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第18話

第18話



 それは、大会を2日後に控えた夕食会でのことだった。

 その席でアデルハイドが行った提案が、一同に波紋を広げることになった。


「予選会を行う?」


 アデルハイドの提案に、他の弟妹たちは渋面を作った。

 これまで、この大会では、たとえどんなに出場者が多くても、予選は行ってこなかった。

 その長年の慣行を、食う寝る遊ぶしか能のないアデルハイドが、突然変えると言いだしたのだ。となれば、その理由は考えるまでもなく、悪巧みに決まっていた。


「そう、それも5人ずつで戦う集団戦にな」


 アデルハイドの思惑は、余りにもあけすけ過ぎて、妹弟たちは呆れるしかなかった。


「……そして、予選の名目のもと、自分の息のかかった者たちを集団でぶつけて、シャイレンドラ・アリスノートを負けさせようと言うわけか。貴様の考えそうなことだ」


 リリアンヌは、不快感を隠さなかった。


「貴様、兄に向かって、なんだ、その口の聞き方は!」


 アデルハイドは、リリアンヌを睨みつけた。


「血を分けた兄だと思えばこそ、生きていることを許してやっているんだ。そうでなければ、貴様など、とうの昔に切り捨てている」


 こんな男と同じ血が流れていること自体が、リリアンヌには不快だった。


「団体戦では勝てる自信がないから、そんなことを言っているのだろう? 王族だからチヤホヤされているだけの小娘が、姫将軍などとおだてられ、いい気になりおって。自分を強いと勘違いしておるから、いざ自分の実力が試される場となったら怖気づいて、そんな見当違いの言いがかりをつけねばならなくなるのだ。この愚か者め」


 アデルハイドはフンと鼻を鳴らした。


「……ならば、姫様剣法かどうか、貴様が試してみるがいい」


 リリアンヌは怒りの形相で立ち上がった。


「やめとけ、そんな真似したら、このバカの思う壺だろ」


 ニムがリリアンヌを制した。


「なんだと、貴様? 下民の分際で、今なんと言った?」

「ん? 本当のことを言っただけだけど、なんかまずかったかい? ああ、本当のことだから、まずかったのか。ワリー、ワリー。次から気をつけるわ」


 ニムは苦笑しつつ、頭をかいた。


「貴様あ!」

「やめい、アデルハイド」


 激昂しかけたアデルハイドを、ベルナール王が制した。


「し、しかし父上」

「リリアンヌの言い分は、よくわかる。だが、アデルハイドの「最近の闘技会は、マンネリで国民も飽きだしている。闘技会が国民の娯楽であり、ストレス解消を目的に設置されている以上、新しい試みも必要」という意見にも、一理あると思っておる」


 ベルナール王の言葉を受け、アデルハイドは得意げに笑った。すべてはジブリールの受け売りだったが、そんなことはアデルハイドには関係なかった。


「そこで、試みとして、今回の大会では、アデルハイドの案を採用しようと考えているのだが、そなたはどう思う?」


 ベルナール王は、シャイレンドラを見た。 


「これも、アデルハイドの意見ではあるが、もしそなたが本当に前もって、この大会の勝者を占ったのであれば、当然この展開も事前に知り得た上で、優勝すると豪語したのであろう? であれば、予選会を開いたところで、なんの問題もない。そうではないか?」


 ベルナール王の言っていることは、一応筋は通っていた。そして、これも当然のことながら、アデルハイドを経由したジブリールの入れ知恵だった。


 ベルナール王も、それは承知していた。そのうえで、あえてアデルハイドの企みに乗ったのは、ノア・カストロフとの問答があったからだった。


 本当に、シャイレンドラ・アリスノートの使い魔に、そんな力があるのか? あるとして、果たして、この窮地をどう切り抜けるのか? それを、ベルナール王自身が見てみたくなったのだった。

 そして、そんなベルナール王の期待に応えるように、


「はい、問題ございません、陛下」


 シャイレンドラは臆することなく言い切った。


「決まりだ。今回の武闘大会においては、予選会を執り行うものとする。ただし、リリアンヌとフィルナス両名に関しては、予選は免除するものとする。以上だ」

「お待ちください、お父様。お心遣いには感謝いたしますが、王族だからという理由だけで、予選を免れたとあっては、他の出場選手や国民が納得いたしますまい。私とて、予選を怖いから王族の特権で逃げたなどと、後で後ろ指を指されるのはまっぴらで。なにとぞ、私も他の参加者たち同様、予選会からの参加とさせてください。お願いいたします」


 リリアンヌがそう願い出て、


「姉者の言うとおりだ。俺も、予選から参加いたしますぞ、父上」


 フィルナスも姉に賛同した。


「……よかろう。そこまで言うならば、好きにするがいい」


 ベルナール王が決を下し、この日の夕食会も波乱含みで幕を閉じたのだった。


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