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第13話

第13話



「え?」


 部屋に戻ったシャイレンドラの口から、戸惑いの声が漏れた。


「どうか、なさいましたか?」


 ホムラが様子を見ると、シャイレンドラは鞄を前に色を失っていた。


「宝玉がないんです」

「宝玉?」

「はい。わたしは占いに「精霊の宝玉」という道具を使うんですが、それがどこにもないんです」

「なに?」

「確かに、ここに入れておいたはずなんですが」


 シャイレンドラは鞄を開いた。しかし、それらしい玉は、どこにもなかった。

 どこかに置き忘れた。という可能性も考えられたが、ホムラが知る限り、シャイレンドラが鞄から、それらしい玉を取り出したことは1度もなかった。

 そうなると、考えられる可能性は、ひとつしかなかった。


「盗まれたか」

「盗まれた?」


 ホムラの推察に、シャイレンドラから驚きの声が返ってきた。そんなこと、考えもしなかったという顔だった。


「ああ、じゃなかった、そうでございます。わたくしが推察しますところ、おそらくご主人様の宝玉は、他の占い師か王子に盗まれたのでございましょう。理由は、言わずともおわかりでしょう」


 そしてホムラの見るところ、アデルハイドの仕業である可能性が、もっとも高かった。というか、ほぼ間違いなかった。


「……それは、レセルニアス様を王位争奪戦から脱落させるために、ということですか?」

「それと、あなた様への仕返しのため」


 ホムラも、完全に油断していた。昼に、ひと悶着あった時点で、アデルハイドが何か仕掛けてくることは十分考えられることだった。せめて事前にシャイレンドラから占い方を聞いておけばよかったのだが、今さら言っても仕方なかった。

 今すべきことは、この状況をどう打開するか、だった。


「だったら」


 シャイレンドラは立ち上がった。


「どうするおつもりで?」

「決まってます。アデルハイド様のところです。もし、本当にあの方が盗んだのだとすれば、なんとしても取り返さないと」

「盗んだか? と問いつめられて「はい盗みました」と答えるぐらいなら、最初から盗みなど働かないと思いますが?」

「で、では、王様に言って」

「それも期待薄でございましょう。確かに、客人として招いた者が王宮内で窃盗にあったとなれば、本来王家の警部不行き届きとなりましょう。ですが、今回は別です」

「ど、どうして?」

「それは、ご主人様が占い師だからでございます。どうも、あの王は占い師と予知能力者を混同している節がございます。もし、ご主人様が宝玉を盗まれたと報告すれば、そのときは「占い師のくせに、その程度のこと、あらかじめ察知できなかったほうが悪い」と一刀両断されるのがオチでございましょう」

「そ、それは……」

「はい。占い師は自分の未来を占ってはならないのですから、仕方がありません。しかし、あの王がその言い訳を聞き入れるとは思えません」


 ホムラの推測に、シャイレンドラは言葉を詰まらせた。


「それに、もし探してくださるとしても、そのときはご主人様の評価は確実に下がることになるでしょう。下手をすれば、その時点で王位争奪戦から脱落してしまいかねませんが、それでもよろしゅうございますか?」


 ホムラとしては、そのほうが都合がよかったが、それをシャイレンドラが承知しないこともわかっていた。


「ご主人様としては、自分のせいでレセルニアス様にご迷惑をかけることは、できれば避けたいとお考えなのでございましょう? でしたら、王に助勢を求めるのは、控えられたほうがよろしいかと」

「……そ、それは、そうですけど、だったら、どうしたら……。どちらにしても、あの宝玉がなければ、わたしは占いができないんです」


 シャイレンドラは、思いつめた顔で押し黙ってしまった。そんなシャイレンドラの様子をうかがいながら、ホムラは考えていた。


 シャイレンドラの安全を考えれば、このまま王位争奪戦から脱落したほうがいいに決まっている。だが、そうなるとシャイレンドラは、この先もずっと自分を責め続けることになるだろう。


 なんで、あんなゴミクソ野郎のために、シャイレンドラが傷つかなきゃならんのだ。ふざけんな、ボケ!


 それが、ホムラの出した結論だった。


「御主人様、もしどうしても、御主人様がレセルニアス様に御迷惑をおかけしたくないとお考えでしたら、わたくしに1つ策がございます」

「え?」

「採用するかどうかは、御主人様しだいでございますが」


 そう前置きすると、ホムラはシャイレンドラに自分の考えを伝えた。そしてシャイレンドラは戸惑いつつも、その案を受け入れたのだった。


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