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第25話

第25話



 やっぱり、あそこで殺っとくべきだった。


 地下牢のなかで、ホムラは自分の甘さを後悔していた。


 アデルハイドの暗殺未遂による逮捕は、完全な冤罪だった。

 しかし逮捕される直前、ホムラは確かに逮捕理由に近いことを考えていた。そして、そのことをアデルハイドの占い師が予知して、先手を打ってきた可能性もあった。だとすれば、この逮捕はホムラの浅慮が招いたと言えなくもないのだった。


 実際、ホムラは相手を侮っていた。国王から6大占具を使う占い師だと紹介されても「大仰に言ったところで、結局ただの占い」という思いが、払拭できずにいたのだった。

 だが、もしも今回の逮捕が、本当にアデルハイドの占い師の助言によるものならば、その認識を改めなければならなかった。

 とはいえ、それは、ここから無事に出られた後の話。今は、この窮地を脱することが先決だった。


 最大の強みは、ホムラが本当に何もしていないことだった。もし、これが事を終えた後だった場合、それこそ言い逃れの仕様がなかった。

 それを考えれば、これはまだマシな状況と言えた。なにしろ、冤罪を晴らせばいいだけの話なのだから。


 問題は、どうやって冤罪を晴らすかだが、手っ取り早い方法としては、アデルハイドを半殺しにして吐かせることだった。が、これはシャイレンドラが反対することが目に見えていた。

 となると、兵士たちが目撃したという、ホムラに成りすました使い魔か、使い魔に見せかけた何かを操っていた魔道士なりを捕まえることが、もっとも現実的な解決法だった。


 だが、実際のところ、そう簡単な話ではなかった。まず、最初の障害は、この地下牢に張り巡らされた結界だった。


 牢獄には、逮捕されたのが魔術師だった場合を考慮して、鉄格子の他に魔法による障壁が設けられている。しかも、現在は対ホムラ用に、さらに強化されている。

 それでも、ホムラの力なら脱獄できなくもない。が、その場合シャイレンドラが脱獄犯になってしまう。

 いよいよというときは脱獄する気でいるが、それ以外では極力避けたい方法なのだった。


 ただ、このままだと別件で、少ーしだけ困ったことになるのだが、それも今は考えても仕方なかった。


 後は野となれ山となれ。


 ホムラが達観モードに入った矢先、


「いい様だな」


 アデルハイドがホムラたちの前に姿を見せた。その顔は、勝者の余裕に満ちていた。


 アデルハイドは、現在、ある計画を進めていた。

 それは、父親である国王の暗殺計画であり、同時にレイレシアがアデルハイドに持ちかけた話でもあった。

 レイレシアの書いた筋書きは、次のようなものだった。


 まず、明日の夜に、シャイレンドラ・アリスノートを脱獄させる。そしてアリスノートが脱獄した時刻に合わせて、ニセ使い魔により、ベルナール王を暗殺させる。

 そうすれば、国王がいなくなったことで、占い師による王位争奪戦は自然消滅し、王位は通例通り第1王子であるアデルハイドがつくことになる。


 後は、アリスノートと不愉快な使い魔を、逃亡の際に国王を暗殺した犯人として成敗するだけ。そうして、アリスノートを暗殺犯に仕立てた上で、そんな占い師を連れてきたレセルニアスも、連帯責任を取らせる形で極刑を言い渡す。

 こうすれば、アリスノートを逮捕させたことが無駄にならないうえに、邪魔者たちを一掃できる。まさに、これ以上ない理想の展開だった。


 そんな計画の最中、アデルハイドが今日この場に足を運んだのは、最後にアリスノートと使い魔の、哀れな泣きっ面を拝んでおこうと思ったからなのだった。


「貴様らは、近いうちに裁きにかけられ、オレを暗殺しようとした罪により、極刑に処される。せいぜい今のうちに、神に祈りでも捧げておくんだな」


 アデルハイドは笑い飛ばした。こうして死をチラつかせておけば、アリスノートが脱獄することに、なおいっそう信憑性が増すというものだった。


「……おい、バカ王子」


 ホムラがアデルハイドに呼びかけた。


「誰がバカだ! て、貴様、話せたのか?」

「そんなことは、どうでもいい。それより、さっさと俺たちをここから出せ。さもないと、後悔することになるぞ」


 ホムラの忠告を、アデルハイドは鼻で笑い飛ばした。


「後悔するだと? くだらん。封印牢に閉じ込められている今の貴様に、何ができるというのだ? そんな脅しが、このオレに通用するとでも思っているのか? いや、無理はないか。もう、そんな幼稚な脅し文句を並べることしか、貴様らにはできないんだろうからな」


 アデルハイドは高笑った。


「脅しじゃねえよ。おまえは知らねえだろうがな。俺は、これでも昔、勇者をやっててな」

「は? 勇者? 貴様が? ついに恐怖で気がふれたか?」

「つっても、実際のところは、勇者のサポートだけどな」

「サポートだと?」

「簡単に言うと、昔、魔王ブルムンドが復活したことを知った俺は、じいさんとの約束を守るために、勇者を探して、あちこち歩き回った末、ある男に目をつけた」

「ほう? 面白い。遺言と思って、とりあえず聞いてやろう」


 アデルハイドは、ふんぞり返った。


「が、その男は正義感こそ人1倍あったが、とにかくヘタレでな。勇者の鎧を身に着けても、中級モンスターを倒すのが精一杯の有様だった」


 ホムラは、そこでため息をついた。


「仕方なく、俺は勇者の鎧を渡した後も、そいつが勇者として独り立ちできるまでは、と、影からサポートし続けていたんだ。が、これがいつまでたっても、シャンとしなくてな。しかも、肝心なときになると、すーぐ気絶しやがるもんだから、そのたんびに仕方なく俺がそいつに代わって、窮地を乗り切ってやってたんだ」


 あの当時は大変だったが、今となっては懐かしい思い出だった。


「で、なんだかんだありながらも、そいつは仲間とともに、なんとか魔王との最終決戦まで持ち込んだ。が、そこでも、また気絶しやがったんだ、そいつは」


 本当に、どこまでもヘタレな勇者だった。


「で、仕方なく、いつものように、俺がそいつの代わりに戦ったんだけどな。ブルムンドの奴は、さすがに魔王を名乗るだけあって強くてな。倒す寸前までいったんだが、最後は力が足りなくて、封印するのが精一杯だったんだ」


 実際のところ、ホムラが全力を出せば、魔王を倒すことはできた。しかし、その力に勇者の体が耐えられなかったのだった。


 これ以上戦えば、コイツの体が持たない。


 戦いのなか、そのことを察したホムラは、魔王を滅ぼすことをあきらめ、封印に切り替えたのだった。

 しかし、封印されただけだと知れば、どこぞの悪魔信者が、いつまた魔王を復活させようとするかわからない。そこで、ホムラは対外的には、魔王は退治されたことにしたのだった。


「で、その魔王を封印した後、俺はある事情から、ある国と敵対することになってな。もしものときに備えて、魔王の封印形式を変更したんだ。俺が、その封印への力の供給をやめたときには、封印が解けるようにな」


 もし魔王となった自分が、国王軍に倒されたら、魔王が復活するように。死なばもろとも、というやつだった。


「で、その後も、俺はあちこちで、魔王だの魔獣だのを退治してきたんだが、その全部を封印するに止めておいたんだよ。もし、俺に万が一のことがあったときは、そいつらを復活させて、俺を滅ぼした奴を道連れにするためにな」


 ホムラは、クックックッと、わざとらしく笑って見せた。


「このレイバッハにも、確か2、3匹いたはずだ。それに、魔王の奴は、俺のことを、もの凄く恨んでたからな。わしが復活したあかつきには、真っ先に貴様を血祭りにあげてくれるわ! と、思いっきり捨て台詞吐いてたし、もし封印が解けたら、ここにスッ飛んでくることだろうよ」


 ホムラの言葉に、アデルハイドは鼻白んだ。が、なんとか、去勢を維持していた。


「だ、黙って聞いておれば、長々と戯言をほざきおって。そ、そんな脅しに、ビビるアデルハイド様ではないわ」

「脅しかどうかは、すぐにわかる。俺が、ここに閉じ込められてから、1日近く経ってるからな。そろそろ強力な奴なら、自力で封印を解く頃だ。楽しみだな。そのとき、おまえがどんな顔をするか」

「ふ、ふざけるな。そ、そんなバカなことが……」


 アデルハイドは後ずさった。すると、その直後、アデルハイドたちの足元が大きく揺れた。

 この王都は地盤が安定していて、滅多なことでは地震など起きない。それが、このタイミングで起きたということは……。


 アデルハイドは、ホムラを見た。


「デ、デタラメだ! そんなことが、あってたまるか!」


 アデルハイドが、自分に言い聞かせるように叫んだ直後、彼の隣に闇が発生した。そして、闇のなかから人に似て非なる、異形の存在が姿を見せる。

 かつて、この大陸を恐怖に陥れた、魔王ブルムンドの復活だった。



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