第20話
第20話
夕暮れ時を迎え、予選も最後の一戦を残すのみとなった。
しかし、その最終戦は、これまでと違う様相を呈していた。
これまで、予選は5人単位で行っていたにも関わらず、最終戦だけ出場選手が9人になっていたのだった。
「どういうことだ!」
この変更に、真っ先に声を上げたのは、レセルニアスだった。
「出場選手を、切りよくするためだ。今回の出場者は324人だったのでな。5人ひと組で区分けしたら、4人余ったから、その余りを全員最終組に入れたまでだ」
アデルハイドは、しれっと答えた。
「ふざけるな! だったら、1人シードにすれば済んだことだろうが!」
「本人たちが望んだことだ。まとめて戦ったほうが手っ取り早いとな。それに、最終戦を、これまでより大人数で戦わせれば、庶民も変化があって面白がるだろうしな」
「ふざけるな! こんな勝負は無効だ! 今すぐやめさせろ!」
「貴様! 誰に物を言っている? それに、あの女は、この未来を予知したうえで、大会に出てきたのだろう? だったら、なんの問題もないはずだ。違うか?」
アデルハイドは薄ら笑った。
「貴様……」
レセルニアスが怒りに震える横で、審判が試合の開始を告げた。
「ま、待て、この試合は」
レセルニアスは試合を止めようとしたが、すでに選手たちは動き出してしまっていた。そして予想通り、その全員がシャイレンドラに切りかかっていた。
「シャイレンドラ殿!」
レセルニアスは、自分の浅慮を後悔した。兄が何か企んでいることは、当の昔にわかっていた。それなのに、シャイレンドラの厚意に甘え、出場を認めてしまうとは。後悔しても、しきれなかった。
せめて、無事に終わってくれ。
レセルニアスは、そう願うばかりだった。
しかし、そのレセルニアスの願いは、ある意味裏切られることになった。
選手たちがシャイレンドラを切りつけようとした瞬間、まとめて吹き飛んだのだった。
「な、何が起こったのだ?」
それは、レセルニアスだけの疑問ではなかった。あまりに一瞬のことで、観客たちも声を失い、闘技場は静まり返っていた。
「シャイレンドラ・アリスノートが、内に秘めたエネルギーを放出して、対戦相手を吹き飛ばしたのですよ」
同席していたノア・カストロフが解説した。
「エネルギー? 放出?」
「エネルギードレインの逆バージョンと言えば、わかりやすいですかな? 彼、いや彼女は、突き出した右手から体内エナルギーを放出することで、向かってきた選手たちを吹き飛ばしたのです」
ノアはそう言うと、席から立ち上がった。
「さて、では試合もすべて終わったようですし、私はこれで失礼させていただきますかな」
ノアが会場から歩き去る横で、アデルハイドは色を失っていた。
自分の計画は、完璧なはずだった。どんなに腕に自信があろうと、しょせんは小娘。9人でかかれば、八つ裂きにできる。そう思っていたのだった。
「どうなっているのだ! 貴様、こうなることがわかっていたのか!」
部屋に戻ったアデルハイドは、例によってジブリールに八つ当たりした。
「このままでは、本当にあの女が優勝してしまいかねんぞ!」
「それで、よろしいではありませんか、殿下」
ジブリールは穏やかに答えた。
「なんだと?」
「たとえ、この大会の勝者が、シャイレンドラ・アリスノートになったとしても、それは陛下が出した最初の課題をクリアしたに過ぎません。そして、宝玉を失ったシャイレンドラ・アリスノートには、次の課題をクリアすることは不可能です。今、彼女が行っていることは、最後の悪あがきに過ぎません。ならば、ここは静観しているほうが正解かと。ここで、下手に何かを仕掛ければ、ヤブをつついて蛇を呼び出すことになりかねませんので」
「それは、どういう意味だ?」
「アリスノートの使い魔です。殿下のご推察の通り、先程のアリスノートの強さは、彼女自身のものではありません。あれは、彼女が連れている使い魔が、彼女に憑依して力を貸した結果なのです」
「なんだと? では、あの小娘、ルール違反を犯していたのか?」
自分のことを棚に上げて、アデルハイドは憤った。
「そこは、微妙なところでございましょう。この大会では、1対1で戦うことは規則として明記されておりますが、魔法やマジックアイテムの使用は禁止されておりませんから。あの使い魔も召喚獣の一種と考えれば、ルール違反とまでは言いきれないかと」
魔法使いが大会に出ないのは、あくまでも呪文を唱えている間に切り倒される可能性が高いため、参加しても勝ち目がないからに過ぎないのだった。
「それに、先程も申し上げましたように、ここでアリスノートの反則を追求なさいますと、さらなる混乱を招く恐れがございますので」
「どういうことだ?」
「殿下がアリスノートの反則を指摘された場合、おそらく陛下は今日の結果はそのままに、これ以後の使い魔の助力を、アリスノートに禁ずることになりましょう。そして、そうなればアリスノートが優勝することは、かなり難しいことになります。そして、そうなった場合、あの使い魔は別の手段を取ることになるのです」
「別の手段だと? その状況で、何ができるというのだ?」
「はい、この大会に出場している、アリスノート以外の者を戦闘不能にしてしまうのです」
「なんだと?」
「そうすれば、戦える者はアリスノート1人となり、不戦敗によってアリスノートの優勝となりますので」
「そんなこと」
できるはずがない。と言いかけて、アデルハイドは言葉を飲み込んだ。確かにあの強さなら、それも可能かもしれなかった。
「そして、その場合には、殿下もタダでが済みません。自分の邪魔をしたとして、下手をすれば、今度こそ命を奪われかねないのでございます」
ジブリールの言葉に、アデルハイドは息を呑んだ。あの使い魔なら、確かにやりかねなかった。
「おのれ」
アデルハイドは親指の爪を噛んだ。
「いや、待てよ。そういうことなら……」
アデルハイドの頭に、ひとつの案が浮かんだ。
この方法なら、今度という今度こそ、奴らを始末できる。
そのときのレセルニアスたちの泣きっ面を想像すると、アデルハイドは今から笑いが止まらなかった。




