々と防いでしまった。
「じゃあ、今度はこっちの番だな」
ホムラは、右手に自分の身長ほどのエネルギー体を作り出すと、ブルムンドへと無造作に投げつけた。
そして、100年前に大陸中を恐怖させた魔王は、この世から永遠に消え去ったのだった。




