第19話
第19話
武闘大会当日、闘技場には朝から人が押し寄せていた。
そして大会開始時刻を迎えたところで、まずベルナール王が大会の開催を宣言した。と、同時に今回、予選会を設けた経緯も説明し、それを聞いた民衆の反応も、おおむね良好だった。
そして始まった予選会は、予想通りの混戦となった。しかし優勝候補に挙げられている選手たちは、混戦をものともせず、順当に予選を突破していっていた。
次期国王候補であるリリアンヌとフィルナスも勝ち上がり、続いてエンゼルの出番となった。
本人としては、最後まで出場を渋っていたのだが、結局フローデンに押し切られてしまったのだった。そのため、エンゼルのモチベーションは、限りなくゼロに近かった。そう、予選の組み合わせが発表されるまでは。
「やっぱり、おまえだったのかよ」
エンゼルが控え室で佇んでいると、見知った顔が軽い調子で声をかけてきた。見ると、それはやはり、以前パーティーを組んでいたフランクだった。
「名前を見たときは驚いたぜ。同姓同名の別人かとも思ったけどな。噂じゃ、街で占いの真似事してるって聞いてたのに、こんな大会に出てるとはよ。よっぽど、金に困ってんのか?」
「……それは、君のほうじゃないのかい?」
エンゼルがそう言い返すと、フランクは鼻白んだ。
「ボクも、君たちの噂は聞いてるよ。君の判断ミスでロンが死んで、それがもとでパーティーが解散したってね」
「あ、あれは、オレのせいじゃねえ! ラルスの奴が……いや、もう済んだことだ」
フランクは息をついた。
「そんなことより、ここで会ったのも神の采配ってもんだ。どうだ、オレと組まねえか?」
「君と組む?」
「ああ、俺が戦い、おまえはそれをサポートする。そうして、オレが本戦に出場したら、おまえに賞金の3割くれてやるよ。な、悪い話じゃねえだろ。こんな大会に出てるぐらいだから、おまえも金に困ってんだろうし。でよ、この大会が終わったら、もう1度パーティーを組もうぜ。あのときは、不幸な行き違いで仲違いしちまったが、もう済んだことだ。一緒に、もう1度一攫千金目指そうぜ」
ぬけぬけと言うフランクを、
「悪いけど、遠慮しておくよ」
エンゼルは冷めた目で突き放した。
「予感がするんだ。君の提案に乗っても、ロクな結果にならないっていうね」
エンゼルがそう皮肉ると、フランクは再び鼻白んだ。
「それに、友達に言われたんだ。君たちと、あそこで縁が切れたのは、むしろ幸運だったんだって。そして、今はボクもそう思ってる。なのに、ここで貧乏クジ引くような真似をしたら、それこそ友達に呆れられちゃうよ」
エンゼルがそう言った直後、係員が次の出場者を呼びに来た。そしてエンゼルとフランクを含めた5人が配置についたところで、審判が試合開始を告げた。
バカな野郎だ! 治癒術士の分際で、本気でオレに勝てると思ってんのかよ!
フランクは、真っ先にエンゼルへと切りかかった。
エンゼルには黙っていたが、フランクはアデルハイドから、エンゼルの抹殺を依頼されていたのだった。
知り合いならば、エンゼルも気を許すはず。その隙をついてエンゼルを始末できれば、フローデンを王位争奪戦から排除することができる、と。そしてフランクも、その依頼を二つ返事で引き受けたのだった。
フランクであれば、ここでエンゼルを殺しても、昔の仲間が過去の確執が原因で暴挙に及んだように見える。そうしてエンゼルを始末した後、アデルハイドが裏から手を回して、フランクを密かに国外へと逃亡させる。
パーティー解散の原因を作ったエンゼルを始末でき、そのうえ大金まで手に入る。フランクにとっては、まさに願ってもない仕事だった。
ありがとよ、エンゼル。おまえは、どこまでもウゼえ奴だったが、最後の最後で、オレの役に立ってくれた。
「あばよ、エンゼル!」
フランクは、エンゼルの首へと剣を薙ぎ払った。しかし、
「な?」
フランクの剣は、エンゼルに届く前に、見えない壁に跳ね返されてしまった。だけでなく、直後にエンゼルから放たれた衝撃波によって、フランクは吹き飛ばされてしまったのだった。
「残念だったね。今のボクは、もう以前のボクじゃないんだよ」
倒れたフランクに、エンゼルはそう言い捨てた。
フランクが自分の命を狙っていることを、エンゼルは天空の鏡によって、事前に知っていたのだった。とはいえ、本当のところ、内心では天空の鏡の力が本当に発動するか、冷や汗ものだったのだが。
天空の鏡には、占い以外の力もある。
古文書から、そのことを突き止めたフローデンは、エンゼルに特訓を強いた。そして、容赦ないフローデンの手ほどきもあって、エンゼルは天空の鏡の力を引き出せるようになったのだった。
「ミラーバインド」
エンゼルは襲い来る選手たちを、鏡の力で次々と弾き飛ばしていった。
そして対戦相手全員を戦闘不能にしたエンゼルは、堂々の本戦進出を勝ち取ったのだった。




