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高利貸師〜勇者が世界を担保にしたので、魔王に債務整理を要求します〜  作者: つのん。


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第6話 債務予定者

「本当に来てしまった」


「今さらだな」


魔王城の門前で、ベルナールは顔を白くしていた。

門番の魔族がセレーネに膝をつく。


「セレーネ様。その人間は」


「魔王様への面会者です」


「人間が?」


「請求者です」


俺は封筒を出した。


「これを先に渡せ」


「何だ」


「請求書だ」


門番は受け取らない。セレーネが受け取り、渡した。


「玉座の間へ」


黒い門が開いた。

中は広い。魔王軍の兵が左右に並び、どの顔も敵意を隠していない。

赤い絨毯の先、壁には倒した王国騎士の盾や折れた槍。


そして玉座の間。

そこに聖剣があった。


玉座の横に無造作に突き立てられている。刃は欠け、柄には血の跡。聖なる光はほとんど消えかけていた。

まだ価値はある。リディアが俺の貸付金でたどり着いた装備の中で最も高い資産だ。


「保管状態が悪いな」


胸の奥で契約線がかすかに震えた。

俺は眉を寄せる。


「今、それを言いますか」


ベルナールが青ざめた。

玉座の上に、魔王がいた。


巨大な体。黒い角。赤い瞳。片手には城門ほどもある大剣。

ただ座っているだけで、玉座の間の空気が沈む。


勇者が敗れた理由は分かった。これは強い。剣では勝てない。

だから剣で来なくて正解だった。


「貴様が、高利貸しか」


「ロアン・グリードだ」


「我に請求書を送ったな」


「送った」


「我を誰だと思っている」


「債務予定者だ」


玉座の間の空気が凍った。

セレーネは目を閉じた。


「人間。死にたいのか」


「死ぬと回収効率が落ちる。できれば避けたい」


「勇者は我に敗れた」


「知っている」


「王国は震え、教会は沈黙し、貴族は逃げ支度をしている」


「それも知っている」


「ならばなぜ我の前に立つ」


俺は鞄を開けた。契約書、帳簿、請求書、担保鑑定の銀板。


「勇者リディア・アルフェンへの貸付金、金貨10万枚」


契約書を置く。


「利息。遅延損害金。担保権発動」


請求書を置く。


「魔王軍による担保価値毀損。勇者取得資産の不法占有。占領地破壊の原状回復費」


俺は魔王を見上げた。


「請求に来た」


魔王は黙った。次の瞬間、玉座の間が震える。

笑っていた。


「面白い。勇者は剣を持って来た。王は兵を送った。教会は祈りを送った。請求書を持って来た人間は初めてだ」


「初回請求だ。支払期限は短い」


魔王の笑みが消えた。


「我が払うと思うか」


「思っていない」


「ならば、なぜ請求する」


「払えないことを確認するためだ」


「何?」


「魔王軍は支払不能だ」


玉座の間がざわめいた。


「黙れ!」


魔王の声で兵たちは沈黙する。


「兵の未払い賃金。占領地の生産低下。補給路の維持費。反乱鎮圧費。来年税収の消失。ついでに聖剣の保管費も雑だ。全部、帳簿に出ている」


魔王はセレーネを見た。


「セレーネ」


「・・・一部事実です」


「一部?」


「かなりの部分が、事実です」


玉座の間が静まり返った。

俺は銀板を掲げる。


「お前は強い。魔王としては申し分ない」


「統治者としては大赤字だ」


「殺すぞ」


「殺せば、債務は増える」


「我を脅すか」


「請求している」


魔王の魔力が膨れ上がる。ベルナールが膝をつき、魔族兵たちでさえ顔を歪めた。

それでも俺は立っていた。


怖くないわけではない。ただ、怖いかどうかは帳簿に関係ない。


「お前は世界を壊せる」


俺は言った。


「世界を維持できない」


魔王の大剣がゆっくり持ち上がる。


「もう一度言ってみろ」


「壊す力と維持する能力は別物だ」


刃が振り下ろされた。

ベルナールが叫ぶ。セレーネが息を呑む。魔族兵たちが笑いかける。


大剣は俺の首に届く寸前で止まった。

銀色の鎖が刃に絡みついている。


契約魔法《絶対履行》。


「何だこれは」


「担保保全中の債権者を殺せば回収不能になる。契約が妨害行為と判断した」


魔王が力を込める。鎖は軋むが切れない。

神でも破れない。なら魔王でも破れない。


「話を続けよう」


魔王の大剣が下がった。

俺は最後の1枚を出す。


「魔王軍支払不能確認書。および再建計画提出命令」


「我に命令だと」


「返済不能なら再建計画を出せ」


俺は魔王を見た。


「滅亡は認めん」


その瞬間、玉座の横の聖剣がかすかに光った。

弱々しい光だった。


胸の奥で契約線が震える。


死んだ債務者からは取り立てられない。

なら。


リディア・アルフェンは、まだ死んでいない。


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